18才の目賀田のように。2008年の大晦日にあたって | 書籍『蒼翼の獅子たち』オフィシャルブログ

18才の目賀田のように。2008年の大晦日にあたって

こんにちは。ペダルファーブックスのよねまるです。
今日は大晦日。今年が終わるのもあと残り数時間になってきました。
日々ただ無鉄砲に飛び跳ねているのが特徴のよねまるですが、毎年大晦日は厳粛に自分の来し方行く末を考えたい、決まってそんな静かな気持ちになります。

「蒼翼の獅子たち」の主人公の中でおそらく一番頭脳明晰なのが目賀田種太郎。
国費留学生としてアメリカに渡った彼は、ハーバード大学を目指して猛勉強します。そして晴れてハーバード大学の副総理ランデル氏との面会の席上。

***
「ヘンリー・ホイートンを知っているかね?」
「はい、アメリカの判事、外交官として十八世紀から今世紀にかけて活躍した人です」
 マン未亡人から学んでおくようにと助言されたので、目賀田は難解と言われるその著『国際法原理』を熟読している。
 (中略)
「それで感想は?」
「日本は開国してまだまだ日が浅いです。諸外国との慣習、文化のちがいのなかで、円滑に外交、貿易を行うためには確立された国際法の枠組のなかでいかに公平なとり決めを結べるか。それを考えるうえでたいへん勉強になりました」
「ほうほう・・・・・・」
 ランデル副総理は、嘆声を連発しただけで、ことばを発しなかった。
 しばらく経ってから、
「きみはキリスト教徒かね?」
 と、訊いた。
「いいえ」
「うちの大学には入学者はキリスト教徒でなければならないという学則があるんだが、きみはキリスト教に改宗してくれるかね」
「いいえ、改宗はしません」
「えっ、なぜだね?」
「便宜的に改宗することは、絶対にしたくありません。キリスト教の是非を論ずる知識も体験もありませんが、いまはキリスト教以上に自分を律し、常に真実を求めて自分を磨いています。いまの自分にそれ以上のことは必要ありません」
「・・・・・・」
 ランデルは眼鏡の奥の双眸を大きく見張って、しばらく目賀田を見続けた。
「よろしい。ロースクールの主任教授に添書を書こう」
 ランデルは、ペン皿からペンをとりあげると、じつに満足そうな笑みを浮かべた。
***

「いいえ、改宗はしません」
「いまはキリスト教以上に自分を律し、常に真実を求めて自分を磨いています。」


目賀田は異国の地で日本を背負った身。しかもまだ弱冠18才です。なのにキリスト教に改宗しなければ入学を拒否されるかもしれない重要な場面で、毅然としてこう答えるのです。

『蒼翼の獅子たち』の中で印象的な場面は数々ありますが、よねまるが一番胸を突かれたのはこのシーンです。そして今日、1年を振り返るときに思い起こしたのも目賀田のこのセリフです。
世界同時不況、地球温暖化、格差社会・・・、今年もさまざまな不安なニュースが飛び交いました。自分の未来も日本の未来も何もわからないという点では、当時の留学生たちの心境と私たちは相通じるものがあるのではないでしょうか。いえ、明治維新直後、日本社会全体が混沌としていた時代に異国に赴いた彼ら留学生たちは、今の私たちの何倍もの不安を胸に抱えていたことでしょう。にもかかわらず、一歩もひるまず、常に真実を求めて自分を磨いていこうとする目賀田。背筋がすっと伸びた彼の姿が目に浮かびます……。

今年この本の誕生に立ち会えて良かったと思います。
今の私たちに必要な大きな物語に出会えたことを感謝したい、そんな気持ちです。
新しい年を迎えるにあたって、多くの人々に主人公たちのスピリットが届いてほしい、あらためてそう願わずにいられません。


【お知らせ】
本日をもちまして本ブログはいったん中締めとさせていただきます。
今後は皆様にお知らせしたいニュースが届いたときに記事をアップさせていただきます。
これまで「蒼翼の獅子たち」ブログのご愛読をありがとうございました。
皆様の新年が素晴らしいものになりますよう祈念しております。