『漢字には不思議な力がある!』

そういうお話なんですけど。


最近、我が家では小さな変化が起きました。


誰がどこから影響を受けたのか分からないのですが、今まで裸足で生活をしていたのが何故か全員がスリッパをはくようになったんです。


そして、運悪く僕と父のスリッパが完全に被ってしまいました。


僕は間違えて父のスリッパを履いても平気なのですが、父は凄く嫌みたいで…


ほらいるじゃないですか、レストランで同じもの注文されるの嫌がる人!


父はそれに+潔癖なので、僕のスリッパと違いをつける為にスリッパにマークを入れてみたり、しまう場所を変えたり、色々やっていたみたいなんですけど…


僕のスリッパを見るとなぜかイラッとするみたいで、


スリッパを本棚の間に隠したり、 下駄箱の奥に隠したり、ベットの下に隠してみたりと随分とアクロバティックな嫌がらせを受けていました。


僕も最初は宝探して的な要素もあり、


「俺のスリッパは今度はどこに隠されているんだ?」


と毎回楽しんでいたんですけど、徐々に難易度も上がり陰湿になっていくので、対抗策としてスリッパに…

 

 


『なんか徳の高そうな漢字を書く』というのを思い付きました。

 

 


このアイディアは先日友人を介して知り合った外国人が、日本語が上手で気さくで凄く面白い方だったんですけど

 


話している途中でTシャツに…

 

 

 

 

 


『乱痴気』

 

 

 

 

 


と書いてあるのに気付いちゃって、そしたらなんだか途端に恐くなったので、漢字が放つ謎の力を利用すべく、


僕のスリッパには徳の高そうな…


でも、僕がそのスリッパをはく時、あんまり徳の高い言葉だと罰当たりな気もするので…


全く関係ないですけど、

 


『真理』(しんり)

 


って書きました。


なんか強い志や信念、尚且つちょっと危うい感じもあり、これなら隠せないですよね。


そして…実際数日経ってみてこれが全く隠されてなかったんです!


でも…


昨日一緒に朝食を食べていると、父の様子がなんだかいつもよりも寂しそうに見えました。


振り返ってみればここ最近、特に共通の話題もなく父とはあまり話していませんでした。


だからこの『スリッパを隠し、そしてスリッパを探させる』というのを通して、僕とコミュニケーションをとろうと思ったのかもしれません。


父は食事を済ませると直ぐに身支度を済ませ、仕事に出掛けていきました。

 

 


いつも不器用で口数の少ない父。

 

 


リビングにはこどもの日の為の鎧や兜、金太郎の人形が飾られていました。


この五月人形も僕と弟の為に、少し早いですが、せっかくの休日に押し入れから出して綺麗に飾ってくれたのは父だそうです。

 


「帰ってきたら、久しぶりにキャンプにでも誘ってみようかな」

 


綺麗に飾られた金太郎も、心なしか微笑んでいるようでした。


そして、僕は食事を済ませ部屋に戻ろうとすると…


弟が神妙な面持ちで近よってきました。

 


「そうちゃん…

 

真理(まり)って誰?」

 


僕は一瞬何を聞かれてるのか分からなかったので聞き返しました。

 

 


「そうちゃんのスリッパにさ、女の人の名前が書いてあるじゃん、真理(まり)って…」

 

 


「あれのことで、最近マジであいつやべーわって父さんと母さんが心配してるよ?」

 

 

 


「真理(まり)って彼女なの?」

 

 

 

 

それを聞いて僕は固まりましたよね。

 

 


嘘だろ…と。

 

 


もう信じられない勘違いですよ。

 

どうやら父と母は、真理(しんり)を真理(まり)って読んでいたみたいです。


そして、二人は僕が彼女か好きな子の名前をスリッパに刻む、結構ヤバイ奴だと思ったみたいで


「消しゴムならまだしもスリッパは気持ち悪いよね?」とドン引きしていたそうです。

 


いや、そういう問題じゃないわ!

 


僕は二人に「早く本当のことを言いたい!」と思いました。


でも…


これをこのまま放置していたら確実にあのスリッパ隠しの嫌がらせはなくなりますよね?

 


正直、最近難易度上がってめっちゃしんどい…。

 

 


見る角度が違うからでしょうか、心なしか金太郎が、僕に薄ら笑いを浮かべているようでした。


そして、彼の真ん中の「金」という字が、不思議な力を放っていました。