満開のピンクと青色が目の中いっぱいに広がった。ピンクは艶(あで)やかに、静かに揺れている。今年の桜は一段と凛々しく、儚(はかな)くて美しい。
私はというと、スッピンに分厚いレンズの眼鏡、それに大きめのマスクを着用し、右手に買い物袋を持っている。いわゆる、「ちょっと近くのコンビニまで行ってきます」(手抜き)スタイルだ。目の前の美しいものと、あまりにも対照的すぎて、申し訳ない。
ふと、シンガーソングライターのChara(チャラ)が頭に浮かんだ。彼女は、目の前の美しい桜と似ている。彼女の歌声と歌詞は、ガーリーで可愛らしいのに、どこか儚げなのだ。その魅力は彼女自身からも滲みでている。私よりも、うんと年上なはずなのに、〈少女〉と〈女性〉の間を生きているような艶やかさがある。
Charaのシングル曲に、『大切をきずくもの』という歌がある。この歌は、自身が息子を授かったときに、ある日自分が死んじゃったらどうしよう? という思いから、息子への遺書として書いた曲。いつものガーリーで可愛らしい彼女とは、また違った、母親が尊い命へ向けた優しくて、あったかい歌詞でできている。
ある雑誌の記事で、彼女は、「私は愛する人のために歌う女だから」と、さらっとかっこいいことを語っていた。彼女の歌詞には、「愛」という言葉がよく出てくる。デビュー当時から変わらない、いつまでも恋する女の子のようなガーリーさや、母親としての一面。どちらの顔も、愛する人への素直な気持ちをCharaらしい言葉で、真っ直ぐ表現している。そんな彼女はやっぱり美しいと思った。
桜の花言葉は「精神の美」「優美な女性」。精神の美とは、内面的な心の美や生き方。優美な女性とは、姿勢や態度、振る舞いに品があって美しい女性。
ひらひらと散ってゆく花びらを眺めながら、「ちょっとコンビニ行ってきます」スタイルを改めようと思った、春の日。
比屋根ひかり