現代版シンデレラ(74)の続き。


 完全に探偵の仕掛けた作戦に見事はまったグレッグ。


 もはや言い逃れをすることや冷静さを装う気力もなく 精魂尽き果ててしまったグレッグの表情は急に何十年も老けたのかと思えるほど先ほどとは大きく異なっています。


 義理の姉もシンデレラも こんな表情のグレッグを見るのは初めてでした。いつも大人の余裕を漂わし 周囲に何かしらの緊張感を与え続けていたグレッグでしたが それはもう見る影もありません。


 探偵が行なった完全なる敗北。立ち上がれない絶望。この先にあるのは牢獄と裁判。そして、おそらく終身刑や死刑となるであろう判決。同情する者は誰もいません。グレッグのために悲しむ人も泣く人ももう誰もいないのです。


 自分はいつからこんなにも孤独になったのか。グレッグは考えました。自分はいつからこんなにも誰も信用しなくなったのか。グレッグは思いました。自分はいつから人を愛せなくなったのか。グレッグにはわかりませんでした。


 自分自身のことであるのに 何一つわかりません。どうして自分はこれほどまでに酷いことを平気で行い、病気の妻、そして実の娘でさえ始末するようになったのか。いったいいつから自分という存在がわからなくなったのか・・・しかし、もう遅すぎました。


 探偵は地面にへたり込み正気を失いかけているグレッグに声を掛けます。


 「グレッグ・・・答えは出たか?」


 「・・・ど、どういうことだ?」


 「私はこれまでに多くの犯罪者を見てきている。彼らに共通することは一つ。最初から、彼ら全員が悪い人間ではなかったということだ。生活環境、人間関係、心の在り方。様々な原因が人間を悪い方へと引き寄せていく。グレッグ、あなたも其の一人だ。事業が拡大するにつれて、人間の負の部分が如実と明らかにされていく。誰もが自分の有利になるように話しを進めていく。資本主義が生み出したもう一つの戦争だと・・・私は思っている。其の戦争で生き残るためには・・・他社を蹴落として利益を上げていくのが当然となる。できなければ、待っているのは倒産しかないのだから」


 「・・・それがどうしたというのだ? 同情のつもりか? そんなことは百も承知だ。私が仕事をして来た世界に思いやりやら優しさなどは存在しない。あるのは如何に相手を出し抜くか。其の一点だった。そのために・・・そのために、私はなんでもやった」


 「同情などしない。グレッグ・・・あなたは利益のために社会のルールを破ったのだ。法律という名のルールをね。一度破れば、弱い人間などずっと破り続ける。それはたった一度、道を踏み外しただけのことだったはずだ。だが、それが運良く成功してしまい、それが必然となってしまった。ただ、それだけのことだ」


 グレッグはなんだかおかしくなりました。自分より一回りも二回りも年下の相手にこうも当たり前のことを教えられる。いつもなら軽く聞き流していたはずの言葉がグレッグの心に響きます。


 「一つだけ・・・一つだけ教えてくれ。どうしてもわからないことがある」


 「何でしょうか?」


 「なぜ・・・なぜなんだ。お前は私に何度も邪魔され、挙句の果てに命まで狙われて、まだ依頼を遂行し続けた。その理由は何なのだ? それほどまでに・・・シンデレラを・・・この娘を愛していたとでも言うのか?」


 グレッグの口から思ってもいなかった言葉が飛び出し シンデレラは動揺して 頬を紅潮させました。それはシンデレラ自身がずっと疑問に感じていたことでもありました。


 「ようやく其の言葉が出たな。私はこの機会をずっと窺っていた。それこそ、私が依頼を受けた本当の理由に他ならないからだ」


 


  シンデレラ(76)に続く。いよいよ、明かされる探偵が依頼を受けた真の理由。それはいったい・・・。