僕は地方都市に住むアラフォーの独身男性だ。

最近、有名な感染症にかかってしまった。

 

それまでも僕は仕事に「行きたい」と思える日がないほどに、この仕事が嫌だった。

そんな中、あの感染症にかかった。

 

40度近い高熱にうなされ、一週間ほど休みをもらうことになった。

僕は症状が重い方だったみたいで、なかなか体調が元に戻らない。でも仕事に行けないほどではなかったので

頑張って職場復帰した。しかし、だ。

 

数日後、感じたことのないだるさに襲われた。

なんだこれは?免疫が弱るとこんな感じになるのかな。軽く考えていたという方が正しいだろうか。

会社に連絡して休みをもらう。ほとんど1日横になっているだけの時間だ。スマホを見て、動画を見て過ごすだけの時間。

なんて無駄なんだろうかと思いながらも時間を浪費してしまう。

 

そして復帰した2日後。また体をだるさが襲った。もう何が何だかわからない状況だ。

これが後遺症ってやつなのか?思えば味覚も戻ってこないし、いつまでたってもどろっとした鼻水が出てくる。

これが原因だろうなぁとは思っているけれど、それにしてもひどいじゃないか。

 

世の中がインフルエンザと同じ扱いになったことで、特別休暇はもらえない。休んだら休んだだけ、ただ有給がなくなっていくのだ。

遊びにも行けない。とにかくだるい。イライラが募り、部屋の壁でもぶん殴りたくなる。補償が怖くてできないけど。

 

仕事に行けない申し訳なさと、良くならない体調に精神的な不調が襲うようになってきた。いつまでこうなのか。

世の中で自分だけがこんな思いをしているという被害妄想が一人歩きしてしまう。

すると会社に行きたいという気持ちすら無くなってくる。

 

突然、僕は会社に行けなくなった。

 

体調が戻ってこないことは事実。でも朝起きれない。あと10分、あと5分というリミットを計算しながら着替える。

時間ギリギリになって家を出る。ちょっと渋滞をしている。次の瞬間、近くのコンビニに寄り車を停めスマホを取り出す。

 

会社に電話をする。

最大限の申し訳ないという演技をして電話を切った瞬間に気持ちがスッと軽くなったような気分になる。

 

これはやばい。

 

うつ病かもしれない。不安が襲う。

違う、そんなものじゃない。ただ休みが続いて会社に行きづらくなっているだけだ。そう自分に言い聞かす。

そのまま少し遠くまでドライブをして昼ごはんを食べて家に帰る。一体自分は何をしているんだろう。

部屋に入った途端、疲労が襲ってくる。後悔と恥ずかしさと「でもしょうがないじゃん」という諦めの気持ちがごちゃごちゃになっている。

 

でもこのままじゃダメなことはわかっているから、不安ばかりが大きくなる。

明日は会社に行けるだろうか。そんなことばかり考える。

 

今思えば、療養中からその兆候はあった。

だって、あと一週間休んでいいんだってわかったら、体は辛いのに、メンタルはびっくりするほど楽になったから。

そして3日、2日と時間が減っていくにつれて、心のモヤモヤが大きくなっていくのを感じていた。

仕事に行きたくない。なんで仕事に行かなきゃならないんだ。そんな被害妄想のような気持ちが大きくなっていく。

 

結局、僕はこの仕事が合ってないんだろうな。

 

仕事に行かなきゃならないのは、しょうがないことだ。だって憲法で国民の義務として設定されているのだから。

でも「この仕事じゃなくちゃダメ」という制限はない。法に違反した仕事でなければ、なんでも構わないのだ。

 

こうやって仕事に行けなくなる人は世の中にどのくらいいるんだろうと考える。

これまで張り裂けそうな気持ちに蓋をしてなんとか仕事をこなしてきたけれど、こうやって療養中に心が完全に途切れてしまう人とか絶対にいるはずなんだ。それは数人とかいう単位ではなくて、きっとたくさんいるはずだ。

 

都合の良い人間だなと思いつつ、自分の心に正直になって考えると当たり前のことでもあると納得できる。

向いてない、やりたくない仕事をいつまでもやり続けるのは、自分にとっても会社にとってもメリットは無い。

そもそも、これだけやりたく無い仕事を10年以上も続けているのだから、これからも騙し騙し、この仕事ができるだろうなとは思っている。しかし給料が一円も上がらない中で、給料以外に何をやりがいにすれば良いのかがわからない。やりたくない仕事だからこそ「対価」を求めてしまう。給料で自分の人生を補償してほしいと思ってしまう。会社からすればただの、わがままオヤジだ。

 

僕の思考を会社が知ったら「大した生産性もないくせに、対価ばかり求めるような人材」に映っているのだろう。それも事実。

 

明日は会社に行けるだろうか?

傾き始めた夕日を眺めながら考える。

夕方になると、また不安が襲ってくる。この不安から逃げるように、缶ビールをあおる自分がいる。

体力が落ちて大して量も食べられない胃に流し込むお酒は背徳の味。というか、味覚が戻ってないのでただ頭を撹乱させたいだけの時間。

今度の休みは心療内科に行こうかと思っている。でも近所に良さそうな病院はなかった。

自宅から車で1時間の距離にある診療内科になんか行けるかよ。悪態をつきながら、さらに缶ビールをあける。

 

明日仕事をやめてしまったら、今の貯金であと何本このビールが買えるだろうか、なんてことを考える。

働かなくても貯金が一円も減らない生活が、あと10年続いてほしいと願っている。そんな生活がやって来るはずもないのに。

 

世の中の人は優秀過ぎるよな、と思っている。

就きたくもない職業と、やりたくもない仕事を毎日毎日繰り返して生きている。責任ばかり増えて一円も上がらない給料なのに文句も言わない。それでもって家庭を持って数千万というローンを抱えている人もたくさんいる。というか、この国のほとんどの人がそんな人生だ。

なんでそんなリスクを何重にも背負って平気な顔して生きていられるんだ?と思う。強過ぎるだろ。

 

これがみんなの求める人生なのかなぁ、と次の缶ビールに手を伸ばす。

ほとんど沈みかけた夕日は何も語らない。

 

明日仕事に行けなかったらどうしようかと考える。

どうもしないんだけどさ。自分がいなくたって。

総理大臣にだって代わりがいるんだから。

僕の仕事の代わりなんて誰でもできる。

みんなやりたくないから僕に戻ってきてほしいだけ。

 

今の僕は生きるチカラが圧倒的に足りてない。

単純に体調もそうだし、生命力という部分で圧倒的に弱っている。

そうだ、きっと運勢も悪いはずだと思って占いを見たら、この上ない大吉だった。

今が大吉だったら、きっと凶の人生になったら僕はその辺の石につまづいて頭とか打って死ぬんだろう。

「そんなんで死にますか?」と笑われる死に方をするんだろうな。

 

明日は今日より良い日になると信じたい。

でも信じられないことばかりで信じることができない。

信じようと思っても信じられない。

何を信じれば良いのだ?わからなくなった。

 

明日死んだらきっと後悔するだろうな。

いつか必要になると貯めておいた貯金は全部葬式の費用になるんだな。

 

さびしいな。

人生ってなんなんだろうな。