※この作品は、最後に貼り付けてある動画までがワンセットの作品です。

読み終わったらクリックしてちゃんと聴いてくださいね。

 

 

「あ、あの……」

そう言うと大輔は、音が聞こえてきそうな程大きな動きでつばを飲み込んだ。

彼のTシャツはひんやりとした夕方の風が吹いているにもかかわらず、

びっしょりと濡れていた。

「ぼ、僕と、お付き合いしてください!」

「……ごめんなさい」

しばしの沈黙の後美和が出した答えに、

大輔はがっくりと肩を落とし膝に手をついた。

そして、その姿を見た美和はため息をついた。

「ちょっと、練習でフラれたからって、そこまで落ち込む?」

「練習でもフラれたら、やっぱりショックなの。しかもこれで三回目だよ」

「何回やってもダメなものはダメ。あれじゃ、OK出せないし」

「そろそろダメな理由を教えてくれてもいいんじゃない?」

「それは自分で考えるか、ChatGPTにでも聞きなさい」

そう言うと美和は腕時計をちらりと見た。

「そろそろバイトの時間だからおしまいね。

 あ、もちろんちゃんとお礼はしてもらうから」

「どうしても?」

「年頃の女子にこんなこと頼んでおいて、何もないとか冗談でしょ?」

「そこは、ほら。幼馴染のアレで……」

「それはそれ、これはこれ。サイゼでいいって言ってるんだから、あきらめなさい」

「はいはい……わかりましたよ」

「分かればよろしい。じゃ、土曜日に」

 

 

「どう?大輔君、上手くなった?」

「全然。あれじゃマジで無理」

翌日、駅前のカフェで美和は友人の一葉と昨日のことについて話していた。

「意外だなぁ。大輔君そういうの得意に見えるけどな」

「全然。アイツ、中学のソフトボール大会でピッチャーだったんだけど、

九人連続デッドボールやらかしちゃって」

「えっ、マジ?!」

「もちろん対戦相手のクラスマジギレだったんだけど、

 わざとじゃないから先生も怒るに怒れずに困ってた」

「超ウケる~!」

一葉は手をたたきながら大笑いした。

「そんな具合だから、今回も、ね」

「でもさでもさ。ってことはだよ……」

そういうと一葉は身を乗り出し、美和の顔を覗き込んだ。

「美和には大チャンス、だよね~」

「ま、まぁ。それはそう、だけどさ」

美和は少ししどろもどろになりながら答えた。

一葉の視線から逃れるためそむけた彼女の顔は、少し赤くなっていた。

「意外~!そんな乙女な部分あるんだ~!」

「ちょっと、からかわないでよ。そ、そういえば、アレ、用意してくれた?」

「はいはい、ちゃんと用意しましたよ」

一葉は持ってきた紙袋を美和に手渡した。

「……えっ、こ、これ?!」

中身を覗き込んだ美和の顔はさらに赤くなり、困惑の表情を浮かべていた。

「そう、これ。美和のリクエスト通りだよ」

「確かに、そうだけど、これは、ちょっと……」

「ダ~メ!大輔君の次は美和の番。しっかりしなさい!」

 

 

「もう時間過ぎてるなぁ。どこにいるんだろ?」

土曜日。待ち合わせ場所に早めにやってきた大輔だったが、

美和を見つけられずに待ち合わせ時間を過ぎてしまっていた。

「……もう」

自分のことに気付かない大輔に業を煮やした美和は、後ろから大輔の肩をたたいた。

「うん?……えっ、み、美和?!」

振り返った大輔は、そこにいた美和の姿に大きく驚いた。

「何よ。私がひざ上丈のかわいい系ワンピ着て来たら犯罪にでもなるの?」

「いや、そういうわけじゃないけれど……」

「デートの練習よ、練習。アンタ今度は何をやらかすか分からないから、

 特訓してあげるって言ってるの」

「は、はぁ……」

「はぁ、じゃないわよ。もう始まっているんだから。ほら!ほら!」

「えっ?えっ?どういうこと?」

「あんたバカぁ?女の子がデートでおしゃれしてきたら、

 気づいて褒めてあげるのが当然でしょ」

「そ、そうか。えっと……」

「ハイ時間切れ~!今から探すバカどこにいるのよ!」

「待って待って、さすがに短いって!」

「普段からちゃんと見ていたら、すぐ違いに気付いてあげられて当たり前よ」

「そ、そんなもんかなぁ……?」

「そんなもんなの!せっかくお気に入りのAnna Suiのフューシャピンク、

 引いてきたっていうのに……」

「ね、ねぇ。一つ聞いていい?」

「何よ」

「練習なら、普段の格好でもいいんじゃ……って痛っ!

 そんな思いっきり足踏まなくてもいいじゃないか」

「何言ってんの。ほかの女の子なら、ビンタ一発喰らわせて帰ってるところよ。

 ジ・エンドにならなかっただけまだマシだと思いなさい!」

大輔のあまりのダメっぷりに、美和はあきれ果て大きくため息をついた。

「はぁ~。こんなバカのために気合い入れてオシャレしてきたなんて、

 これじゃ自分の方がもっとバカじゃない……」

「……えっ?」

「な、何でもない。ほら、行くわよ!」

美和は大輔の腕を引っ張って歩き出した。

「サイゼじゃなくてスイパラに連れていってくれたら特別大サービスで

 今までの減点分全部チャラにしてあげなくもないけど?どうする?」

「待ってよ。最初と話は違うし、減点って何?これ試験なの?!」

 

 

「やれやれ。ここからどうなるんだろ。楽しみやら、怖いやら」

一葉は美和と大輔のやり取りを近くにあるカフェのテラス席から、

興味半分、心配半分でひそかに観察していた。

「美和、ちゃんと言えるかな?大輔君にあれだけ言っておきながら、

 本人が言えないんじゃ全く意味ないからね」

一葉は紅茶を口へと運び、晴れ渡る春の空を見上げた。

「なんか私も、恋したくなっちゃったなぁ」

一葉の言葉を乗せた爽やかな春風は、美和のワンピースの裾を

優しく揺らしていった。

 

 

(同じ曲なので、お好きな方をどうぞ。何なら両方いっとく?)

 

 

 

 

「はるかぜワンピース」

作:みゆきそうせつ

イメージソング:「はるかぜリップ」(まちだガールズ・クワイア)

 

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