新型コロナウィルス対策として経済活動を制限していたシンガポールでは、6月19日から制限緩和の第2段階に入った。単独での生活必需品の買い出し程度しか外出が認められなかった以前に比べ、現在は家族や友人と一緒にショッピングや外食を楽しむ人の姿が見られ、街は緩やかに活気を取り戻している。
外を歩く人全員がマスクを着用していることや、他の客と距離を取れるように飲食店のテーブルや椅子に使用禁止のバツ印がつけられていること以外に、以前の街並みと大きく違う点がある。店舗や企業、施設の出入り口にQRコードが貼り出してあることだ。政府が導入を義務付けている個人情報記録アプリ「セーフ・エントリー」。入店時にスマホで読み取り、入出を登録すると、政府が運営する身分証明アプリに記録される仕組みになっている。誰がいつどこにいたかを追跡でき、感染者が出た場合には接触者を把握することができる。
今までも空港の自動化ゲートやネットバンキングの使い勝手が非常に良いと感じていたが、この度の非常事態で改めてこの国のICT(情報伝達技術)化の先進性に驚いた。2016年のGlobal Information Technology Reportによれば、世界139か国を対象とした「ICT活用度ランキング」でシンガポールが1位となっていた。限られた人口で国の生産性を上げるため、政府はICTを活用し、作業効率を上げることに注力しているのだ。
現在、外国からシンガポールに入国した人は、14日間の隔離生活が義務付けられているが、ここでもICTが活躍している。「ホーマー」というアプリを使って、1日3回、体温や咳などの諸症状がないかどうかを報告する。GPSでその人が指定された場所にいるかどうかも管理される。
これまで数回にわたり経済対策がとられてきたが、国民個人への補助金についても、身分証明番号に銀行口座番号が紐づけられており、発表から程なくして口座に振り込まれた。日本では特別定額給付金の振り込みが滞り、デジタル化の遅れが浮き彫りになったが、このくらい早ければ、倒産せずに済んだ企業もあったかもしれないと漠然と思った。
長らくの自粛生活で人とのふれあいの尊さを実感する一方で、情報伝達技術が安全や社会活動の維持に必須になりつつある事実にハッとする。こういった情報処理能力の高さが間接的にでも人のQOLの向上に有利に働いているとすれば、デジタルが自然淘汰にさえ影響を及ぼす時代もそう遠くない。
サルマ