病院に電話をすると、まず総合受付にかかり、その後産婦人科の受付に回され、最後に看護師さんに取り次いでもらいました。
いずれも、予定している手術を辞めたいので術前検査をキャンセルしたい旨を伝えると、皆びっくりして次の人に取り次ぐという具合でした。
最終的に辿り着いた看護師さんは声の感じからして私と同年代か少し上ぐらいのベテランだと思われました。
私は男女問わずベテランと呼ばれる年代が苦手です。
彼らはそれまでの経験と実績、という名の思い込みが強く、自分の意見をあの手この手で相手に押し付けるテクニックはピカイチで、それでも従わない人間を非常識だと決めつける傾向があるように思います。
もちろん、全ての人がそうとは限りません。
ですが私は、ラスボスと対峙する勇者の如くスマホを握りしめ、自分の要望を一息で伝えました。
「あ、あのっ、私手術辞めたいんです。やっぱり子宮取りたくないんです。手術するなら筋腫だけ取りたいんです！」
私はたまに大胆な行動を取りますが、それは別に悪目立ちしたい訳ではなく、呑気な世間知らずであるが故の結果であり、根は小心者なのです。
手術を予約した時点で、必要な道具や薬品を揃え、様々な人のスケジュールを調整しなければならないのはわかります。
直前になってキャンセル、又は内容を変えるなんて迷惑千万な話です。
でもやっぱり子宮を取りたくないんです。
もう二度と筋腫ができないように、子宮に負担をかけないように、運動とか、食事とか、あれやこれやなんやかんや勉強して、自分の身体を大事にするから、だから
一度だけチャンスをください
生理がなければ快適なのは間違いなく、事実3回目のリュープリン注射の後は副作用もなく、プロテインと鉄サプリのおかげもあってか体調はすこぶる良かったです。
このまま全摘してしまえば、軽くなった身体で人生を楽しめるのではないかと心が揺らいだ事もあり、全摘された方のブログでもそんなような事が書かれてあって本当に揺れに揺れたのですが、やっぱり
子宮を手放せない
自然な形で閉経を迎えたい
それと前回は書きませんでしたが私が全摘をためらったもう一つの理由が、子宮を取る時にどうしても膣が若干短くなるようなのです。
だからどうしたという話ですが、それこそ日常生活にはなんの支障も無い事です。
ですがこれは本当にここだけの話というか、ここだけの妄想なのですが、この先もし、恋焦がれる男性と出会い愛に溺れるような事があるとした時に、私は二人だけの大切な時間を心身共に楽しめないのではと思ったのです。
はぁ⁉️と思われるのはご最もですが、45歳の引き籠り専業主婦だって夢ぐらい見たっていいじゃないですか。
夢ぐらい見てないと生きていけないんです
ちなみに、子宮がなくても膣が短くなっても、問題なく愛する人との時間を楽しんでいる方もおられます。
ですが私はもう色んな人の色んな意見、情報に触れ過ぎて、何が正しいのかわからなくなり、最終的にどれもこれも信じられなくなり、悩みに悩んで疲れ果て、頭が空っぽになった所に残ったたった一つの思いが
何も失いたくない
これが私の希望であり、嘘偽りのない本音です。
さすがにこんな本音は言いませんが、小心者の私は電話口で若干声が震えました。
誰だってそうでしょうが、人生できれば波風立てず穏やかに生きていきたい。
変な騒ぎなど起こしたくはないのです。
でも、しょうがないじゃないですか。
自分の本音に気付いてしまったら。
人様に多大な迷惑を掛ける事になっても、ベテラン看護師が怖くて声が震えても
私を守れるのは私だけです
「うん、うん。でも検査だけは受けてもらえますか？手術の事はその時に先生と話しましょう」
拍子抜けするくらい優しい声でした。
ラスボスに戦いを挑む勇者の如く構えていたのが馬鹿みたいに思える程、温かい声でした。
その温かさに、思わず涙がほろりとこぼれました。
私は予定通り術前検査を受け、主治医と話し合った結果、子宮摘出術を辞め、子宮を温存し筋腫だけを取る子宮筋腫核摘出術を受ける事に決まりました。
核摘出術は難しいらしく、大学病院の先生に来てもらって手術する事になり、同時になぜか主治医が変わってしまいました。
それまで50代ぐらいの男性医師だったのが、新しい主治医は50代ぐらいの女性医師になりました。
匙を投げられたんでしょうか。
私が望んだ訳ではありませんが、信念を貫いたら図らずもおみくじ通り「医者を選べ」という結果になりました。