こないだ、駅前でティッシャー(ティッシュを配ってる人)を見てて思ったのですが、ティッシュをさばけてる人とそうでない人ではやり方が根本的に全然違うんですよね。


多分さばけてない人は早くノルマをクリアしよーって事しか考えてないんです。だから、ティッシュを相手の手元に向けて渡しています。僕もティッシュを配ったとしたら同じ状態に陥ると思います。


しかし、ティッシュを多くさばけてる人を観察してるとそうではないんです。


ティッシュを手元ではなく、相手の進む方向の体のほんの少し前に置いているんです。渡すのではなく置く。そうすると相手は自然に受け取るしかないじゃないですか。



「相手の立場に立って自分だったらどうかを考える。」



これは、よく他人の携帯のロック画面を何故か開けてしまう友人も言ってましたし。


全ての物事に取り組む姿勢として、この着想は大事ですね。


また、これもティッシャーの話しなんですけど、こないだ渋谷のマークシティのエスカレーターを降りていたら、目の前に真っ赤な企業のジャンパーを着たお兄さんが立っていて、


急いでいたので、横を通り過ぎようとした瞬間、その男は背中からティッシュをスナップさせて突然僕の前にティッシュを出現させました。


驚いて思わずティッシュを受け取ってしまった僕は悔しくて、ずっとその真っ赤なティッシャーの技を見ていました。

すると、来る人来る人皆驚いてティッシュを受け取っていました。

その男の一連の動きはこうです。

ティッシュをポケットに隠す→ティッシュを取りだし背中に隠す→ティッシュをスナップし対象の前に出現させる


僕はこの一連の動きを「ファントムスナップ」と名付けました。


多くの人がファントムスナップの餌食になっていました。


僕は次こそはティッシュを受け取らないぞ!と心に決め、そのティッシャーの技を観察していました。



勿論、その日僕は遅刻しました。



翌日もそのティッシャーはファントムスナップを使っていました。僕は絶対に取らないと意識していたのですが、気付いた頃にはティッシュを握っていました。

その次の日もその次の日も、またその次の日も、そのティッシャーはファントムスナップを使っていました。僕達の戦績は2対2、ほぼ互角の戦いでした。

でも、その翌日からティッシャーは現れなくなりました。

「まだ勝負はついてねーよ!どこ行っちまったんだよ!!」

よきライバルを失ってしまったなと悲しみに暮れていると、

一昨日なんと、別のティッシャーがファントムスナップを使っているではありませんか。

あの幻の技を誰もが使えるわけないのに!!


おそらくこういう事でしょう。


ティッシャーの聖地


シブヤ・ホーリーランド。


選りすぐりのティッシャー達が集うこの街では、競争、縄張り争いが日夜頻繁に行われていた。


ティッシャーは短命なのである。


誰もが憧れるこの街でティッシュを配ること自体凄いことだ。


そして、この街で長年技を極めし一人の真っ赤なティッシャーがいた。


彼の名はRED。


REDは誰よりもティッシュを配っていた。でも、そんなREDにもとうとう、ティッシャーとしての限界が近づいてきたのだ。


そして、REDは弟子達に秘技「ファントムスナップ」を教え、この街を去った。


そう、世代交代だ。


今僕の眼前に立つ彼はREDの意思を継ぐ弟子。


REDは彼らがティッシャーとして一人前になる前にこの街を去る事だけが心残りだった。


「REDさん俺ちゃんと、ティッシュ配れてますよ。」


弟子はプレッシャーと不安に押し潰されそうになりながらも、「負けるわけにいかない」と固く心に誓っていた。


「あれが和田崇太郎か…REDさんの宿敵…。」

と、そういう経緯があったのだろう。


僕だって手を抜いてティッシュを受け取ってやりたい。


でも、それはプロのティッシャーに対して失礼にあたる。


なにより…REDに失礼だ。


エスカレーターから降りた僕、ティッシュを背中に隠した弟子。


今、シブヤで…それぞれの想いが交差する!!


僕「うぉぉぉおー!」


弟子「♪ファーントームスナァーーーップ!」


二人の間で嵐が巻き起こった。



勝負は一瞬だった。



帰り道、僕は一人でシブヤを歩いていた。



空を見上げると雲一つない真っ青な空。


僕は「相手の立場に立って自分だったらどうかを考えるか…。」と少し長めに呟くと片膝から崩れおちた。


僕の右手には確かに…


ティッシュが握られていた。


以上、短編小説「ティッシュ ー それは拭くだけじゃない」でした。

ご愛読ありがとう。