参考文献:[判例で学ぶ]民事事実認定・有斐閣(2006)

最高裁平成元年12月8日第二小法廷判決

○事案の概要
 Xは、石油連盟Y1及び石油元売業者Y2らを相手として、第一次石油ショックの時
期にY1、Y2が価格協定を締結したため、高い価格で灯油を購入しなければならな
かったとして、民法709条にもとづく損害賠償請求を提起した。

○争点
(1)「独占禁止法に違反する価格協定によって損害を被ったと主張する消費者が
民法709条に基づいて違反事業者に損害賠償を求めた訴訟において、原告は、損
害についてどのような事実を主張・立証しなければならないのか」。
(2)当該価格協定が実施されなければ形成されていたであろう価格(想定購入価
格)について、原告はどのような事実を主張・立証しなければならないか」。

○判旨
 破棄自判
 「記録にあらわれた本件訴訟の経過に照らすと、Xらは、本件訴訟において、直前
価格を想定購入価格として損害の額の算定をすべきであって、その方法以外に
は、損害の額の算定は不可能であると一貫して主張し、1(二)で説示した前記推
計の基礎資料とするに足りる民生用灯油の価格形成上の特性及び経済的変動の内
容、程度等の価格形成要因(ことに各協定が行われなかった場合の想定元売価格の
形成要因)についても、何ら立証されていないのであるから、本件各協定が実施さ
れなかったならば現実の小売価格よりも安い小売価格が形成されていたとは認めら
れないというほかない」。

○考察
 本事案の担当は、学習院大学教授の長谷部由起子先生である。
 「本件のように、一般消費者が独禁法違反行為による損害の賠償を請求する場合
には、損害は、違反行為によって形成された価格(現実購入価格)と違反行為がな
ければ形成されていたであろう価格(想定購入価格)との差額であると考えられ
る」。
 「本判決は、推認が認められる前提として、①価格協定が実施された時点から消費
者が商品を購入する時点までの間に小売価格の形成に影響を及ぼす経済条件、市場
構造その他の経済的要因等にさしたる変動がないこと、を要求し、その立証責任は
原告が負担するものとした」。
 「直前価格を想定購入価格と推認することができないとすると、原告が想定購入
価格を立証するためには、直前購入価格のほかにどのような事実を立証すべきこと
になるのか。この問題について本判決は、②当該商品の価格形成上の特性及び経済的
変動の内容、程度その他の価格形成要因、を立証しなければならないとした。そし
て、控訴審までに②の事実は何ら立証されていないとして、価格協定が実施されなけ
れば現実購入価格よりも安い小売価格が形成されていたとは認められない、と結論
づけた」。
 「本件の控訴審判決は、前後理論に基づいて損害額を算定している。これに対し
て本判決は、前後理論が一般的に妥当する手法であることは認めながらも、本件に
おいては価格協定の実施後、消費者が商品を購入する時点までの間に顕著な価格変
動要因があったことを挙げて、前後理論が妥当する前提を欠いているとした。本判
決が、直前価格を想定購入価格と推認するためには価格変動要因のなかったことを
原告が立証しなければならないとした点について、多くの学説は批判的であり、控
訴審判決のように、直前価格を想定購入価格と推認すべきだとしている」。
 「しかし、損害の発生の証明と損害額の証明とは、理論上は区別するべきであ
る。すなわち、現実購入価格が想定購入価格よりも高かったことが証明されれ
ば、損害の発生は証明されたことになり、差額が具体的にいくらであったかは、損
害額の問題となる」。「高度の蓋然性をもって示されれば、証明されたというべき
である」。
 本判決後に新設された現行民事訴訟法248条の立法趣旨は、「損害の発生は認
められるのに、損害額の証明に困難があるために損害賠償請求が棄却されるのは不
合理である、という判断にあったはず」である。
 このように述べられている。
 ということは、本判決の判断には、問題があるということだろうか?…という考慮
のもとに…と最後に述べていることからすると、たぶんそうなのだろう。
 確かに、損害の発生の証明と損害額の証明は別次元の問題であると私も思
う。あったかなかったの証明とどのくらいかの証明では、どちらが難しいだろう
か?おそらく後者であろう。いくら、という具体的数字を提示するのは簡単なよう
で実はかなり難しい。だからこそ248条で裁判所が相当な損害額を認定できると
したのである。
 つまり、証明とは、換言すれば、裁判官を納得させるのは、数字ではないという
ことだ。勿論数字の場合もあり得るが、まずは、自分にはこういう権利があるとい
う根拠を示す必要があるということだ。その上で初めて数字云々になってくるはず
である。
 例えば、損害100万、と言ったところで、何でよ?、となるわけですから。
 勿論当該事案では、不利な立場である消費者の立証責任を軽減させる必要があっ
たと思われる。にもかかわらず、差額の証明となったからには、どうなのかと思
う。



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