それは、遠い昔の話。

佐々原十夜 7歳の春。

18年後の今、母の名を借り「汐鵜」として生きている・・・。



~18年前~


「何度言ったらわかるんだ!」

「キャッ!」


親父はいつもそうだった。

帰ってくるなり酒を飲み。あげく母さんにまで暴力をふるった。

昔は、とても優しかった親父。大好きで・・・目標でもあった親父。

だけど・・・今は違う。



「母さん・・・母さん!」

「十夜・・・ごめんね。母さんもう・・・ダメなの・・・。」

「母さん・・・母さーーーんっ!!」


大好きだった母さんは、親父の暴力に絶えられなくなり

俺を置いて家をでていった。

その時からか、俺は毎日のように泣いていた気がする。


「うっ・・・ぐすっ・・・」

「泣くな!うるせぇ!」


パリンッ


「っ!」


投げつけられたグラスが、深く俺の左頬を切った。

その時親父は、一瞬だけ・・・ほんと一瞬だけ、我に返ったような顔をした。

しかし、また何事もなかったように俺に背を向けた。

そして少し思った。『親父の背中はこんなにも小さかっただろうか?』



それから12年。

俺は高校を卒業した。あの時以来、一度も口を聞いてはいない。

卒業を期に、ストレスで色の抜けたこの白い髪を金色に染めた。ピアスも開けてみた。

しかし親父は何も言わなかった。

いや・・・今思えば。『言えなかった』のかもしれない。



その時は突然に訪れた。

俺が友人の家から帰ってきた時だ

いつもついてるハズのテレビが、ついていなかったのだ。

多分、寝てるんだろう。・・・そういつもは思うだろう。

しかし、何故だかその時、いやな胸騒ぎがしたんだ。

「・・・・親父?」

12年間、呼ぶ事のなかった人。

俺は茶の間に駆けてった。

「!?親父っ!」

目の前には横たわる親父の姿があった。

「っ・・・あ・・・・きゅ・・・・救急車!」

俺は頭ん中が真っ白で。

救急車がくるまで、ずっと親父を呼ぶことしかできなかった。


_____________


「そん・・・な・・・・」

親父は死んだ。呆気なく、静かに。

(こんな親父なんて、死んで当然だ)

こう思った自分に嫌気がさした。

人が死んで喜ぶなど、あってはならないことだ。

こんなだった親父でも、血の繋がりってもんはあるし・・・

悲しかったさ。最後の肉親を失ったのだから。

だけど・・・・

泣く事ができなかったー・・・


いや、できなくなっていた。

俺は12年前のあの時に、泣く事をやめたんだ。

そして・・・笑う事を選んだ。



泣く事がバカらしくなった。

だからいっその事

笑おうと思ったー・・・



___________


『うっ・・・・うわああああああんっ!』


その声は、夢の中から俺をひっぱりだした。


「・・・・んあ?・・・誰だ・・・?」




「あ?どーした坊主?こんな朝早くに・・・。」



それが、俺と「鴇」との出会いだった。



END