何かに行き詰まったとき、余裕がないとき、外に出て散歩をする。どこに行くか、どこまで行こうかなんて、目的地は決めないほうが楽だ。満足するまで、ひたすら歩く。ただそれだけの行為。必要最低限のモノをポケットに詰め込んで、身軽に自分のペースで、自分だけの時間を堪能する。
この日、履いていたジーンズは、数年前に古着屋で購入したLevi's 701。Levi'sのジーンズは、もともとは鉱山で働く男性向けの、丈夫で動きやすさを追求した「労働服」として誕生した。それがいつしか、ファションアイテムとして、唯一無二の存在に定着し、性別、年齢を問わず幅広い層に愛され続けている。
男性用労働服として、根強くあったジーンズの固定概念を、一本の映画が見事に覆した。1954年の映画『帰らざる河』のなかで、マリリン・モンローがジーンズを履いたことがきっかけだ。可愛さ、妖艶、色気といった彼女独自の個性を損なうことなく、一本のジーンズを履きこなす、その姿は、当時の人々に大きな反響を生み、同時に世の女性へジーンズの関心を高めた瞬間となった。モンローのLevi's 701はジーンズの新たな可能性を広げた。
モンローが、私生活でもLevi’s 701を愛用していたのは有名な話。いつしかLevi's 701は、モンローが愛したデニム、『モンローデニム』の愛称で呼ばれるようになった。当時の写真や動画で、ジーンズ姿の彼女を見ると、美しいとか、可愛いといった憧れのほかに、自然体な彼女の姿に、一人の女性なんだと、親近感を抱いてしまう。自然体と自由は、どこか似ていて、当時の女性たちに「女性としての存在価値や生き方」の選択肢を広げたのではないだろうか。
巡りめぐって、私のところにやってきたモンローデニムは、履いていると自然体で自由な自分でいられる。少なからず私も彼女に影響を受けた一人ということだ。何年も履き続けているせいで、クタクタになりつつあるが、まだまだ手放すには惜しい存在だ。
比屋根ひかり