現代版シンデレラ(78)の続き。
ソニアの遺書を読み、あの日の出来事を思い出したグレッグは言葉を失いました。
二度と戻らない笑顔。シンデレラを産んでとても嬉しそうに微笑んでいたソニア。
すべては遠い日の幻のように思えました。もう何一つ残っていないのです。
グレッグはソニアのためにやったと自分に言い聞かせてきました。ソニアが苦しまないですむなら。この方がいい。たとえ、それが世間から認められない行為であったとしても、そんなこと一向に構わない。
ですが、本当はそうではありませんでした。
シンデレラはグレッグの元に駆け寄り、呆然としているグレッグからソニアの遺書を手に入れ、読み始めました。
大好きな私の夫グレッグへ
私たちが出会ったときのことを覚えていますか?
病院の窓から外を眺めていた私を連れ出して、あなたは私に外の世界を見せてくれましたよね。
あの後、両親にすごく怒られましたが、私は人生でとても楽しい経験をしたことを今でも忘れることができません。
私はずっとあなたに憧れていました。今でも私はグレッグ、あなたに憧れているんです。だって、あなたはわたしにとって童話に出てくる白馬の王子様、そのものでしたから。素敵な方にめぐり合えたことに心から神に感謝しています。こんないつも寝てばかりのいる私を妻に、それも母親までさせてくれたグレッグ、もう感謝のしようがありません。
この手紙を読んでいるなら、私はこの世にいないかもしれません。でも、私は何の未練もありません。グレッグ、あなたが私に幸せを運んできてくれました。病弱の私が本の中のような素敵な恋愛をし、結婚し、子供まで授かりました。これ以上の幸せなんてありません。だから、もういいんです。これ以上、自分を苦しめないでください。あなたは私を十分に愛してくれた。たとえ、病気が治らなくても、そのことだけは絶対に変わらない。誰よりも一番この私が知っています。だから、もういいんです。
私が死んだら誰か素敵な方を見つけてください。そして、今度はあなたが幸せになってください。私が幸せにしてあげられなかった分、幸せになってください。それが私からの願いです。
最後に、シンデレラのことをよろしくお願いします。シンデレラは私の最後の希望です。あの子は私と違って元気な子だから。きっといい子に育ってくれます。親らしいことは何一つできなくてこの世を去ることをなってしまった私を、あの子は憎むかもしれませんね。でも、私は・・・、シンデレラを育てたかった。そのことだけ伝えて、いえ、これはあなたの心の奥にしまっておいてください。多くのものを望むのは欲張りですよね。私はこんなにも幸せを頂いたのですから。
今までどうもありがとうございました。
ソニアより
その手紙にこめられた思いを今のシンデレラには少ししか理解できませんでした。ですが、それでも頬から涙が零れ落ち続けました。シンデレラは泣いていました。今まで泣いていた理由とは違います。
シンデレラはその場で肩を落とし泣き崩れました。
何も知りませんでした。自分がどれほど愛されて産まれて来たのかを。ソニアがどれほど苦しんで自分の産んでくれたのを。
呆然としたグレッグが呟きました。
「ほんと馬鹿な娘だ・・・。本当に馬鹿な娘だ・・・。こんな・・・こんなことまで・・・」
グレッグは自分がソニアを助けたのではなく、ソニアが自分を救ってくれたことに気付いたのです。
どうして毒薬を自ら飲んだのか。殺されることがわかっていても何もいわなかったのか。
その答えは、自分が死ぬことでグレッグが救われることを知っていたからです。
「ソニア・・・私はもう取り返しのつかないことをしてしまった。もう、生きていく自信も消えうせた。遅くなったが、許してくれるか?」
グレッグは懐から隠し持っていたナイフを取りだします。
一同は唖然として、状況を飲み込むことはできませんでした。
生きる望みを失ったグレッグは自殺を図ろうとしているのです。
現代版シンデレラ(79)終わり。80に続きます。