機能不全家族の中で、顕著にみられる傾向として、無意識の心理的な混乱と拘束をする、ダブルバインドが無数に繰り広げられるという特徴があります。

 

 子を一方的に従わせるという禁止や命令等は、非常にわかりやすい例ですが、人間の心というものは、とても複雑かつ巧妙です。それは、大抵の場合、使っている本人(主に親や教師などの周りの大人)も、その意味や効果を知ることなく、無意識に使っているのです。

 

 無意識にしているので、当然、何度となく幾度も繰り返され、子の心に多大な混乱と拘束状態を、その都度、与え続けていることを理解できません。

 

 気づくことができて、子の気持ち、子を尊重するということはどういうことか、肌で体験できれば、修正していくきっかけができますが、その道のりは容易ではありません。

 

 長い年月かけて積み重ねてきた、誤った思い込みや制限、コントロールは、ちょっとやそっとでは変容できません。辛抱強く、少しずつ少しずつ、自分の抑圧してきた感情と向き合いながら、理解を深め、緩めていくしかないと思います。

 

 ダブルバインドをしてしまう親は、自分もその親から、幼少期からずっとされていて、苦しい思いを抱えたまま大人になり、その苦しさを解放させることができていません。何が苦しいのかさえわからずに、その人なりに一生懸命生きています。

 

 自分の苦しさの源を解放していないので、自分と親との関係性のまずさの本質を真に理解できません。だから、自分なりに良かれと思って子育てしても、親になると、今度は、無意識に加害者側になってしまうという図式です。

 

 だから、自分が親として健全かどうか、と振り返る出発点は、自分の心の中と向き合うことです。自分の心の有り様が変われば、自ずと子と、親としての自分の関係のどこがまずいか、わかるようになります。

 

 親が、親自身の心と向き合わずして、表面的に見えている、子と親の関係性だけを改善するということは、かなりの遠回りになる気がします。

 

 とは言っても、対症療法的に、このような言い回しは、子を混乱させ、心理的拘束を生み出し、親に対して、疑いと不信が生まれ、積み重なっていくということを、もっと一般的に広く、認知させていく必要もあると思います。これ以上の繰り返しを、ひとまずストップさせることも、同時進行で行っていく必要があるのです。

 

 具体例を出して、こういう言い方の本質は、親の価値観の押し付けだったり、子の自由な選択権を無意識に奪っており、親の期待通り、思い通りにさせようとする行為であることを、広く教えていくことも大事なことだと思います。

 

 ダブルバインドを受けた子は、うつや統合失調症などの精神性疾患になりやすいとされています。心の崩壊は、その人自身の心の弱さだけ、という単純な理由ではありません。

 

 そのような短絡的な理由付けと偏見を持って、安易に片づけてしまう人がいますが、それは、その人自身が、そこまで深刻な状況に出くわしたことのない、幸せな人なのだと思います。

 

 心が弱くなる理由がきちんと存在し、心が崩壊するに至る様々な時系列的な経緯や環境などの理由があり、その原因が、大事になる前に止められることなく、幾度となく無数に繰り返された結果であるのです。

 

 そのような人達が、いくつになっても、心を再生し直すことができる、ということを、私は体現していきたいのです。