第二十九話、ファミリーその2


 天六のファミリーの本拠地。
 私は迂闊にとび込んだことを激しく後悔した。
 MAVICのホイールSMPのサドルシマノの熱整形シューズヴィットリアの決戦用タイヤZERO rh+ の調光レンズグラサン――。次々と強敵が繰り出し、無言のうちに精神的な死闘が繰り広げられる。
 正直ナメてた。こんなツワモノばかり相手にしていたら、財布がいくつあっても足りない。
 今にも敗れそうになりながら必死に怺えて、私は目的のブツをなんとか手にして取引を終えた。


 おぼつかない足取りでなんとか外に出る。
「ボス、大丈夫ですかい?」
 店を出た私の憔悴しきった顔を見て、バロンが心配そうに声をかけた。
「なんでもねぇ……。ちょっと気を張っただけだ。取引は無事終わったぜ」
「なら、いいんですが……」

 ブツの入った袋をバロンに渡してすぐに車を出させた。


 また大阪市内を走る。

造幣局

 大阪市北区天満にある桜宮造幣局。全国に三カ所しかない造幣局の本局にあたる。この国のマネーを一手に握る本拠地だ。硬貨、紙幣、勲章、褒章も長野オリンピックのメダルもここで造られたらしい。春になると400本の桜の木が満開になり、桜の通り抜け、として一般開放される。大阪でも特に有名な名所だ。

 この街は金だけではない、シマ(シマノ)から吸い上げられるブツ(パーツ)を世界中のマフィアが狙っている。この街がなければ、この業界が成り立たないほどだ。


 それにしても最近は大阪の街も物騒になったものだ。市内を走るとマフィアの構成員らしき車を見かけない日はない。


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 こんな代紋(ロゴマーク)を堂々と振りかざしながら、肩で風きる北米系マフィアが随分と増えた。
 まれに TIME や LOOK といったフレンチ・コネクションも見かける。


寝屋川
 造幣局を過ぎて、またしばらく走る。

 土佐堀通りを過ぎたあたりで旧淀川と寝屋川が合流する京橋に出た。

 ここから大阪城の外堀へと入る。

大阪城外堀
 この辺りまで来れば水質もきれいになってくる。
 大阪城の外堀周辺をしばらく走る。

 この辺はマラソンランナーも多く、路面もいい。心なしかバロンも気分が乗ってきたようだ。


大阪城天守閣
 この辺りは車(自転車)で乗り入れできるので、外堀から大手門をプチヒルクライムして二の丸へと上がる。春になると桜や梅の庭園が見頃。

 天守閣を眺めるには絶好のポイント。


 二の丸の城壁沿いへと出ようとした時、突然トラブルに見舞われた。それまでアスファルトだった道が、突然土の道に変わったのだ。よく見ると、ところどころ砂利道になっている。
 バロンは寂しそうにシケた声を出した。
「ボス、残念ながらここまでのようです。自分を置いて行ってください」
「バカ言うんじゃねぇ。てめぇを置いていけるかよ」

「しかし、この足じゃあ……」
 バロンは足をさすった。確かに今のコイツの足(スリック)では砂利道は無理だろう。
 組のトップとして舎弟を見捨てるわけにはいかない。しばしの逡巡のあと、私は決断を下した。
「わかったよ。じゃあ、こうすりゃいいんだろ」
 私はバロンをひょいと担ぎ上げ、肩の上にホリゾンタルのフレームを載せた。
「ボ、ボス!? 無茶はやめてください。そんなに力を入れたらせっかく治った尻が――」
「尻は関係ねぇ!」
 私は一喝した。バロンは心底心配しているが真面目な話、尻は関係ない。
「申し訳ありません……。ボスにこんなマネまでさせて――」
「ヘッ。水臭ぇこと言うなよ」

「しかし重いでしょう?」

「バカ言うな。俺は組をしょってんだ。舎弟を担ぐのに重さなんて感じねぇ」

 砂利道をすぎて森の中を進むと石階段が見えてくる。バロンを担ぎながら登ると、急に景色が開けた。
大阪城二の丸2 大阪城二の丸1

 左側の先に見える大手前の向こうに、橋本知事で一躍有名になった大阪府庁がある。

 この場所は大阪の街がよく見える。晴れた日はシノギ(仕事)の合間に舎弟のCS3200を連れてきて、この眺めを見下ろしながら弁当を食べるのが私のひそかな楽しみ。

「よぉーく見ておけ、これが大阪――俺達の街だ」
「……きたねぇ街ですね」

「ああ、きたねぇ街だ」

 悪態をつきながら私はどこか楽しげであった。



「ところで、ボス? ずっと気になってたんですが、今日は何を取引したんですかい?」

「ん? ああ、こいつだよ」

セラミックルーブ
「コイツは……」

「おまえんトコのチェーンに差してやんな。ほっとくとサビちまうからな」

「自分はボスの世話になりっぱなしなのに、こんなことまで……」

「つまんねぇこと言うなよ。俺たちゃ、ファミリー、だろ――」

「ボス……」

 バロンは鼻をすすり、目頭を押さえた。

「なんだよ。お前泣いてんのか? 湿っぽいのは勘弁してくれよ」

「いえ、コイツはグリスです……」

「へっ。まあ、そういうことにしておくか」

「でも、不思議ですね。このきたねぇ街が妙に気に入りました……。ボス、これからもよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ、よろしくな」

 きたねぇ街を一望しながら、私とバロンは固く握手を交わした――。



本作品で一部不適切な表現がありますが(一部か?)作品のオリジナリティーを尊重するため、そのまま記載しております。ご了承ください。


って、タダのポタリングじゃん……

書いた本人が言うのもなんだけど、シュールすぎるだろ、このネタは……

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