一皮むいたら中2
それは、2012年2月13日。
言ってしまえば、バレンタインデー前日だ。
曜日的には月曜日。ちなみに僕が勤める会社は火・水曜日が定休日となっているので、バレンタインデー当日は出勤しないのだ!
つまり、つまりこういうことだ!女子が男子にチョコレートをあげられる日は…言い換えれば男子が女子からチョコレートをもらえる唯一無二の日なりーーーっ!!
もちろん昨年もらうことはできなかった。しかし、この職場で働き出して早二年。
そろそろ、あ!あの人好きかも!的な娘がいてもおかしくなくない!?なくなくなくなくなくなくない!?
ただし、ここに一つ重大なポイントがある。しかも、マイナスの方の。
それは、僕の働く一帯の課に女子が少なすぎるのだ!
しかも聞くところによると、その昔わが社にも女子が男子にチョコレートを渡す儀式があったというのだが、バレンタインデーでの女子の苦労…そして、ホワイトデーでのお返し…そんな流れが面倒だということで儀式は廃止となったのだという……。
…それでいい!
そうして与えられたチョコこそ、本当にありがたく、嬉しいチョコなのだ。
だからと言って、自分がもらえるとは限らない。
というか、もらった試しがない。
確かに、恋人はいた!
恋人からはチョコもらってた!
それは、紛れもなく嬉しい。間違いない。
ただし、それとこれとは話が別だ。
別に、その子を抱けるとか、好きになってくれるとか、そういうことを望んでいるわけではないんですよ!!
ただただ、チョコが欲しい!!何となくモテた気分になってみたい!たったそれだけのことなんですよ!
そんな気持ちで出勤してから、数時間。もう、定時は過ぎて半分以上の社員は退勤している。
発表します!ダララララララララララ!(ドラム音)
今のところチョコ数……ゼロ。
そりゃあ、そうだ。
などと、虚しく納得して仕事に心と体を任せる。
そして、事務所内ではなく外にで仕事しなければいけなくなった僕は、寒空の中さんざん走り回った後に事務所に戻る。
と、デスクの上を見る。
そこには…あれ?ちょっと待てよ。
いやいや。これは…え?
チョコ…?
マジでかーっ!!
僕はニヤニヤする顔面を抑えることに全精力を注いだ。
そして、そのチョコの入った包みを手に取る。
そして、隣近所に座る上司たちに聞く。すっとぼけながら。
「あれ?何すか、これ?」
「○○が置いてったんだよ」
「へー。そうなんすかー」
平静を装った僕だが、内心はお祭り騒ぎだ。
顔がにやつきそうなのを必死に自制する。
「キターーーーーっ!!」
テンションはマックスの針を振り切っていた。
ちなみに○○というのは、わが社で総選挙やったらほぼ1位で間違いない!
という、女子だ。
要は前田のあっちゃんだ。
確かに彼女は朝事務所でチョコを配っていた。しかし、あくまで友チョコ的な感じで女子に配っていた。
あのチョコ、お情けでいいからくれんかなー…みたいなことは考えていた。
が、まさかの!まさかの!いただきマンモス!
確かによく見たら、変な袋にゴミみたいなんがちょっと入っているだけだが、そんなの関係ねぇ!!
紛れもなくそれは手作りチョコ!
いや。その前に、確認しなければいけない。僕は、上司たちに聞く。
「これ、皆さんももらったんすか?」
聞こえていないのか、返事が来ない。
全く別の話をしている上司の一人。
ちょ、おい!どーでもいいんだよ。そんな話は。
聞かせろよ!俺に!
皆がもらったのか!…
それとも!俺だけがもらったのか!?
と、熱意が口から飛び出る。
「これ!皆さん!もらったんすか!?」
先ほどより遥かに強い口調。
と、その熱意が伝わったのか、もう一人の上司が
こちらに向かって言う。
「そうだよ」
そうか…そうか…そうかーーーーーーっ!!!
いや。分かっている。分かっている。
あっちゃんが僕のことを好きじゃないなんてことは!
抱けるなんて、到底考えていない。
それでも!それでもこの、心から湧き上がる喜びは否定できない。
非難する気もない。
念のため確認するが、僕には彼女がいる。
彼女から十中八九チョコをもらうことはできるだろう。
しかし、あえて言おう!
それがどうした!?
彼女からもらえるチョコは嬉しいに決まっている。
だからと言って、会社で赤の他人のあっちゃんからもらえる
チョコが嬉しくないわけねーだろが!!
それはともかく、とりあえずお礼が言いたい。
社会人として、同僚として…一言「ありがとうございます」
そう言わなければいけない。
しかし、その日はもう時間も遅く、帰社している。
次の日以降にチャンスを待った。
そして、五日が過ぎた。
何か、もうどうでもよくなっていた。
いや、大体あまりにも時間が経ち過ぎて、
今更お礼を言うのも何か変じゃない?
というか、どういうテンションで言ったらいいかわからんし。
そして、何よりその時の僕は、
便に血が混じり、ろくすっぽ飯も食えないという…
半病人みたいな状態だったのだ。
チョコのお礼言ってる場合ではない。
人と話すのもしんどい。
そして、その夜。
仕事のために上司と歩いていると…
なんと!前方から、偽あっちゃんが!
ついに!ついに会ってしまった!
出来るなら、出会いたくなかった…。
会えば礼を言わなければいけなくなる。
明らかに僕は緊張していた。
体の肉は強張り、呼吸は浅くなる。
しかし、それは覚悟を高めている証でもあった。
だが、そこでふと考える。
おいおい。今はプライベートの時間
緊張しながらも社会人として5年の経験を積み重ねた
Time…確かに仕事中ではある!しかし、今はそれほど切羽詰まっている状況ではない。むしろ、「チョコサンキュでーす」と、軽く談笑するくらいでも良いかも知れない。
PJace…確かに仕事場ではある!しかし、この職場、仕事中にスタッフ同士話してもOK。あまりにも長時間ダラダラプライベートを話すわけにはいかんが、「チョコ、サンキュでーす」くらい言ってもいいはずだ。
O…今すぐイベントが始まるわけではないし、「チョコサンキュでーす」と、言葉を交わすくらいは大好きなはずだ。
と、いうことで結論は「チョコ、サンキュでーす」と言える!と、いうことだ。
僕はあっちゃんの方へと踏み出す。
が、そこで足が一瞬止まる。
しまった!俺の隣には上司が!!
いや。別にいいのだ。先ほど検証した通り「チョコサンキュでーす」くらいはあってもいいはずだ。
しかし、問題がある。
この上司、何かことあるごとにイジってくる上司だ。特に男女のことに関しては。
イジられるのはかまわない。
むしろ好きなくらいだ。
いや、何だかイジられないと、かまわれないと不安なくらいイジられたがりだ。
しかし、その時の僕には今回はイジられたくない!という感情が芽生えていた。
それはそうだ。
僕だけにチョコをくれた、ということは相手だってイジられたくないはずだ。
僕は、「お疲れさんでーす」と通り過ぎた。
ファッキン俺!通り過ぎてどーする!?
だって、こんな時の対処方が俺のマニュアルには載ってねぇ!
「お。○○じゃーん」
と、背後から声。
上司が彼女に話しかけているではないか!しかも、お互い楽しそうに!
くそ!五十代のくせに、何てチャラチャラしてんだ!
僕は、悔しさを感じながら歩き出そうとした…が、途中で気づく。
あのチャラ上司との会話が終わる時…その時こそがチャンスじゃないか!?今なら彼女も笑顔だ!
…ハイエナと罵られてもかまわない!
俺はやるぞ!
大きな決意をした僕は、話している二人を横目に、近くにあったイベントを行うためのステージに立ち寄った。
そして、さも「ちょっとステージボロくなってきたなー。修理しないといかんよなー」とでも考えているかのように、うろうろする。
というか、実際小声で言っていた。
そして、思ったより早くその時はやってきた!
二人の会話が終わったのだ!
うろうろするあまり、若干彼女との距離が空いてしまった僕。
しまった!
疲れた体に鞭打って、軽ダッシュをかます。
その先には彼女。
あくまで軽く!軽く言うんだ!
「チョコ、サンキュでーす」と。
「チョコ…ありが…とうございます」
しかし、疲労と胃の痛さで出た声は、
よく言えば高倉建さん。悪く言えば初めて話しかけたストーカー!
しまった!気負い過ぎた!
「いえ…」
あまりの気迫にだろうか、先ほどチャラ上司と話していた時の笑顔は消え、
むしろ若干引いている!
フォローだ!フォローワーになるんだ!
「お返しとか、どうっすかね。いるんすかね」
説明しよう!ここでこんなことを言ったのには理由がある!
つまり、チョコとかもらったことないんで、どーしたらいいかわかんないっす。的な純朴さを前面に押し出したかったのだ!
しかし、間違えれば何だか重めな印象を与えかねないこの言葉…ある種の賭け!
「…いや。大丈夫っす」
負けたーっ!!
「そうっすか」
負け犬は去っていく。
人生を歩みつづけて27年。
彼女もいるし、昔ほどの性欲もない。
それでも変わらぬ自分に出逢い、
恥ずかしさを感じながらも、
若干の懐かしさと、嬉しさを感じていた。
それからあっちゃんと一ヶ月は気まずかったが。
おわり
言ってしまえば、バレンタインデー前日だ。
曜日的には月曜日。ちなみに僕が勤める会社は火・水曜日が定休日となっているので、バレンタインデー当日は出勤しないのだ!
つまり、つまりこういうことだ!女子が男子にチョコレートをあげられる日は…言い換えれば男子が女子からチョコレートをもらえる唯一無二の日なりーーーっ!!
もちろん昨年もらうことはできなかった。しかし、この職場で働き出して早二年。
そろそろ、あ!あの人好きかも!的な娘がいてもおかしくなくない!?なくなくなくなくなくなくない!?
ただし、ここに一つ重大なポイントがある。しかも、マイナスの方の。
それは、僕の働く一帯の課に女子が少なすぎるのだ!
しかも聞くところによると、その昔わが社にも女子が男子にチョコレートを渡す儀式があったというのだが、バレンタインデーでの女子の苦労…そして、ホワイトデーでのお返し…そんな流れが面倒だということで儀式は廃止となったのだという……。
…それでいい!
そうして与えられたチョコこそ、本当にありがたく、嬉しいチョコなのだ。
だからと言って、自分がもらえるとは限らない。
というか、もらった試しがない。
確かに、恋人はいた!
恋人からはチョコもらってた!
それは、紛れもなく嬉しい。間違いない。
ただし、それとこれとは話が別だ。
別に、その子を抱けるとか、好きになってくれるとか、そういうことを望んでいるわけではないんですよ!!
ただただ、チョコが欲しい!!何となくモテた気分になってみたい!たったそれだけのことなんですよ!
そんな気持ちで出勤してから、数時間。もう、定時は過ぎて半分以上の社員は退勤している。
発表します!ダララララララララララ!(ドラム音)
今のところチョコ数……ゼロ。
そりゃあ、そうだ。
などと、虚しく納得して仕事に心と体を任せる。
そして、事務所内ではなく外にで仕事しなければいけなくなった僕は、寒空の中さんざん走り回った後に事務所に戻る。
と、デスクの上を見る。
そこには…あれ?ちょっと待てよ。
いやいや。これは…え?
チョコ…?
マジでかーっ!!
僕はニヤニヤする顔面を抑えることに全精力を注いだ。
そして、そのチョコの入った包みを手に取る。
そして、隣近所に座る上司たちに聞く。すっとぼけながら。
「あれ?何すか、これ?」
「○○が置いてったんだよ」
「へー。そうなんすかー」
平静を装った僕だが、内心はお祭り騒ぎだ。
顔がにやつきそうなのを必死に自制する。
「キターーーーーっ!!」
テンションはマックスの針を振り切っていた。
ちなみに○○というのは、わが社で総選挙やったらほぼ1位で間違いない!
という、女子だ。
要は前田のあっちゃんだ。
確かに彼女は朝事務所でチョコを配っていた。しかし、あくまで友チョコ的な感じで女子に配っていた。
あのチョコ、お情けでいいからくれんかなー…みたいなことは考えていた。
が、まさかの!まさかの!いただきマンモス!
確かによく見たら、変な袋にゴミみたいなんがちょっと入っているだけだが、そんなの関係ねぇ!!
紛れもなくそれは手作りチョコ!
いや。その前に、確認しなければいけない。僕は、上司たちに聞く。
「これ、皆さんももらったんすか?」
聞こえていないのか、返事が来ない。
全く別の話をしている上司の一人。
ちょ、おい!どーでもいいんだよ。そんな話は。
聞かせろよ!俺に!
皆がもらったのか!…
それとも!俺だけがもらったのか!?
と、熱意が口から飛び出る。
「これ!皆さん!もらったんすか!?」
先ほどより遥かに強い口調。
と、その熱意が伝わったのか、もう一人の上司が
こちらに向かって言う。
「そうだよ」
そうか…そうか…そうかーーーーーーっ!!!
いや。分かっている。分かっている。
あっちゃんが僕のことを好きじゃないなんてことは!
抱けるなんて、到底考えていない。
それでも!それでもこの、心から湧き上がる喜びは否定できない。
非難する気もない。
念のため確認するが、僕には彼女がいる。
彼女から十中八九チョコをもらうことはできるだろう。
しかし、あえて言おう!
それがどうした!?
彼女からもらえるチョコは嬉しいに決まっている。
だからと言って、会社で赤の他人のあっちゃんからもらえる
チョコが嬉しくないわけねーだろが!!
それはともかく、とりあえずお礼が言いたい。
社会人として、同僚として…一言「ありがとうございます」
そう言わなければいけない。
しかし、その日はもう時間も遅く、帰社している。
次の日以降にチャンスを待った。
そして、五日が過ぎた。
何か、もうどうでもよくなっていた。
いや、大体あまりにも時間が経ち過ぎて、
今更お礼を言うのも何か変じゃない?
というか、どういうテンションで言ったらいいかわからんし。
そして、何よりその時の僕は、
便に血が混じり、ろくすっぽ飯も食えないという…
半病人みたいな状態だったのだ。
チョコのお礼言ってる場合ではない。
人と話すのもしんどい。
そして、その夜。
仕事のために上司と歩いていると…
なんと!前方から、偽あっちゃんが!
ついに!ついに会ってしまった!
出来るなら、出会いたくなかった…。
会えば礼を言わなければいけなくなる。
明らかに僕は緊張していた。
体の肉は強張り、呼吸は浅くなる。
しかし、それは覚悟を高めている証でもあった。
だが、そこでふと考える。
おいおい。今はプライベートの時間
緊張しながらも社会人として5年の経験を積み重ねた
Time…確かに仕事中ではある!しかし、今はそれほど切羽詰まっている状況ではない。むしろ、「チョコサンキュでーす」と、軽く談笑するくらいでも良いかも知れない。
PJace…確かに仕事場ではある!しかし、この職場、仕事中にスタッフ同士話してもOK。あまりにも長時間ダラダラプライベートを話すわけにはいかんが、「チョコ、サンキュでーす」くらい言ってもいいはずだ。
O…今すぐイベントが始まるわけではないし、「チョコサンキュでーす」と、言葉を交わすくらいは大好きなはずだ。
と、いうことで結論は「チョコ、サンキュでーす」と言える!と、いうことだ。
僕はあっちゃんの方へと踏み出す。
が、そこで足が一瞬止まる。
しまった!俺の隣には上司が!!
いや。別にいいのだ。先ほど検証した通り「チョコサンキュでーす」くらいはあってもいいはずだ。
しかし、問題がある。
この上司、何かことあるごとにイジってくる上司だ。特に男女のことに関しては。
イジられるのはかまわない。
むしろ好きなくらいだ。
いや、何だかイジられないと、かまわれないと不安なくらいイジられたがりだ。
しかし、その時の僕には今回はイジられたくない!という感情が芽生えていた。
それはそうだ。
僕だけにチョコをくれた、ということは相手だってイジられたくないはずだ。
僕は、「お疲れさんでーす」と通り過ぎた。
ファッキン俺!通り過ぎてどーする!?
だって、こんな時の対処方が俺のマニュアルには載ってねぇ!
「お。○○じゃーん」
と、背後から声。
上司が彼女に話しかけているではないか!しかも、お互い楽しそうに!
くそ!五十代のくせに、何てチャラチャラしてんだ!
僕は、悔しさを感じながら歩き出そうとした…が、途中で気づく。
あのチャラ上司との会話が終わる時…その時こそがチャンスじゃないか!?今なら彼女も笑顔だ!
…ハイエナと罵られてもかまわない!
俺はやるぞ!
大きな決意をした僕は、話している二人を横目に、近くにあったイベントを行うためのステージに立ち寄った。
そして、さも「ちょっとステージボロくなってきたなー。修理しないといかんよなー」とでも考えているかのように、うろうろする。
というか、実際小声で言っていた。
そして、思ったより早くその時はやってきた!
二人の会話が終わったのだ!
うろうろするあまり、若干彼女との距離が空いてしまった僕。
しまった!
疲れた体に鞭打って、軽ダッシュをかます。
その先には彼女。
あくまで軽く!軽く言うんだ!
「チョコ、サンキュでーす」と。
「チョコ…ありが…とうございます」
しかし、疲労と胃の痛さで出た声は、
よく言えば高倉建さん。悪く言えば初めて話しかけたストーカー!
しまった!気負い過ぎた!
「いえ…」
あまりの気迫にだろうか、先ほどチャラ上司と話していた時の笑顔は消え、
むしろ若干引いている!
フォローだ!フォローワーになるんだ!
「お返しとか、どうっすかね。いるんすかね」
説明しよう!ここでこんなことを言ったのには理由がある!
つまり、チョコとかもらったことないんで、どーしたらいいかわかんないっす。的な純朴さを前面に押し出したかったのだ!
しかし、間違えれば何だか重めな印象を与えかねないこの言葉…ある種の賭け!
「…いや。大丈夫っす」
負けたーっ!!
「そうっすか」
負け犬は去っていく。
人生を歩みつづけて27年。
彼女もいるし、昔ほどの性欲もない。
それでも変わらぬ自分に出逢い、
恥ずかしさを感じながらも、
若干の懐かしさと、嬉しさを感じていた。
それからあっちゃんと一ヶ月は気まずかったが。
おわり