自機破損状況確認。
思考判断プログラムオールグリーン。
視界センサー異常無し。
脚部関節動作不能。
腕部関節動作不能。
背部、並びに脚部バーニア動作不能。
現在自機に置かれている状況を確認。
海中にて沈下中。
自機破損状況並びに現環境状況から考慮される自機が行う最善策を検索。



該当無し。
海底に着地。
サルベージの見込みは無し。

よって自機は機密事項保護の為、思考判断プログラムを自壊。




ピー、バツン






「今日もガラクタ集めに精が出てるようだな、香林」
魔法の森から大荷物を背負い込んで出てきた香霖と呼ばれた男を、箒に乗りとんがり帽子をかぶった少女が労う。
「ああ、今日は珍しいモノが落ちていたよ。ほら、これ」
そう言って香林は背中にある大きな何かを少女に見せた。それは、箒少女と同じくらいの年齢であろう少女であった。箒少女は目を丸くして香林を見つめる。
「外の人間じゃないのか?」
「魔理沙、これはれっきとしたアイテムだよ、アイテム。人型のアイテム、つまり人形だろう?」
どこをどう見ればアイテムなのだろうか、と魔理沙と呼ばれた少女は思った。肌触りだって人間だし、毛髪ですら人間そのものだ。服装は前に香霖の店で見たスクール水着らしきもので、あまり常識ある人間には見えないが、見た目は人間ではある。
しかし、香霖が言うのだからまず間違いはないだろう。彼の能力は「未知のアイテムの名前と用途が分かる」能力である。目利きだけは良い彼だ、出鱈目ではまず無いであろう。たぶん。
「せっかくだから店に入って、一緒にこの人形を観察しないか?」






「うーむ、肌触りといい、本当に人間らしい人形だな」
香霖はまじまじと人形を見つめたり触ったりして確認している。端から見れば寝ている少女に悪戯をしているヘンタイでしかない。
「名前と用途は何なんだ」
「名前はBA-01P試作型アンドロイド、用途は自律判断による作戦行動を行うこと。…アンドロイド?初めて聞く言葉だ…」
私も初めて聞く単語であった。アン、ドロ、イド。餡がドロドロしている井戸。全くわけの分からない文章が頭に思い浮かび、意味が分からなすぎてバカのようだった。なるほど、バカの感覚はこういうモノか、バカ氷精の心境が分かった気がする。
「あらお二人さん、ガラクタ弄りに精が出ますわね」
店に入ってきたのは妖怪の賢者と呼ばれる力の強い妖怪だった。名を八雲紫という。
いや、店に入ってきたというより、店の中に現れたのほうが正しい。空間の裂け目から上半身を出し、嘲るような表情でこちらを見てくる。

すると紫は人形を見るなり、ニヤニヤと笑い出した。この妖怪の考える事は、本当によく分からない。

「紫、アンドロイドってなんだ?」

私がそう聞くと、紫はニヤニヤ顔を崩さずに答えた。ある意味怖い。

「簡単に言うと機械人形ってところかしら。外界で造られた人間そっくりに動く人形よ。そのお人形さんは壊れてるみたいだけど、あの人なら直せるんじゃないかしら?」

そう言って紫はある方向を見つめる。私も釣られてその方向を見ると、その先には唖然とした表情をしていた香霖がいた。

香霖は後ろを振り向くが、もちろん誰もいない。あるのは商品が陳列された棚だけだ。

「わ、私ですか?あいにく、外界の機械を直す技術は持ち合わせてないですよ?」

「私の八卦炉も香霖が造ったんじゃないか、たぶん出来るよ、たぶん」

「魔理沙も簡単に言わないでくれ・・・」

香霖は拒み続ける。その光景を見て、紫が大きな溜め息をついた。

「じゃあ私が修理を依頼するわ。それなら問題無いでしょ、ええ、問題なんか微塵も無いわ」

強引に切り返して、紫は空間の裂け目へ潜り込んだ。「バッハハ~イ」の声のもと、空間の裂け目は閉じ、消えてなくなった。

もちろん香霖は反論するつもりであっただろうが、あの強引さには勝てないであろう。私だって勝てない。

香霖は大きく溜め息をついた。そして意を決したのか、人形を抱きあげた。

「仕方ない。これから修理にかかるから、店は閉めるよ。魔理沙も今日は帰ってくれないか?」

「ああ分かった。あ、ついでに私の八卦炉も」

バタン

つまみだされてしまった。ほんの冗談だってのに。




「ふふ、久々に面白くなるわ、平凡な日々に終止符が打たれるんだわ。あー楽しみ」

「・・・また悪巧みですか?」

「策謀と言いなさい、藍」



つづく