前回の記事で「人の金でご飯を食べるダイエット」というのを始めたばかりなのですが、僅か二日で断念してしまいました。

いやー、無理でしたねー

やっぱり人のお金でだけで三食しっかり食べるというのは難易度がかなり高かったです。

そんなわけで今回は"つゆだく"について書きたいと思います。

"つゆだく"

…それは、牛丼屋の牛丼で具材の汁を多めに入れてもらうこと。つゆ沢山の意味とされる。

先日、朝4時に突然目を覚ますとなぜだか物凄く牛丼が食べたくなり大手チェーンの牛丼屋に行きました。

牛丼屋に入るといつも昼間にいはないない外国人の店員が

「さーせー」

とカタコトの日本語と笑顔で対応してくれました。

余談ですが、おそらくこの「さーせー」は決して適当に「いらっしゃいませ」と言ったわけではないと思います。

客の回転率が高い大手牛丼チェーンに対応するためには、より早く、より沢山の人に「いらっしゃいませ」を届けねばなりません。そんなわけで偶然生まれたアレンジでしょう。そんな気がします。

でも、そんなことはどうでもよくて、、、。

店内はまだ早い時間ということもあり、客は僕だけで、カウンターの向かいに先ほどの外国人の店員がいるのみでした。

外国人の店員、まぁ外国人の店員と書くのもいちいち長いので仮にさんとすという名前にしておきましょう。

さんとすは僕がカウンター席に座るとすぐさま温かいお茶と冷たい水を用意してくれました。


正直驚きました。


牛丼屋に行かれる方は分かる方もいるかもしれませんが、この時期温かいお茶を用意してくれるのは当たり前ですが、冷たい水は自分から求めないと出してくれないことがほとんどなのです。

それなのにさんとすはお茶と水を別々に用意してくれました。

なんて優しい方なのでしょうか。

言葉も文化も違うのに…

人を思いやる気持ちには国境などないのかもしれません。

越境した思いやりに感激していると

「食券をどうぞ」

と言われ、僕はハッと我にかえると食券を渡し、「後、つゆだくで」と一言添えました。

すると、さんとすは…


「ちゅゆだとぅ?」


と聞き返してきました。

僕は聞こえなかったのかと思い、もう一度

「はい、つゆだくです」

と言ったのですが、、、

「ちゅゆだとぅ?」

と再び返ってきました。

どうやら、さんとすの中にはつゆだくという概念がなかったようです。

つゆだくだけは越境しなかったみたいです。

僕は身振り手振りで「つゆだく、つゆだく、つゆだく…だく…」と言いかける寸前で言葉を飲み込みました。

牛丼屋で「つゆだくだく」と頼むとつゆが「つゆだく」の状態からさらにつゆを増やされてしまう可能性があり、「牛丼のつゆ茶漬け」みたいな、茶漬けではないですが、びしょびしょにされてしまうのです。

「つゆだく」が分からないのにその進化形の「つゆだくだく」が分かるはずないでしょうが、念には念を!


危ないところだったーー


そんな風に途中で言葉を飲み込んだものだから、さんとすは困り顔で厨房へ「並、イッチョ、ちゅゆだとぅ」と叫びました。

どうやら、さんとす以外にも厨房には人がいたみたいです。

カウンターから少し身を乗り出して覗くと、厨房には僕と同年代くらいの青年がいました。

青年は苛立たしげに…



「は?なんていった?」



とさんとすに聞き返しました。

さんとすはさっきと同じように

「並み、ちゅゆだとぅ」

「だから、並みは聞こえたからその後」

「ちゅゆだとぅ」

「ちゅゆだ…なんだって?」

「ちゅゆだ…とぅ?」


「だから、なに言ってかわかんねーんだよっ!」










「ちゅ、ちゅゆだとぅーーー(T_T)」







これはいわゆる"イジメ"だと思います。だって、僕が分かるのに青年が分からないはずないじゃないですか。


違う国で生活し、違う国の言語を習得しようと努力している人の努力を踏みにじる。


きっと想像力が欠如しており、自分は誰からも支えられておらず、自分の力だけで生きてきたと思い込んでるのでしょう。


だから、冷ややかな心でしか人と接することができないのです。 


「もういい、俺が直接聞いてくる」


そう言うと青年は厨房から僕の方へ向かってきました。

さんとすはしゅんとしていて凄く落ち込んでる感じがしました。

さんとす…

不味い、このままだと日本人の悪意が越境してしまうっ



そして、青年は僕の前に立つと



「すみませんねー、もう一度お伺いしてもいいですか?」

と訪ねてきました。




僕は…





「牛丼並…」





そして、勇気を振り絞って告げました!








「…ちゅゆだとぅ」





驚きの表情を浮かべる青年。

心なしか嬉しそうにアメリカンな頷きを見せたような、さんとす。

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あの瞬間、我ながらめちゃめちゃカッコよかったなと思いました。

是非、もう池井戸潤さん原作ということにして頂いて、ドラマ化の方宜しくお願いします。