塾講師を引退して宅建士となり、不動産管理会社に勤めて2年目を迎えている。

 

 その間も様々な事件があったが、本年7月に初めて自分の担当マンションで孤独死があったのだ。70歳手前の独身男性。

 

生活保護受給者である。家賃の滞納はなく、6月下旬にきちんと7月分が振り込まれていた。

 

 該当号室のお隣さんから「とんでもない異臭がする!」と警察に連絡が入り、警察が立ち入る。部屋の鍵は開いていたとのこと。そして孤独死を発見し、管理会社(俺の勤め先)に連絡が入った、という経緯だ。

 

 

※ここから飲食厳禁!ショックを受けやすい人はここで止めるように!

 

 

 死後1週間~10日ほど経過していたらしく、全身に蛆が沸き、体はドロドロに溶けて部分的に骨が見えていたようだ。

 

 遺体は既に運び出された段階で連絡があり、室内証拠写真を撮りに本日(警察から連絡を受けてから2日後)訪問したのだが、遺体こそ無けれどショックなモノを見てしまった。

 

 ちゃぶ台に敷物を敷いて、そこに倒れるように亡くなっていたのだがその敷物には、まだ「遺体が溶けた跡」が鮮明に残っており、蛆もウヨウヨしていた。それだけ腐敗が進んでいたのだ。遺体を運び出した警察の方には敬意の念しか出てこない。

 

 それよりも衝撃を受けたのが大変な異臭である。

 

 人生の半分以上生きてきて、初めて嗅いだ異臭。玄関のドアを開けた瞬間に強烈な異臭が襲って来たのだ。例えようがない。カメムシの数千倍の異臭である。ゲロとウン○とドブと、腐らせた食べ物と硫黄を足してルート2をかけて5000倍した、とんでもない異臭。「全ての生き物が、心から嫌悪感を抱く臭い」と言うべきか。夏だから熱気と混じり合い、とにかくこの世に存在していい臭いなのか?というレベルである。

 

 遺体は居室にあったのに、玄関ドアを開けた瞬間に襲ってくるのだから、いかに腐敗した亡骸の異臭が凄まじいものか、言わずもがなである。

 

 連帯保証人も緊急連絡先もいない契約だったのだが、警察の捜査で親族(契約者の兄)が見つかり、コンタクトを取った。

 親族が言うには、遺品の引き取りは拒否しているという。高齢だし、かなりの遠方なので無理もない。「当方で業者手配して撤去しますが、今後の責任は一切負いません」という念書を交わすことを約束し、管理会社側で全てをおこなうことになった。

 

 連帯保証人をつけない契約なので、その親族に費用負担を求めることはできない。更に、契約者(故人)は保証会社に加入していたのだが、昔からの入居者で保証内容も古いタイプなので死亡保障がなされない。

 

 ということは、諸々の負担は家主さんになってしまうのだ

 

 家主さんに「孤独死に対応した保険に加入しているか?」と聞いたところ、対応していないと言う。つまり、荷物撤去から特別清掃、原状回復に至るまで全額家主さんの負担なのである。。。。。あまりにも気の毒である。「資金が無いから貯まるまで放置で・・・」というワケにはいかないのだ。1日でも早く遺品を全て撤去し、特殊業者にて完全に異臭を取らねばならぬのだ。放置すればするほど、臭いが取れなくなる。ちなみに、ワンルームで遺品回収と特別洗浄をセットにすると概算25~30万円くらいは見ておくと良いだろう。その後のリフォーム(クロス貼り、床材貼りなど)は含まれないので別途リフォーム業者に依頼すべきである。

 

 

<孤独死や病死は事故物件になるのか?>

 

 心理的瑕疵の観点から見れば「殺人」「自殺」は間違いなく事故物件であり告知義務がある。

 

 しかし、病死や孤独死は、法的な義務はないものの、トラブルを避けるために告知しているケースが多い。

 

 じゃあ今回のケースは?

 

 例えば誰かに看取られながらの死は、すぐに遺体を運び出すワケだから、事故物件にはならない(でも告知するケースが多い)が、今回は体がドロドロに溶けてそれが床に染みついているレベルである。故に、必ず告知せねばなるまい

 

 告知の期間は難しいところだ。一般的には、その物件で新たに申し込みがあり、2年以上居住し、退去が出れば今後は告知の必要はないだろう。

 

 孤独死以降、その部屋がずっと決まらぬ場合は永遠に告知が必要なのか?という問いも難しいが、その場合は5年も経てばさすがに大丈夫だろう。このようなケースはガイドラインが存在していないので難しいところだ。

 

 

<家主必見!孤独死が起きたら、何をすべきか?>

 

(1)契約書の内容を確認 連帯保証人や緊急連絡先を見つけ出す

 

      連帯保証人であれば、遺品回収や室内の原状回復の費用を全額とは言わないまでも請求したら応じてくれることがある。ただし、孤独死は故意過失ではないので、連帯保証人に全額の負担を求めて裁判を起こされると、却下される可能性がある。「一部だけでも費用負担してもらえないか?」とお願いしてみる価値はあるが、長いこと疎遠になってたりしたのなら応じてくれない場合もある。

 

(2)故人が家賃保証会社に加入しているかどうかチェック

 

      10数年前という古くからの入居者は、保証会社そのものが台頭していなかったので、加入しているケースは少ないが、入居数年だと保証会社に加入していることが多々ある。その場合、死亡保障をカバーしているのか、何らかの見舞金が出るのかなどを調査してみるといいだろう。

 

(3)家主が加入している火災保険・損害保険をチェック

 

      アクシデントで階下漏水が起きたとか、天災により室内に被害が及んだ、というのはおおむね保険でカバーできる。しかし、孤独死に対応しているかというと、そのような特約が付いているかどうかで変わってくる。付いていない場合は、今後の教訓として死亡事故に対応した保険の切り替えなども検討すべきだろう。
     
     
<親族が費用負担を拒んだ場合は?>

 

 連帯保証人ではない親族が、費用負担を拒んだ場合、上記の(2)(3)に頼ることになる。(2)(3)も保証対象外の場合、残念だが家主負担で管理会社と提携し、諸々の処理をする必要がある。その時に必要なのが、必ず親族の代表者に委任状ないし念書にサインしてもらわねばいけない。後になって「故人は実は高価な○○を保有していたはずだ。あれは処分してはいけないものだった。我々に引き渡してほしい。もしくは金銭で弁償して欲しい。」などと言ってくる可能性があるのだ。なので、遺品整理後はいかなる責任を負わないし、返却を要求しない、という念書を用意する必要がある。

 

 そもそも、原状回復の費用を負担してくれないのに、金品があればよこせ、というのはあまりにも横暴である。ここだけの話、遺品整理中に金品が見つかったら、家主は黙ってもらっておけばいいんだよ。

 

 

<原状回復の手順>

 

 室内の荷物撤去 → 清掃① → リフォーム → 清掃②

 

 というのが一般的な流れであろう。清掃①は異臭を完全に取り去る専門業者による清掃のこと。死臭が部屋全体に広まっている場合などは絶対に専門業者によって施行してもらわねばならない。薬剤を使って室内全体に消毒液を散布する。また、腐敗した死体が床にまで及んでいる場合、床の一部を剥がしてコンクリート部分も入念に消毒する。

清掃②は、いわゆる普通の原状回復のクリーニング(リフォームが終わった後におこなうワックスがけ、水回り清掃、エアコン清掃、ほこり除去)だが、死体が腐敗するほど放置されていた場合は、清掃①に近いようなクリーニングを再度してもらったほうがいいかもしれない(清掃①の結果による)。

 

 再度になるが、腐乱死体の臭いは、この世に存在してはいけないレベルの悪臭である。本当に夢に出てきそうだし、思い出しただけで嘔吐しそうになる。室内の隅々まで臭いがこびりついているのだ。費用は少々高くなろうと、腕の良いスペシャリ

ストの業者に清掃①を依頼すべきである。

 

 鼻が敏感な人(俺もそうだが)は、何らかの臭いが残っていれば、入室した瞬間に察知する。ペットOKの物件で退去が出て、綺麗にリフォームとクリーニングをしても、動物臭はかすかに残ることがある。。

 

 動物臭でさえ敏感な人は敏感なのに、腐敗した死臭となるとなおさらだ。外見だけ「リフォームしました」とクロスや床を新品に貼り替えるだけだと、腐敗臭がどこかに必ず付着しているから、完璧に取り除かねばならない。ぱっと見大丈夫です、なんてのは新たな入居者には通用しない。完璧に臭いをカットする必要がある。

 

 しかし、考えようによっては、普通の退去部屋よりも莫大なお金をかけて募集し、ほぼ全面的に新品になるのだから、事故物件の方が完璧なリフォームがなされている、という観点で言えば住みやすいかも知れない。家賃さえ下がればあまり気にしない人からすればお得以外の何ものでもない。

 

 あと注意点としては、エアコンも撤去すること。取り付けて数年しか経ってないエアコンだとすればもったいないのは百も承知だが、撤去自体は数千円でできる。エアコンは内部洗浄をおこなったとしても、死臭が100%取り除かれるのかというと正直怪しい。後々のトラブルを避けるためにエアコンは撤去すべきである。

 

 


 ・・・さて、ここまで読んだ家主は「やっぱ高齢者の受け入れをやめよう・・・」と考え直していることだろう。

 第二部において、高齢者を受け入れる賃貸経営の展望について述べてゆく。お時間を頂くが、必ず読んで欲しい。