午前八時四五分、調布飛行場発神津島行き、三〇一便。低い天井と狭いシートに膝を詰めて座る。十二人の客を乗せた小型のプロペラ機は晩秋の東京の空へ軽やかに飛び立つ――。
 ASA調布西部から神津島空港に新聞が届けられている。二十年以上続いているたった一部の配達だ。ただしスタッフが見届けるのは調布飛行場まで。そこから先、神津島空港に届いた新聞がどのように受け取られ、置かれているのか、この目で確かめてみたい、と本紙六月号に書いた。
 その後、悪天候のためフライトが当日キャンセルになったり、新型コロナウイルスが再拡大したり、来島が延びてしまった。
 調布から神津島までの距離は一七二㌔。これを半径として円を描けば、北は福島、新潟、長野。西は静岡を越えて愛知まで。けれども神津島は東京都。島では品川ナンバーの自動車が走り、家の壁には東京都選出の政治家の顔が貼ってある。
 さて本題。同じ飛行機に揺られて神津島空港に到着した昨日の夕刊と今朝の朝刊は、乗客の荷物とともに降ろされて空港カウンターの係員の手元に届く。それから待合室の新聞ラックにかけられて、お役御免。
 ずいぶん遠くまで運ばれてきたわりにあっさりしたものだ。でも、それは新聞がそこにあって当然という顔をして日常生活に溶け込んでいる、ということでもある。そよかぜはたしかに神津島まで届いています。

(『そよかぜ』2021年12月号/ひとやすみ)