コロナ禍三年目の春である。
 まちかどにはにぎわいが戻りつつある。ずっと張り通しだった気も緩み、久しぶりに温泉にでも浸かりたい。ぐぐっと伸びをして、体を解放する。ああ、春だ。
 本紙二〇一八年四月号の冒頭にこう書いている。
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 ある人が言った。「この季節の野川のほとりを昼間散歩していると、天国ってこういう感じなんだろうなと思うのです。いい天気の下で桜がきれいに咲いて、川が流れて、足元には緑があって。子どもが遊んで、おとなものんびり散歩していて。ああ、いいなあって」
 心が震えるほどの感動というのは壮大なドラマの頂点にあるのではない。取るに足らないほどの、身近な小さいものの中にこそある。
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 天国もあれば地獄もあるのが人の世か。この時代にあって戦争が起こり、地上戦で人が死ぬ。金銭的、肉体的、社会的に弱い立場の人々は国外へ逃げ出すこともできず、コンクリートの床に座り込み、寒さに震えて毛布にくるまる。
 ふつうの暮らし、ふつうの幸せを守るために何ができるか。いま一度心に刻む春の一日。

(『そよかぜ』2022年4月号/このまち わがまち)