鏡を見るのが嫌いだ。別に自分に自信がないわけじゃなく、かといってあるわけでもない。
鏡を見てると、不意にあの夢を思い出すんだ。
怖いとかそんなんじゃない、ただ、胸くそ悪いだけだ。
その夢を見だしたのは、つい最近の話しになる。
真っ暗い闇の中に、“それ”はポツンとあった。鏡だ。
俺の全身を写す大きな鏡。俺が手を差し伸べれば、鏡の中の俺も手を差し伸べる。
まるで偽善者のようだ。うわべだけのいい人気取り、いつも隅にいるような、そんな小さな人間だ。
そんなことを考えながら、鏡の俺を見ていると、気のせいだろうか?ソイツが笑った気がした。
見間違いかと思ったが、そうでもなかった。笑ってやがる。
鏡のソイツは、安っぽい笑みを作り俺を見ていた。・・・光りも写さぬその目で。
鏡をみるたびに、ソイツを思い出した。思い出したら寒気がした。
中のやつを俺とは思わないようにした。俺に似た姿をした、ただのやつであると。
夢にでてくる、鏡の中のソイツは、今度は喋るようになった。
ポツリポツリと、ただ一言「我が身」と。
心なしか、最近の俺は鏡のソイツに似てきた気がした。
そんな馬鹿な、アイツが俺に似ているだけだ。
鏡のソイツは、相変らず安っぽい笑みで俺を見ていた。
そしてまじないのように「我が身」と何度も呟くのだった。しかし今日は違った。
『よう、もう1人の俺』
ソイツは光りを写さぬ瞳で俺を見据えた。
『調子はどうだ?』
「・・・まぁまぁ・・・だ。」
今日ソイツと初めて話した気がした。いや、初めっから話す気などはなかったがな。
『時として、お前は力って物が欲しいか?』
それは突然の質問。
「・・・手に入るならば・・・欲しい・・・。」
俺は昔から、弱かった。力も、自分自身も、何もかもが。
教室はいつも隅で、なるべく目立たないように過ごした。
誰かがいじめられても、見て見ぬフリをし続けた。
そんな生活に、もううんざりした。手に入れられるもんなら、いれてみたいさ。
だが、この選択は間違っていただろう。
『・・・言ったな?言ったな?!ほしいといったな!』
ソイツの様子が一変した。
『もう戻れないゾ!後悔してもしらないぞ!それは我が身に、我が物に!』
そこで夢は途切れた。
鏡をみるのが好きだ。そこには、何時だって強い俺が写るから。
しかし胸くそ悪いのが、夢の中にでてくるアイツを思い出すからだ。
夢の中のソイツは、とても弱々しい、しかしそのくせ、姿は俺にそっくりだ。まったくもってムカツクぜ。
そしてもっとムカツク事は
そいつが昔の自分にそっくりだってことさー
end
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テーマ「二重人格」