日本の十五夜にあたる中秋節は、秋の収穫を神に感謝する中国のお祭りだ。中華系民族がおよそ74%を占めるシンガポールでも、この時期街中には灯篭が飾られ、中華系の人たちは家族で過ごしてお祭りを祝う。この中秋節に、知り合いや付き合いのある会社間で月餅(げっぺい)というお菓子を贈り合う風習があるのだが、最近これついて大きな疑問を感じた。

 

月餅というのは、ハスの実の餡に月をイメージした塩漬けしたアヒルの卵の黄身を入れ、生地に包んで焼いたものが定番で、高さ4~5センチ、手のひらくらいの大きさの円柱形をしている。ずっしりと重く油っぽく、一人で丸ごとは食べられないので、櫛形に切り分けて皆で食べる。

 

味はというと、不味くはない、が進んで食べたいほど美味しくもない。月餅になじみのない外国人のみならず、本家の中華系の人たちでさえも、喜んで食べているようには見えない。というのも、少なくともシンガポールにいる5年の間に「月餅が好きです」と言って食べている人を私は見たことがない。会社に送られてくると、私ともう二人のスタッフが皆に配るの役目なのだが、いつも引き取り手に困る。

 

先日も会社宛に、立派な化粧箱に入ったものが4つ送られてきた。イスラム教で認められているハラル食品ではなかったので、ムスリムの私にはなおさら必要ないのだが、どうしてもという同僚の勧めで仕方なく1つ受け取った。中華料理はお菓子を含め豚肉やラードを頻繁に使用するので、確証がないまま口にするのはリスクが高い。捨てるわけにもいかず、結局、家の2つ隣の中華系のご家族に差し上げた。好意で受け取ってくれたが、先方のご家庭でも食べ手がいなくて困っていないことを祈るばかりである。

 

さて、私の感じた大きな疑問というのは、どうして誰も喜ばないものを皆で贈り合うのか? ということだ。一部の根強いファンがいるのだろうか? 最近はクリーム系の餡を求肥のようなモチっとした生地に包んだ「スノースキン」タイプも出回っており、こちらは現代風の味付けでわりと喜ばれるのだが、日持ちがしないのが弱点で古くからの月餅の代わりとなるには少し力不足だ。

 

本家の中華系民族の人たちからしたら余計なお世話かもしれないが、古き良き伝統も、単なる繰り返しによる保存ではなく、情報更新して現代に合ったアレンジを加えていったほうが、より生き生きとした文化として残っていけると思う。

 

サルマ