3 最後のキス スクラップ | love tablet -ノート-

3 最後のキス スクラップ

循環型社会形成法が成立し、かつて豊富にあった資源は枯渇し、今では再利用する事が当たり前となった。今では色んな規制の元、様々なものが再利用されている。
本当に環境に優しい時代だ。

定期的な点検。
人間に置き換えるなら健康診断。それに彼女が引っ掛かるなんて思いもしなかった。
彼女は普通に動いてる、笑ってる、可笑しな事もしない、従来通りの彼女なのに。
あと数日で俺の前から永久に消える循環型社会形成法という法律の元に。

「マスター、今日のご飯は何がいいですか?」
ワンピースの裾を翻して振り返った彼女は笑顔でそう聞いた。
元々彼女は両親が家事が全く出来ない俺が一人暮らし始めた時、行きなり送られたものだ。

チャイムが鳴り、何だろう?とインターホンを見ると宅配便のお兄さんが立っていた。
判子を持って玄関を開けると
「判子お願いします」
爽やかな笑顔と共に伝票を渡された。
「荷物大きいので今お持ちしますね」
その言葉の後、運ばれた荷物は確かに相当大きなものだった。
荷物は二人がかりで運び込まれ、リビングに置いてもらった。
箱を開けた瞬間俺はびっくりして思わず後ろに後ずさってしまった。
そこには見たこともない、可愛い女の子が横たわっていたのだ。
肌は白く、陶器のように滑らかで伏せられた瞼には長い睫毛。
絹のような細く艶のある髪の毛は柔らかいクリーム色だった。

放心してしばらく段ボールに横たわる彼女を見ていた、すると行きなり彼女は立ち上がった。
「マスターを確認します、暫く動かないでください」
淡々と機械的な口調で言われて思わず従ってしまう。
確認作業は数秒で終わったらしく、彼女は次にこう言葉を発した。
「今日の晩御飯は何がよろしいでしょうか?」
混乱を極めた僕は思わず
「シチューで」
と言った。

「マスター?聞いてます?」
僕が追憶の彼方へ飛び立っていると彼女がそう聞き返した。
「あぁ…聞いてるよ、そうだな、シチューがいいかな」
初めて会った時の晩御飯に作ってもらったシチュー
あのあと落ち着いて彼女の入っていたダンボールを確認したら母と父の手紙が入っていて、
家事が出来ない僕のことを心配して買った旨が書かれていた。
その時は、社会人になって自分で買おうと思えば買える自分にこんなものを買って、心配性(過保護?)な親だと若干のあきれを感じたけど、今となっては感謝している。
彼女に会えたのは両親のお陰だ。

彼女が台所に立つ、まな板に包丁が当たるこんこんという定期的な音が響く。
耳に心地よい。
こんこん…
彼女の腕が動く、
ふーん、ふふふん…
彼女が鼻歌を歌い始める
僕はそれをじっと目に焼き付ける。
ああ…幸せの瞬間だ。

「今日は、買い物行く途中の道で桜を見ました、もう春ですね」
彼女が嬉しそうに話す、
些細な日常の事を彼女は笑顔で話す。
それを聞くのが僕は好きだ。僕も自然に笑顔になる。
「そうだね、そう言えば僕も今朝駅に行く途中に、たんぽぽの花をみたよ。コンクリートの隙間から生えてた」
「たんぽぽはどこでも生えますからね」
「うん、それで昔歌った歌を思い出したよ」
「どんな歌ですか?」
おたまを持った彼女がしょっこり顔を出しながら言う。
「幼稚園に通ってた頃に歌った歌で、他の部分はちょっと忘れちゃってこのフレーズしか分からないんだけど、
 『どんな花よりたんぽぽの花を貴方に送りましょう~』
 っていう歌なんだけど、今思うとたんぽぽの花送ったら子供じゃない限り怒られそうだね」
「そうですね、バラとかなら兎も角、女の子にたんぽぽ送ったら怒られそうですよね」
「だよねー」
「でも、私は怒りませんよ、たんぽぽ好きですしね。どんな所でも咲いて何にも負けないって感じが」
うん、彼女のこういうところが好きだ。小さい頃は僕もそう思った。この歌が好きだった。
今忘れてしまってた昔の感情が蘇る。彼女と居るとこういう純粋な気持ちを思い出す。
「うん、僕もこの歌好きだった。」
「忘れちゃったのに?」
彼女は意地悪して聞いてくる。
「うん、忘れちゃったのに」
くすくすと彼女は笑うと「あ、お鍋!」とキッチンに戻って行った。
僕は手元にあった雑誌を取り最初の1ページをめくる。
『限りある資源を大切に』とでかでかと書かれた文字に、分別して捨てようという事を表している何十とあるゴミ箱と一人の人間の絵。
そこのゴミ箱の一番は端にはAndroidと書かれている。
胸が痛んだ。
もう彼女と過ごせる時間は僅かだ。


何時もと変わらぬ毎日を過ごしてきた。
あの宣告が無かったかのように。
でも今日は少し違っていた、何時もならとっくに寝ている時間、二人ただリビングで座っていた。
玄関にはたんぽぽの花が一輪飾ってある。
少し可哀そうかなと思ったけど、会社帰りに摘んできてしまった。
彼女にあげたら少しの驚きの後にすごく喜んでくれた。
「マスター」
しんと静まり返る中彼女の声が響いた。
「どうした?」
聞くと彼女は少しためらいつつも
「あの、最後にお願いがあります」
最後、その言葉にちくりと胸が痛む。
「うん、なに?」
僕はどんな願いだって叶えよう。君が望むなら、たとえ今「君がまだ君でいる事を望むなら」僕は社会にだって反抗する。そのくらい彼女が大切だ。
しかし、彼女はそんな事は望まない。望んでくれたらと思うのは僕の勝手な願い。
「あ、あの…私のような、物がこんなお願いするのは場違いな事は分かっています。けど、あの…」
彼女は少し赤くなりながら「あの…えと…」「嫌ならいいんですよ」と何度も聞いて
混乱の為か、焦点が定まらずに視線を左右、上下にに動かす。
そんな動作もかわいいと思う。
「何でも叶えてあげるから、言ってごらん?」
僕がこう言うと言う決心がついたのか、こくっと頷いた。
「最後、に…あの…キス…してほしいです」
どくんと心臓の自分の心臓の音が聞こえた。
彼女は恥ずかしいのか、俯いている。耳までが真っ赤だ。
彼女が望んだものは僕が望んでいた事だった。
僕が何も言わないからなのか、彼女が俯くのを辞めてこちらを見た。そして口を開く。
彼女の口が開かれて言葉を言うその前に、僕は言った。
「僕もしたいと思っていた」
そう言うと彼女の頬が朱に染まる。
両手を口にあてて、驚いている。
「そんな事したらできないでしょ」
そう言って、彼女の細い腕を掴み、引き寄せる。
すんなりと彼女は腕の中に収まった。
空いている腕で彼女の背に腕をまわし、唇を重ね合わせた。
キスする瞬間に息をのむ音、呼吸音
甘い、香りと、柔らかい、感触
そして暖かい。
人間とまったく同じなのに、人間ではない存在
こんなにも愛おしいのに、ずっと一緒に居たいのに。
叶わない。
その晩僕たちは何度もキスをした。

翌朝、彼女は笑顔で出かけて行った。
夜になったらまた帰ってくるような、そんな何時もと変わり映えしない朝。
何時もと違うのは、僕たちは玄関でキスをした。
朝に飲んだココアの香りがする、ほんのりと甘いキスだった。
僕たちの最後のキスだった。


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最後のころ恥ずかしい展開で、ね、、、本当に。
きゃーってなりながら書いてました。
二次辞めてから、甘甘なんて書いてないから慣れてないんですねきっと。

話的には、結構自分的には気に入ってます。
ちょっと未来のお話ちっくな感じです。

話の中で歌ってるのはたんぽぽっていう曲で、幼稚園の時によく歌ってた曲でしたね。
たんぽぽ組だったからかな?

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