ひさびさに家で食う飯は、うまくてしかたがない。
オフクロと真樹の作る料理は相変わらず美味で、食欲を大いに刺激してくれる。
しかし、しかしだ。
空気が、変だ。
気にしなければそこにあるのは普段となんら変わらない日常だが、所々に見え隠れする小さな綻びのような物を感じてしまう。
俺が入院している2週間の間に何かがあったんだろうか?
真樹は良く話、オヤジとオフクロは笑顔で頷きながら、それぞれ夕食を楽しんでいる。
・・・それだ。
違和感の正体はそれだ。
何気ない家庭の一コマではあるが、それはうちの図式には当てはまらない。
食事中に良く話すのはオヤジとオフクロで、真樹はオフクロの味を確かめるように黙ってゆっくりと食べていた。
しかも誰も俺の入院中のことを話そうとしない。
気を使ってくれている、そうも思えるが、別に何の病状も無く健康体として退院したんだ。
そこに気を使う必要があるだろうか?
ああ、だから違和感を感じたのか。
この日常は、真樹とオヤジとオフクロが無理をして作り出している日常なんだ。
だから違和感を感じてしまうんだ。
違和感を感じる部分を探し観察していると、普段ならば一番遅くまでゆっくりと食べている真樹が早々に食事を終え立ち上がった。
「ごちそうさまでした。ユキ、話があるの。ここで待ってて」
真樹がそう言って、食器を片付け自室へと戻って行った。
綻びが大きくなるのを感じる。
何かが始る。
俺を見つめる真樹の表情は、決意と諦めが見て取れた。

俺とオヤジとオフクロも食事を終え、真樹が戻ってくるのを待っていた。
テーブルの上には温かいお茶が4つ用意されている。
温かいお茶がおいしく感じる。もうそんな季節だ。
「おまたせしました」
改まったあいさつで、真樹が姿を現した。
「真樹っ!!」
真樹の姿を見て反射的に、オヤジとオフクロの視界から見えなくなるように立ち上がってしまった。
それは無駄な行動とわかっていた。
扉は俺の後方にあり、俺の対面にオヤジとオフクロが座っているんだ。
俺が振り向き立ち上がる前に、オヤジとオフクロは真樹の姿を確認しているはずだ。
それでも、隠さずにはいられなかった。
真樹の姿が、俺と出合ったときの姿だったから。
死神としての真樹が、そこに居たから。
「ありがとう、ユキ・・・」
真樹が小さく呟く。
「おまえ何考えてんだよ?」
問い詰める。
「全部、話さなくちゃいけないの・・・決めたの」
「真樹・・・」
弱々しい笑顔だが決意に揺るぎは感じられない。
「ユキ、真樹ちゃんが話すって言ってるんだ。座りなさい」
めずらしくオヤジが俺の行動に、口を出してきた。
オヤジとオフクロはあきらかに異質な真樹の服装は気にせず、真摯に真樹のその姿を見つめている。
二人に驚きの様子などは感じない。
真樹を初めて見たときは、普通の人間として会ったのに、二人は驚いていた。
なのに、この真樹の姿を見て驚かない。
そういえばオフクロが言ってたな「知り合いに似ている」って・・・
くそったれ・・・わけわかんねぇ・・・
何が起きてる・・・??
何が起きる・・・??
「ユキ、すわろ」
頭の中が混乱している俺に、真樹が笑顔を見せてくれた。
笑顔は弱々しいが、真樹は気丈に振舞おうとしている。
なら俺もそれに従うしかない。
ふぅ。一つ深呼吸をいれる。
落ち着くわけなんてないが、無理やりに落ち着いてるんだって、心に言い聞かせる。
真樹が挫けるようなことがあれば、世界中で救えるのは俺だけなんだ。
しっかりしろよ、俺!!

真樹も俺と同じように、深呼吸を一ついれた。
言葉を選び、ゆっくりと丁寧に語りだした。

真樹が語る、人ではないことを、死神だということを。
言葉につまりながら。

真樹が語る、生い立ちのことを、この家で育ったということを。
目には涙が溢れ出している。

真樹が語る、26年間の思いを、家族への渇望を。
声は大きく震え、美麗な顔立ちは涙でぐちゃぐちゃになっている。

「私は、ユキを兄妹だと思って、おじさんとおばさんを両親だと思って、ここで育って・・・」
言葉につまり、一瞬とぎれてしまう。
「私は、おじさんとおばさんを、ずっと、お父さんお母さんって呼びたくって・・・子供として接してほしくて・・・」
真樹はそこまで言うと、泣き崩れた。

頬が熱い。
ああ・・・俺も泣いてたのか・・・
大切なたった一人の妹が涙ながらに26年の思いを訴えてるんだ、そりゃ泣くわな。
泣き崩れた真樹をゆっくりと起こし、肩を抱き寄せ支える。
今、俺にしてやれることは、これくらいしか思いつかなかった。


つづく