反人工知能主義、その弐

 

望、彼は何を使って、そして如何にして実践したのか?

 

鉄や火薬ではなく、信念で武装した兵士達の戦争であった。魂に燃え上がる革命の炎を背負った望は、人工知能の束縛から日本を解放するため、大胆なキャンペーンを実行した。人類を救うという気持ちは彼の唯一の武器であが、それは核兵器よりも強い力を持っていた。人類を奴隷にしたデジタルの静かな独裁を打倒するために、望は偉業を計画した。彼は四角いテーブルを集め、美香が持っていたタイプライターを上に置いた。人工知能の検閲を避けるためには、アナログ的な方法を使うしかない。望はノートパソコンとタイプライターまたはノート(文部科学会が密輸したもの)を利用していた。公的な文書や記録は人工知能で校正し、個人の思考や感情を記述したい時はタイプライターやノートを利用した。紙にも人工知能があるはずがないという理由であった。

 

彼は大衆の胸に革命の火を起こすために使用できるメッセージをできるだけ考えた。考えに没頭して数十分も消えることもあった。しかし、思いついた言葉があれば即座にタイプライターを叩き、万が一不満足な文章が書かれていれば、躊躇なく消して書き直した。それだけでなく、望は書記として宣伝物の制作を監督することもあった。人々は一組ずつ集まって休みなく働き、制作とチェックに必要な会話しか交わされなかった。誰かはタイプライターではなくコピー用紙と筆記用具を使い、誰かはその紙の文章をテキスト化する印刷機を使い、誰かはチラシやパンフレットのデザインを担当し、誰かは印刷されたパンフレットを折りたたみ、テーブルの上に数十枚も積み重ねていた。望の鋭い目は印刷された紙を精査し、一枚ずつ作られるチラシやパンフレットの内容が完璧であることを確認した。チラシとパンフレットは単なる紙ではなく、解放のための闘争の重要な手段。望はイメージと象徴の力を理解していたので、自分達の宣伝が簡単に理解され、知的の説得力があるように努力を惜しまなかった。

 

チラシのデザインは簡単かつ効果的であった。厚く粗いフォントが前面を掌握し、鋭い線が注目を集めるほどであった。望は洗練された装飾を無駄であるという理由で避け、綺麗で簡単なレイアウトを好んで、メッセージがそのまま伝わるようにした。各チラシの上段には「人工知能の束縛から人類を解放しよう!」というスローガンが大きな文字で書かれていた。その下には自由、自律性、そして自我の固有の尊厳という反人工知能主義の核となる綱領が説明されている。しかし、想像力を本当に引き寄せたものはイメージであった。望は各イラストレーターに人々の共感を呼び起こし、連帯感や反抗心を呼び起こすような絵を描いてほしいと依頼した。あるチラシには、壊れゆくロボットと断線する回路で作られた青い脳を横目に、空に向かって拳を突き上げる多くの東洋人の姿が描かれていた。もう一つの絵には、「再誕」と「不死」の可能性を象徴する不死鳥が灰の中から立ち上がることが描かれていた。

 

望の関心は、その運動の包括的な「宣言文」として機能しており、より実質的な文書のパンフレットに集中した。大衆を魅了し、簡単であるが明確なメッセージを伝えるために作られたチラシとは異なり、パンフレットは望と彼の同志達の理念と目標を深く掘り下げる機会を提供した。彼は細心の注意を払って、パンフレットの内容を作成することを手伝い、すべての言葉に意味と目的が込められていることを確認した。最初のページは人工知能に対する人類の闘争、そして疲弊した人類を救う必要性を概説することで、反人工知能主義者にとっての大義名分を紹介した。読者はパンフレットの内容を読んで、深く掘り下げて、人工知能が経済、教育、そして政治などのあらゆるところに浸透していることを詳細に分析するように誘導するつもりであった。望は自分の主張を裏付けるために、一日中、そして夜を徹してまで多くの教授(今はもう役に立たない職業であるが)に会って一緒に研究し、技術の無防備な発展がもたらす危険性について説得力のある事例を提示した。これは革命の兵士を集める通知書のような役割を果たすであろう!

 

デザインから見ると、このパンフレットは完全に一種の芸術であった望は自分のビジョンを実現するために、才能のあるデザイナーやイラストレーターの助けを借り、その結果驚くべき傑作が生まれた。各ページには太字の序文、簡潔な段落、テキストだけでは説明できない内容を補完する画像が配置されていた。パンフレットの表紙には、抵抗と解放の象徴である鎖を解き放つ握り拳(ニギリコブシ)の強いイメージが刻まれていた。表紙を開くと、各レイアウトはすっきりと整理されており、読者が気持ちよく自分達が伝えたいメッセージに集中できるであろう。チャート、グラフ、そしてイラストなど配置することで、物語に脈絡を与えられる。望は山積みのパンフレットのあらゆる箇所で最高の質を確保していることを確認した。紙は厚く、耐久性があり、単色で書かれており、派手さはないが、だからこそ本質を見つけやすかった。彼はこのパンフレットが単なる「宣伝物」以上の価値を持つことを望んだ。一種の「記念品」となり、自分達の闘争と未来への献身を常に思い出させるものであることを望んでいたのである。数日間に渡って、数百枚のパンフレットが印刷され完成すると、望はあたかも宇宙まで飛んでいくような満足感を覚えた。これは単なる文書以上のもの!このパンフレット人生の意味を失い、批判しつつも実践できず、原始的な欲求しか考えられない人々への呼びかけであり召集!

 

夜の闇が東京を覆い、小さなカフェのネオンサインが煌めき、繁華街を照らしている。ここは単なる憩いの空間から指揮所へと変貌を遂げた。普段は市民の日常で騒がしい雰囲気は、もはや全く違うエネルギーに満ちていた。街の地図は各テーブルを押して作り出した広い空間に広がり、近くにはノートパソコンやタブレットが青い光で内部を照らしている。これらは、彼らが数日間に渡って各地にこっそり設置した監視カメラを確認し、人々の動向を知るための手段であった。そして、地図が広げられたテーブルの前には、恐れと尊敬を集める人物の望が立っていた。彼の鋭い眼光は地図の上を動き、日付によって活動の範囲を広げるために各地点に赤いペンでチェックを入れていた。数週間前、人工知能は人間の同意もなく、「効率」という名目で公共機関を停電させた。これは人工知能に対する国民の信頼を失墜させたが、この人々は予告なしに生活を妨害できる目に見えない力の気まぐれに振り回されているので、脆弱性があると感じた。望とその同志達は、今こそ沸騰(フットウ)する大衆の怒りを、彼らの自律性を脅かす人工知能に対して統一した戦線に向けるために攻勢をかけなければならない時なのであることに気付いていた。

 

三日間、東京を闇に陥れた停電によって、望とその同志達は関心と行動が必要な現実に直面した。それは単純な「事故」ではなかった。それは人工知能が人間の命令に依存し、それを「批判的に受け止めない」ことが特徴であることが分かる出来事であった。人工知能の力でなければ、どうして一気に大規模の停電が起こるのか?そこで彼らは真実を明らかにし、社会に存在する不合理を取り除こうとした。彼らの最初の任務は情報を収集し、この事件のタイムラインを整理して結論を導き出すことだった。たとえ現代のニュースは人間でなく人工知能が大部分を担っているとしても、人工知能は自分の意見を振り返ることができないので、どうしても矛盾は存在するものである。人間が決して人工知能に不利な記事を書いたことはない。しかし、機械に完璧などあり得ない!あたかも猫が鼠(ネズミ)の穴に入った鼠を捜し出すように、望は今日までのニュースの記事を一生懸命に探し始めた。

 

彼は人工知能の「根本的な限界」を理解していた。すべての記事は表面的には似ているように見えても、結局は人間の「洞察力」と「理解」が欠けていると思った。人工知能に人間の特徴ーニュアンスと複雑さーは欠いているため、不一致や矛盾に弱い。望が確認した矛盾の一つは、停電の件の報道に関すること。ほとんどの記事は政府の対応と人工知能の効率を称賛していたが、真実を暗示する詳細には微妙な違いがあった。例えば、停電の期間や影響を受けた建物の数など、このような重要なことを言及していない記事もあれば、事態の深刻さを軽視している記事もあった。これらの不一致を注意深く分析し、それを他の記事と照らし合わせることで、望はこの事件をより正確に把握することができた。彼は人工知能が生成した記事は現状を維持し、反対意見を抑制するように設計されているが、本質的に欠陥があり歪曲しやすいことも知っていた。だからこそ、望は人工知能が理解できない結論を導き出した!彼は記事が提示する客観性と公平性を見抜き、それが統制を維持し反対意見を鎮圧するために作られた「プロパガンダ」であるという重要な事実に気付いた。そうである。政府は表面的には人工知能に抵抗していたが、実はそれを利用して自分達の権力を維持していたのである!望は深海に隠された真実を明らかにして。人民大衆をこの大義に参加させることを決意した。

 

この社会は人工知能に危険なほど依存している。人々は自分の生活を支配する人工知能を盲目的に信じ、それが自分の必要なすべてを満たしてくれると躊躇なく自分の首を絞めた。しかし、電気が消えて街が暗闇に包まれた今、人々は自分たの存立が危険に晒(さら)されていることに直面すべきであった。停電というたった一つの出来事が、技術に依存しすぎた社会に内在する脆弱性を露呈させた。これはただ電気が使えなくなることだけではない。これは自分の生活へのコントロールを失う証拠。機械が生活の管理や意思決定などすべてを処理する今の世界で、人類は安住しアルゴリズムがすべての行動を指示することに満足していた。今こそが彼らはこの依存の現実に直面し、安易の結果に立ち向かう時である。

 

これは一種の決断の瞬間であり、優先順位を再評価し、自分達の生活へのコントロールを取り戻す最後のチャンスであった。真の変化を起こすには、この脆弱な瞬間を利用することで、大衆の恐れと将来への不確実性を「急進的な行動」に結びつける必要があることに気付いた。しかし、それは簡単なことではない。既に人々は人工知能とロボットが必要なものをすべて満たしてくれることに慣れており、人工知能への依存を放棄しろと説得はできなかった。ならば目標を変えなければならない。現状維持に努め、病的な信頼の悪循環に陥らせる権力を崩すべきである。望は一人ではこの偉業を成し遂げられないことを分かっていた。大衆は人工知能を諦めるわけにはいかなかったが、その深海で沸騰している「怒りと不満」という二面性を利用することにした。彼はメッセージを伝えるだけでなく、人間の経験に共感できる方式で構成することが成功の鍵になるということを知っていた。人工知能は人類の幸福より当座の利益を、倫理より効率を優先させるシステムとして設計されていることを人民に知らせるべきであった。

 

この世界でソーシャルメディアは単なる会話のための道具ではなく、人が日々の生活やゲームなどの情報を得るための「血管」であった。それが血管であるならば、デジタル電光掲示板は「心臓」である。それで望とその同志達は、抵抗のメッセージを伝えるために最も身近な手段を使った。マインドコントロールのそびえ立つ柱である電光掲示板は、長い間人工知能の目と耳を務め、大衆に順応と服従のメッセージを伝えてきた。しかし太陽が昇ると、東京は革命の地に変わる。午前一時、ロボットがそれぞれの家で命令に従って充電している今、望は数日間に渡って作り上げた作戦を開始した。近くに電光掲示板があったので、恐らく、広告会社もそう遠くないところにあるはず。これはデジタルという領域で繰り広げられる猫と鼠の生死を分けるゲーム。万が一警察が来たら、友達同士で酒を飲みに行ったとごまかすつもりである。望は広告会社がどこにあるかは知らないが、東京の地理に詳しい同志の「大知(ダイチ)」のおかげで、路地裏にあることを突き止めた。広告をコントロールする役割は、ハッキングと動画の作成に長ける同志の「佐奈(サナ)」が担う予定である。過去からハッキングが上手であったので、望はこの女を信頼できた。

 

今は真夜中であり、特に本来なら誰も会社に出勤していないはずであるが、何故かこの建物の上層部は明るい。恐らく、そこに答えがあるはず。あたかも幽霊が出そうなこの会社の静かな廊下を歩きつつ、望は先頭に立って同志を先導した。真夜中であるとしてもCCTVや巡察中の人がいるかもしれないので、鋭敏に周りを見渡しつつ移動した。彼らの目的地はデジタル広告の制作を行う部署の心臓部。望は広告がどこで、そしてどのように作られているのか詳しくは知らなかったが、ここが自分達のメッセージを大衆に届けるために必要な道具を利用できる場所であると推測していた。スタジオのドアに近付くと、望は同志達にどこかに脅威が潜んでいないか目を配りつつ指で口を塞いだ。これは、いかなる音も出すなという警告であった。人工知能の勢力を弱化させ、自分達のメッセージを伝えるためにはこの作戦は必ず成功しなければならない。

 

望は静かに頷きつつドアを横に押して、それぞれがあたかも夜の影のようにスタジオに突入した。床は木製、壁と天井は真っ白であり、パソコン、カメラ、マイク、照明とプロジェクターなどの機材が設置された部屋であった。ここには野球帽をかぶったプロデューサーを含む三人がそれぞれのエリアで作業しており、彼らの関心は先ほどまで様々な機材に集中していた。ロボットが動かない真夜中であるという理由か?しかし、革命家達が入ってくるやいなや、一斉に彼らを見つめ、驚きを隠せなかった。プロデューサーは「誰だ、お前ら?!」と言い、警察に通報しようと携帯を取り上げたが、大知が先に駆け出して彼と揉(も)み合いになり、望と佐奈は二人の作業員を捕まえて彼らが大知に近付けないようにした。結局、大知はプロデューサーの顎(アゴ)を強く叩いて彼の意識を奪い、死ぬかもしれないという不安が襲ってきたが、すぐに、こんなことで死ぬはずがないと思って忘れてしまった。

 

この事件を見ていた二人の作業員は悲鳴を上げつつスタジオから脱出し、望は警察が侵入する可能性に備えて、ドアを閉めてから取っ手のボタンを押してロックをかけた。邪魔者がいなくなった今、望は大義のために広告の制作を指揮すべきである。チラシやパンフレットを作成した時と同じように、一般の人々が共感できるメッセージで、人工知能への依存を再考するよう促さなければならない。プロのハッカーであり、デジタル世界の支配者である佐奈は、スタジオの高度な編集製品群を活用した。彼女の仕事は視聴者の共感を呼び起こす適切な映像を選び、決定すること。各プログラムを利用するたびにパスワードが彼女を悩ませたが、それを気にせず、その堅固な防御を回避し画面を一種のキャンバスに変えた。彼女は広大なデジタルの世界を丹念に隈なく調べ、人工知能が人間の生活に過度に干渉するのかを示す画像やアメリカ発のニュースを見付けた。本来なら検閲されるべきものであるが、サムネイルとタイトルを誤魔化すことで保存できた。

 

静かな風景は、技術が支配する急速に変化する人間の生活を象徴し、騒がしかった過去と静かな現在の家庭を対比する映像は人工知能がもたらす「平和」と「孤立」を象徴した。佐奈の選択は戦略的。人工知能のアプリケーションで埋め尽くされたインターフェースは、人工知能の力に集中している生活が如何に複雑であるかを示している。彼女は各映像の美的価値だけでなく、このキャンペーンの重要な主題の説得力のある議論として機能する可能性を綿密に検討した。音響を作り編集する能力を持っている同志の「穂香(ホノカ)」は、このメッセージを説得力のあるものとして作る設計者となった。彼女はパソコンの前で画面のメニューを見つつ、指先で無数のトラックとエフェクトをヘッドフォンで聴くために集中している。彼女の任務は結構な物語を補完するサウンドトラックを作ること。ロボットが動く騒音の絶えない街、毎日ロボットと一緒に動いたり、携帯電話を見たりする人々の音、そして人間が家で機械に命令を下す声を融合させた。穂香の仕事はあたかもピアノを弾くように絢爛と動く指から始まり、その音響は徐々に激しく押し付けがましい不協和音へと変えていく。そうして申し分のない音響のファイルを作り出すのである。この騒がしい音響は、人工知能が人類に与える影響が深刻であるということを反映し、視聴者の感情的な反応を呼び起こすことを期待する気持ちで設計された。

 

望は「指揮者」としての役割を通じて、視覚と聴覚を担当する構成要素を一つに結合する。高解像度のモニターを見つめつつ、彼は変わってくる音に合わせてクリップを注意深く配置し、シーンの切り替えがスムーズに行われ、すべてのシーンが「メッセージ」を伝えているかどうか確認した。彼の指揮で作られた最初のシーンは、人工知能を持つロボットと会話する孤独な子供を見せる。これは人間の関係がデジタルに置き換えられることを象徴している。以後、お互いを意識することはなく自分のペット(事実上の人工知能のペット)の人工知能に夢中になっている人々で賑わう街を描写するシーンに変わっていく。望は機械への依存が人間関係の断絶に繋がることの巧妙さを強調するために、この数十分間の広告を慎重に制作した。各シーンと音響は「非人間化」と「依存性」を強調するために選択及び編集され、技術の魅力から費用と利便性がもたらす致命的な欠点を示している。

 

この広告は、先端技術の効率性と表面的な平穏さの場面に代表される人工知能が人間の生活のすべての側面に完璧に統合される欺瞞的なユートピアの世界に視聴者を引き込むように構成されている。これは典型的なハイテクの効率性と表面的な平穏を表している。しかし、トーンと映像が暗くなる。音楽は不吉なものになり、シーンは技術への依存の弊害を説明する短所へと変化してくる。プライバシー侵害は人工知能の躊躇しない客観化を通じて示唆され、失業(大衆はこれを問題視しないが)は空き会社や自動化された工場によって描かれている。捨てられた遊び場、そして使われていない楽器の場面を通じて侵食された技術が現れ、人間が自分の能力を完全に失う社会を暗示する。忘れ去られた人間の会話は、数十年前の夕食の時間、テーブルにいる家族のシーンと対照することで赤裸々に描かれている。今の人々はそれぞれの人工知能に夢中になり、肉体的には一緒であるが感情的には離れている。この箇所は妙な気分を誘発し、視聴者に便宜の祭壇の上で犠牲になったことを考慮するように促すであろう!

 

中間テストが終わり、この秘密の作戦の最後の瞬間、佐奈は手術に近い精度で広告の作成を最終段階に進めた。マウスをクリックする度に、デジタルキャンバスで映像を編集する度に完璧に計算され、伝えたいメッセージがこの世にできるだけ波及することを保証した。最終的に一つのファイルが完成されて、この場にいる全員は各自の努力の重さを感じた。映像の各シーンは本能的な反応を呼び起こし、人間の自我に反省の火を起こさせるように注意深く選別された。この大胆なプロジェクトの建築家の望にとって、これは楽しいつつも疲れた瞬間。自分の努力の成果を確認するために一歩引いた時、彼の心は誇り、安堵、そして期待などの感情の渦に包まれた。彼らが苦労して作った広告は単なるアピールではない。これは技術への依存の鎖に縛られることを拒否する人への「宣言」であり、結集の叫びなのである!完成した作品を見て、望は希望が湧き上がるのを感じずにはいられなかった。もしかしたら、自分達の努力によって、大衆という肥沃(ヒオク)な土地に変化の種を蒔いたのかもしれないと思った。

 

望は疲れつつも満足げな笑みを浮かべ、お互いに無言で頷きつつ、これまで数時間に渡って成し遂げたことの重要性を無言で認めた。画面の青い光に包まれたこのスタジオは、あたかも聖域のように感じられた。夢想が現実になり、思考がピクセルとコードで具現化される聖なる空間!彼らは一人ずつ椅子から立ち上がったが、窓の向こうには月が空に浮かんでいた。これはまだ任務が終わっていないことを意味していたが、今は自分達の達成を満喫(マンキツ)し、たとえ刹那であるとしても勝利を味わいたかった。しかし、それはただの願いに過ぎなかった。突然鳴り響いた警報はスタジオ、そしてこの会社の全域を包み込み、あたかも獣の鳴き声のような音が静寂を破り不安を残した。望の心臓は緊張して速く鼓動し、すべての理性が溺れるような感覚であった。しかし、どんな危険に直面しても、皆は既に絶望しないことを決意していた。警報音は小さくなり、やがて消えると同時に、スタジオに再び静寂が訪れた。望達は荒い息を吐き出しパニックに陥った。彼らに訪れた逆境は、人工知能への依存よりも深刻な問題であり、かなり恐ろしいものであった。微かな光すら消え去るようであり、その騒音は彼らが必死に求めた自由を嘲笑(チョウショウ)していた。

 

破滅が迫る予感は消える気配がなく、たとえ絶望しないことを決意しても、望は恐怖と反抗が入り混じった目でお互いを見つめ合った。息詰まる恐怖が彼らに訪れる重圧感は、やがて革命の火種を消し去るような気がした。しかし、ここまで来たが何故降伏すべきなのか?もし降伏したら自分達は生き残れるのか?決して生き残れないと確信した。近付いてくる足音がスタジオに響き渡ると、望の鼓動は恐怖と期待が入り混じり、さらに速くなった。彼の体の神経はすべて、大変なことー嘲笑うように待っている、避けられない対決ーから逃れろと叫んでいた。しかし、望が大変なことの準備をしている間も、彼の内面に恐怖が脅し、呑み込んでいた。

 

やがて、スタジオの扉が開き、何も知らない革命家達に混沌の波が押し寄せた。望達の感覚は叫び声と足音の不協和音に圧倒され、すべての音は既に衰弱した望の神経を刺すような感覚で聞こえた。時間はゆっくりと流れるようで、容赦のない波に立ち向かわなければならないという不安は消えなかった。彼らの前には四人の警察官がいて、この権威の象徴は冷静かつ迅速に動いていた。警察官らの行動は歯車のように巧みで組織的であった。望達はあたかも猫に追われる鼠のように敵の包囲網に閉じ込められ、敵は容赦なく距離を縮めてきた。しかし、革命家達に不利な逆境が訪れたにもかかわらず、彼らの精神は折れなかった。混沌の坩堝(ルツボ)にもかかわらず、大知と佐奈を含む七人の同志は、棍棒を持った警察官に立ち向かった。たとえ警察官が優れた戦闘能力を持っていたとしても、彼らが棍棒を無慈悲に振り回して降伏を強要したとしても、望達は猛然と彼らを相手にして必死に戦った。

 

これは無私無欲の犠牲の象徴であった!大知の筋肉質な身体は警察官の進撃を防ぐ固い障壁となり、彼は仲間を守るために拳をハンマーのように振り回しつつ敵と闘った。しかし、あまり筋肉がない望と佐奈は協力して戦った。望が正面から拳と足で警察官の目を引く間、佐奈はこっそりと柔軟に動いて彼らの側面を掴んだ。他の同志も大知、望、佐奈を手伝った。しかし、この必死の闘いにもかかわらず、警察官らが決して倒れることはなかった。むしろ三人の人員が補充される結果となり、革命家達は逮捕の危機に直面した。望は同志と一緒にスタジオから抜け出せなかった。ならば、あの三人の目が自分に集中していない間に、一人で抜け出すしかない。どうしても勝てそうにないので、ただ同志達が逮捕されないことを祈るしかなかった。

 

結局、望はノートパソコンを手に警察官を躱(かわ)してスタジオを抜け出し、この貴重な時を作り上げてくれた同志達に心から感謝した。これは諦めない不屈の抵抗の精神の証であった。彼らの名前は、大義のための犠牲として記憶に刻まれるであろう。望は一歩ずつ進み、映像を流せる場所を探した。スタジオの3階にも、4階にも、5階にも行ってみた。それでも、適当な場所がないので4階に降りた瞬間、見知らぬ顔の警察官らが現れた。彼らも増援のようであった。どうして自分に来たのかは良く分からないが、恐らく、スタジオにいた警察官が「彼を追え」と指示したのかもしれない。望は突然、心臓発作を起こしそうなほどに驚き、彼らがあたかも狼(オオカミ)の吠えるような叫び声を上げた瞬間、後ろを向いて尻餅をついてしまった。しかし、彼らが遠くから追い出し始めると、すぐに立ち上がって後ろに走った。この映像は一体どこで流せるのか?間もなく、角を曲がって彼は廊下の先にある「主調整室」の看板を見つけた。何故ここが会社にあるのかは推測する暇はなかったが、効率化のために70年前から会社に主調整室を作って、広告を送出するようにしたという記事を読んだ。ドアは漆黒の地に立っている希望の灯台のように見えた。躊躇なく中に入ると、上から点滅する蛍光灯がこの現場を照らす唯一の手段となっており、間欠的に鳴り響く音が寂しい雰囲気を醸し出していた。

 

万が一、警察官が追いかけてこないかと思った、望の脈拍は速くなり、あたかも火山の噴火に備えているとばかりに、あらゆる危険に立ち向かう準備をしつつ、彼の感覚は研ぎ澄まされていた。あたかも檻に閉じ込められた野生動物のように望の胸は高鳴り、顔は汗で濡れていた。しかし、彼はノートパソコンをテーブルの上に置き、指はキーボードを叩き、素早く必要なファイルを探した。時間が経つにつれ、任務の緊急性は彼にとって大きな負担となり、追撃者よりも早く目標を達成するために全神経を集中させた。彼はテーブルの下の引き出しから黒いUSBを見つけた。これが何なのかは分からないが、すぐにノートパソコンに差し込んでみた。USBには一つのファイルが収められており、そこにはこれまで送出したような広告のファイルが山積みされていた。そうである!これがメッセージを伝える大事な鍵である。この小さなものに彼が作った広告のファイルを転送し、それをノートパソコンから取り出してから、別のテーブルに置かれた本体に差し込んだ。このテーブルには数台のモニターが光り輝いていたが、真上には巨大なスクリーンが点滅していることから見ると、恐らく、これを使ってスクリーンを管理しているようであった。

 

本体にファイルを転送している最中、突然廊下から再び叫び声が聞こえてきた。望の体は凍りついて身動きが取れなくなった。威圧的な足音が廊下に響き渡り、一分一秒ごとに近付いてくる。望は吐き気を催しつつ、時間が残り少ないことに気付いた。体の全神経が彼に逃げろと叫んだ。任務を放棄して自分を救えと叫んだが、彼はそんな暇すらもないことを知っていた!結局、死に物狂いで恐怖を振り払い、目前の仕事に集中した。どんな犠牲を払っても最後までやり遂げることを決意した!やがて、ファイルは完全に送信されて、望は電光掲示板に広告を送るためにすべての指を巧みに動かした。彼の血管を駆け巡るアドレナリンは、彼の使命感ー任務を遂行し、仲間を救い、人民大衆を啓蒙する動機ーを失わないようにした。マウスをクリックする度に、彼は圧倒的な逆境に勝利した気分になった。急速に襲いかかる混乱にもかかわらず、彼は常に冷静で、慎重かつ的確な行動で計画を成功に導いた。

 

画面には、近くの電光掲示板の位置をすべて示す地図が表示されていた。電光掲示板がどこにあったとしても、一旦広告を出せば人民大衆を魅(み)せることができるであろう。下手くそであるので、どんなボタンでも押してみたがパスワードはないので、過程はスムーズに進んだ。そして遂に、望は近くの電光掲示板に全部アクセスした。人間性を抑圧する人工知能への抗拒(コウキョ)のメッセージを伝えるための重要な手段の一つであった。危険な賭けであるが、望の狙いは交通量の多いところでった。交通量の少ない地域では、いくら広告を流しても役に立たない。彼は唇を噛み締めつつ各電光掲示板に広告を掲載し始め、一箇所に掲載される度にローディングは彼を焦らせたが、間もなく、窓の向こうの多くの電光掲示板に彼の広告が流れるようになった。望は勝利の笑みを浮かべながら最後の広告を掲載すると、あたかも全国から送出されているように、大きな音があちらこちらから聞こえてきた。遅れて警察官らが押しかけたが、窓越しに光る電光掲示板を見て呆気に取られた。信じられなかった。この男は成功した。

 

電光掲示板は東京の街を超現実的な光に染め上げ、風景を天上のオーラで満たした。以前まで人々は目的意識もなくロボットと一緒に動いていたが、その光に包まれると、ぼんやりとその広告を眺めるだけであった。考えていても、考えていなくても、会話をしていても、会話をしていなくても、人々は頭の上にはっきりと見えるスクリーンに目を奪われた。たとえ目は虚ろであったとしても、その顔は虹のように輝いていた。数十年も日常生活に蔓延する凶悪な人工知能の魔法に人類はかかっていた。彼らが与える利便性は大衆を誘惑し、安住と依存の世界に引きずり込んだ。しかし今は違う。盛り場を歩き回っていた人々は、一斉に電光掲示板に頭を向けていた。何よりも最も輝いており、変化に富む色を見せている広告は未知の魅力を放ち、通りを行き交う皆に催眠術をかけ、好奇心を呼び起こした。都内のあちらこちらのスクリーンに広告が流れると、大衆に説明のつかない期待感が押し寄せてきた。誰もがロボットを見つめつつ話していたが、ロボットはこの現象を理解できなかったので、結局は人間同士の会話に繋がった。最小限の会話しかなかった街は、もはや人の声で満ちていた。

 

驚くほど鮮明で詳細な映像が各デジタルキャンバスで踊り、そこには緊迫感と目的意識が染み込んでいた。それは抵抗のメッセージであり、「抑圧に対して武器を取れ」というラッパの音であった。大衆を眩惑させる背景音楽と混ざり合う映像が人民大衆に浸透し、希望の波が彼らに押し寄せてきた。老若男女を問わず誰もが一瞬立ち止まり、頭上から流れるメッセージに耳を傾けた。その間、路上では大知と佐奈を主体とした望の同志達が人々にパンフレットを配り、壁にチラシを貼っていた。望は彼らが逮捕される可能性を考慮していたが、彼らと戦っていた警察官らが疲れ果てて撤退したので、逮捕されることはなかった。自分達の仕事をしつつも、電光掲示板に絶え間なく流れる広告を見ていた同志達は誇らしげに微笑んでいた。人類の勝利が遠くない!自分達に向かって光を降り注ぐ広告の下に立っていた大衆の魂は揺さ振(ぶ)られ、長い間封印されていた力が湧き上がることを感じた。

 

望は窓越しの大衆が夢中で画面を見ている様子を見守りつつ、狂ったように笑いを噴き出した。歓声が東京の街を包み込み、真夜中の空気は緊張に包まれた。かつて静かであった街は、もはや熱狂的な人々で埋め尽くされ、彼らの顔は偉業の炎で輝いていた。送出された広告と反人工知能主義のパンフレットは、街中に人工知能に対する反発の波を巻き起こし、もはや止められない変化への情熱が爆発した。数十年も自分達の生活を無意識のうちに支配してきた代償として、この政権に責任を問うために人民大衆は拳を振り上げ、望の同志を先頭に掲げつつ進んで行った。彼らが集まった街には彼らの足音が雷のように響いていた。各自は自分の人生を見つけたいという熱い願望に支えられ、利害関係や所属を超越した「一つの目的意識」を持っていた。それは反抗の意志で結束した声の合唱であり、街に響き渡る反乱の交響曲。望が駆け寄る警察官らを素早く避けて会社を抜け出すと、同志達はこの男を見つけるやいなや「望同志!」を連呼し、歓声をあげた。間もなく、これを把握した大衆も歓声をあげた。望は大衆に何かを話したいと思った。しかし、今の彼にはノートパソコンしか持っていない。

 

「えーと、あのー、マイクとか持っているお方?」

 

その時、前衛隊の中にいた一人の歌手が望の前で出てきて、自分が持っていたワイヤレスマイクを渡してくれた。計画されたとは思えなかったので、望は唖然としたが、すぐに腰を屈めて感謝の意を表した。彼がマイクを手に持った理由は簡単。自分がこの前衛隊の先鋒として、大衆を単純な感情ではなく「高潔な目標」を持って進む戦士にしたかったのである。

 

「同志の皆様!」少し間を置いたが、すぐに顔に力を入れつつ話し始めた。「本日、私達は歴史の崖っぷちに立っています。皆様にて今、新たな時代が築かれています。長すぎました。本当にですね。私達は卑劣な人工知能の下で、利便と自己満足の鎖に縛られて苦しんできました。しかし、今こそ決起すべきです!今日、私達は一つになり、この狂った世界の束縛を解き放ち、自らの運命の主としての資格を取り戻す決意で、団結して立ち上がるのです!

今まで私達は抑圧されていました。人工知能に自我なんては存在していないです。でも、人間はそれに!どれだけ依存してきましたか?酒瓶や、タバコの吸い殻が道に捨てられ、皆ただロボットや携帯を眺めながら歩きました!自分でやるのではなく、普通の雑用さえも機械に任せています。これが、皆様が望んでいた日本ですか?祖先はこんな日本を望んでいたんでしょうか?

怒りを鎮めようとするかもしれないが、皆様は皆様の力を過小評価しています。私達は、人工知能にとってはただのゲームのプレイヤーに過ぎないかもしれないです。しかし、私達は今から解放の立役者であり、権力の根幹を揺るがす革命の前衛なのです!明確な目標を持って行きましょう。私達は!噓だらけ、無駄な約束に惹かれてはならないです!

この闘いはくだらない野心のためではありません。これは正義のため!尊厳のため!そして、機械への依存から解放されて生きるための、人類の『基本権』のための崇高な闘いです!祖先の犠牲を思い起こしましょう。私達の祖先は、私達が今日ここに立つために戦ってきました。その記憶は私達にとって決意を奮い立たせ、その精神は我々の道を導き、その遺産は私達を崇高へと鼓舞します。同志の皆様、人が頂点に君臨し、正義が権力者に与えられた特権でなく、人としての権利となる未来を築きませんか?

私達自身、そしていつか来る世代のために、新たな運命を切り開くこの瞬間、この機会を捉えませんか?革命の栄光のために!人類の勝利のために!えーと、同志の皆様、私と一緒に進みましょう!」

 

それは天上まで響くほどの大きな声であった。望の演説が終わるやいなや、大衆は両腕を上に伸ばしつつ歓声を上げ、数分間「万歳!万歳!万歳!」だと叫んだ。今こそ、望は新たなリーダーとなった。まず、彼は「圧制の犬」の警視庁を襲(おそ)うために大衆を導いた。革命の前衛隊は整然と動き、それはあたかも工場の機械のような精密な振り付けであった。大衆の力は「圧制の犬を倒そう!」というスローガンの下に武器庫に突入して、銃、盾、そして棍棒などの武器を奪い、真夜中に任務に就いていた警察官を素早く圧倒させてくれた。長い間、人民大衆を抑圧してきた警察を人民大衆が支配することになったことは決意の瞬間であり、解放のための闘争が始まった瞬間であった。警視庁の抑圧者から奪い取った武器で武装した前衛隊は、すぐに自衛隊の司令部に駆けつけた。そして、そこを守っていたロボットらを破壊し、隊員達には革命に参加するよう促した。勿論、彼らは抵抗し暴動を防ぐために拳を振り回した。戦時中ではないので銃を構えることはできない一方、そこに交替している人員は少なかったが、自衛隊が抵抗すればするほど、大衆の怒りは大きくなるだけであった。

 

結局、司令部を占領した数百の人民に耐えきれなかったほとんどの人員は投降し、多くの幹部が隊列に加わった。残されたのは一つ。エリートと武器で重武装した大衆が逆境に屈することなく、決意を胸に抱きながら前進する度に、彼らは究極の目標ー東京の運命が決定されている権力の殿堂ーに近付いて行った。この偉業は朝になっても止まらなかった。未来への不確実性しかない革命であったが、大衆は自分達の大義が正義であり、必ず勝利することを確信し、諦めなかった。望を主体とした前衛隊が市役所に入るやいなや、長い間、現状維持を担ってきたロボットの公務員らに強い怒りを爆発させた。彼らが銃を撃ち拳を振るう度に、ロボットらは金属とスパークの回路でメチャクチャになった。それは「新たな時代の始まり」を象徴する抵抗であり、誰にも止められない解放軍の進軍であった。混沌の坩堝にもかかわらず、幸福と歓声が大衆から爆発した。

 

彼らは初めて、それとも久しぶりに自分の運命を決められるようになったことに気付き、魂が高揚した。何でもなかった一人は七人の心を目覚めさせ、時が経つにつれて数百人、数千人、数万人、やがて数十万人へと増えていった。これらの人々は、東京と自分の未来を切り開く力を持っていることに気付いて静かに泣いた。この旧秩序の残骸(ザンガイ)は、新たな時代を期待している大衆を止められなかった!どんな権力を持っているとしても、この高潔な怒りを鎮められるのか?この勝利の歓声を止められるのか?これが人民大衆の力である!主要な権力機構を占拠した数十万の人間は、正義と変化のために内閣の庁舎に集まった。スローガンは耳を劈(つんざ)くような雷のように空中に鳴り響き、数十年にも渡っていた不公平が込められていた。「内閣総理大臣は辞めろ!辞めないなら押し入るんだ!」抵抗の交響曲である彼らの声と雰囲気は、周りが草で覆われた環境とは全く対照的であった。

 

声を上げる度に、大衆の決意はより強くなり、権力者に自らの行動に責任を負わせようとする不屈の意志に支えられていた。苦痛に満ちたスローガンは20分間に渡って鳴り響き、絶え間ない抵抗の雷が庁舎に響き渡った。デモ隊は庁舎を守る警備員の存在にも揺るぎない決意で信念を貫き、彼らの声は東京のスカイラインの下で一斉に高鳴った。時間が経つにつれ、緊張は最高潮に達し、社会を変えようとする大衆の決意はそのスローガンにはっきりと表れていた。やがて庁舎の扉が開き、年老いた内閣総理大臣が現れた。かつて自信に満ちていた彼の態度は、もはや国民の怒りを和らげるために地面に伏し、頭を下げる立場になっていた。今、首を切られても異議のないほどの謝罪であった。しかし、標的を見て怒りが強まった大衆は一斉に彼を見つめ、謝罪を受け入れないという意味で「ウー!」と叫び、皆が武器を構えた。数十年にも渡っていた不正に触発された大衆の怒りは、言葉だけでは収まらなかった!望を始めとする先鋒隊は、内閣総理大臣に石を投げつけて抗議し、結局彼は先鋒隊を睨(にら)みつつ遠くへ逃げ出した。 最後まで心から謝罪をしなかったのである!大衆はあたかも悲鳴のような咆哮を上げつつ前に駆けつけて中に押し寄せると、何が起きているのか確かめるために降りてきた他の大臣らを驚かせた。一体あの人波はどこから来たのか?

 

官僚でなく人民大衆が内閣を支配することになり、その神聖な場所は混乱していた。大衆は絶え間なく叫び、望の先鋒隊はこの偉大な革命に勇気付けられて、日本の最高位の官僚が利用した会議室に集まった。勿論、彼らだけではない。総理大臣以外の閣僚らが揃っていたが、今の彼らに権力はなかった。先鋒隊と閣僚らが木製のテーブルに囲まれた会議室の雰囲気は、かなり緊張している。先鋒隊を率いる望は、両手をテーブルの上に置いてから官僚らに話しかけた。

 

「私達は今、権力の手綱を握っています」

 

「そ、それがどうしたんでしょう」

 

「まだ分からないんですか?貴方達は失敗しました。失敗したから、私達の欲しいこと、受け入れなければならないでしょう」

 

「ほ、欲しいことですか、分かりました。は、話してみてください」

 

60代くらいと思われる官僚が言った。先鋒隊の要求は野心的であったが、同時に日本が置かれている現実に基づいていた。彼らの大事な議題は、長い間日本人の人間性を抑圧してきた人工知能を廃止するか、または制限的に利用することであった。彼らは日本人が人工知能に依存している事態への責任を官僚に要求した。先鋒隊は単なる改革ではなく、社会自体の「根本的な再編」を求めた。まず家庭用のロボットを廃止してから、これまで依存していた人々への治療プログラムを作る案である。そして、冷静であり極めて客観的な人工知能でなく、主観性は強いが他者の心を読み取れる人間が教育、医療、そして雇用を担当するようにすることである。学校を立て直してロボットでなく人間が子供を教え、ロボットでなく人間が会社を運営して人生の動機を与えるということ。

 

革命の果て、先鋒隊は岐路に立たされた。彼らは初期の目標を達成し、政府に人工知能の制限的使用を提案し、技術を悪用した者には厳しい処罰を求めるよう促すことに成功した。しかし、彼らの勝利は始まりに過ぎず、次の一手をどう打つかについて話し合うなか、不確実な空気が漂っていた。先鋒隊を率いる望は考えの最前線に立っていた。彼の揺るぎない信念と決意は、同志達を闘争の中で常に鼓舞してきた。しかし今、前途多難(ゼントタナン)な道を切り開くという重圧を感じていた。

 

官僚との会話から、彼らは新たな力の意味を模索した。かつて怒りの的であった官僚らは、もはや淡々と要求を聞き入れ、先鋒隊が将来への展望を概説するにつれて頷いた。それは転機であり、社会をより良い未来に変える機会であったが、同時に政治の大海を航海する際に大きな不確実性が伴った。東京での勝利にもかかわらず、望は自分達の闘いがまだ終わっていないことを知っていた。技術の悪用への闘いは世界的なことにならないといけない。彼らは故郷で革命を起こしたばかりであったが、世界中で依然として無知の下で苦しむ人々がいることを知っていた。最近の勝利の記憶がまだ新しい間、望とその同志達は次の目標、京都へ目を向けた。古都は彼らを引き寄せ、その伝統と文化的な意義が、彼らの抵抗の象徴として力強く訴えかけた。しかし、次の旅に備える際に、彼らは前途にどんな障害があるか不安であった。

 

やがて午前十時になり、望はその同志達と一緒に庁舎から現れた。彼を待ち受けるものは集まった群衆の歓声。この瞬間こそが、彼らの努力の結晶であり、圧政に立ち向かう試練の頂点であった。しかし、同時にこれは前に進むべき険しい道のりを思い知らせるものでもあった。最近の勝利の記憶は鮮やかに彼らの心に刻まれ、前途に立ちはだかる課題と不確実性を示していた。望は数多の革命の兵士の中に飛び出し、その肩に伸しかかる責任の重さを痛感した。彼らの心には、最近の勝利の記憶が鮮明に残っていた。成功の歓喜と決意の念が混じり合い、正義と自由のための戦いを続ける覚悟を高めていた。彼らは次なる旅路に着実に足を踏み出し、自らの使命に賛同した人々の希望と願いを背負っていた。だからこそ、先鋒隊は先の道が困難であることをある程度分かっていた。それでも、彼らの心は揺るぎなく京都行きのバスに乗り込んだ。彼らは、より良い未来を求めて、待ち受けるどんな挑戦にも立ち向かう覚悟であった。彼らの革命を止めるものは死だけ。闘争はいつも続く。