悠志のブログ

悠志のブログ

ぷくぷくぷくぷくぷくぷく。

 

 第14週「女房百日 馬二十日?」

 演出:梛川善郎。

 先週以来、すっかり人気者になってしまった寅子。

 「家庭に光を! 少年に愛を!」とスローガンを掲げるものの、それが実行できているか。家事部、少年部の両方からお叱りを受ける寅子。月曜日。そんな寅子と多岐川が睨み合う、印象的な場面があった。伊藤沙莉の真剣な表情が大画面にドアップで映った。「私はきちんと仕事をしています」。理想に燃える寅子だが、家でも持ち帰った仕事をしながら寝てしまい、優未(竹澤咲子)の起きているうちに帰ることもないし、一緒に寝ることも無くなった。花江さんは優未の異変に気づいているようだが、寅子は忙しくてそこまで気が廻らない。

 桂場さんとライアンから最高裁長官の星朋彦先生の旧著「日常生活と民法」を現代に置き換えて書きなおすことを依頼され、受けることになった。同じくその任についたのが星長官の息子・航一(岡田将生)。この人物。じっと寅子を見つめてきて、「なるほど」としか言わない。このひと、なんだか、とっても、すんごく、やりづらい。ここ。尾野真千子のナレーションがいいのだが、岡田将生の演技がそれに輪をかけておもしろい。「小さな巨人」の時も、「ドライブ・マイ・カー」の時も思ったが。つくづく岡田将生は近年、面白い俳優になった。

 休日を利用して、航一と改稿にかかる寅子。それも序文をのこしてすべて終わり、その序文は長官ご自身が自ら書くことになった。〈竹もと〉で著書のゲラを見る航一と寅子だが、〈星朋彦著〉の下に、〈星航一・佐田寅子補修〉と明記されていた。そのことをサプライズのように感じ、思えばかつて優三さんと夢を語り合った新婚の頃を思い出す寅子。

 そこへ星長官が序文の原稿をもってきた。おもむろに朗読を始める長官。

 「今次の戦争で日本は敗れ、国の立て直しを迫られ、民法も改定されました。私たちの現実の生活より、進んだところのものを取り入れて、規定していますから、これが国民に馴染むまで、相当の工夫や努力と日時を要するでしょう。

 人がつくったものです。古くなるでしょう、間違いもあるでしょう。私はこの民放が早く国民に馴染み、新しく正しいものに変わってゆくことを望みます。

 民法は世間、万人、知らねばならぬ法律であります。決して法律家にのみ託しておいて差し支えない法律ではありません。私のこの拙著がいささかにても、諸君の民法に対する注意と興味とを、喚起する、よすがとなることを得ましたならば、まことに望外の幸せであります。

 昭和25年6月 星 朋彦」

 この序文朗読。こどもが聴いても理解できる平易な文章でつづられていた。名文であり、このひととき、寅子と航一だけでなく、竹もとにいたすべての客が身じろぎもせずに、清聴していた。読み終えたとき、店内の誰もが、拍手を惜しまなかった。感動的な名場面だった。このあと、長官は本の刊行を待たずして亡くなったという。

 こんな少年がいた。

 家裁で親権を巡ってもめているというから話を聴いてみれば、父母どちらも息子の親であることを放棄したいという。梶山栄二君。窃盗事件を3度も繰り返し、もう少年院送り以外に、行く場所もない子である。

 優未のテスト結果。高得点だったのに喜ばない寅子。自分が好成績だったので、優未の努力がわからないのだ。優未は自分のことをもっとよく見てほしいのだ。なぜそんな簡単なことがわからないのだろう(ただ、〈84点〉の〈8〉の字が、不自然な数字になっていた。ほんとうは何点だったのだろう)。

 尊属殺人は合憲か違憲か。ほんとうなら違憲のはずのものが、最高裁で審議にかけられ、合憲の判断が下された。この審議。委員15人のうち、違憲の判断を行ったのは、穂高先生を含む2人。けれども寅子は言った。

 たとえ2人でも、判決が覆らなくても、おかしいと声をあげた人の声は決して消えない。その声が、いつか誰かの力になる日がきっと来る。

 穂高先生の退任記念祝賀会。桂場さんは第10週以来寅子と穂高先生の間が気まずいのを知りながら、寅子に花束贈呈の大任をおしつけた。

 穂高先生が会の席上、こう言った。

 法律を一生の仕事と決めた時から、旧民法に異を唱え、ご婦人や弱き者たちのために声を上げてきたつもりだった。もっと何かできることがあったのではないのか。ご婦人の社会進出、新民法の謳うほんとうの意味での平等、尊属殺の重罰規定の違憲性。出涸らしも何も、昔から私は、自分の役目なんぞ果たしていなかったのかも知れない。結局私は、大岩に落ちた雨だれの一滴に過ぎなかった。でも、なにくそともうひとふんばりするには、私は老い過ぎた。諸君、あとのことはよろしく頼む。本日はほんとうにありがとう。

 なんてみっともない、情けないスピーチだろう。聴くに堪えない。恐らく先日の尊属殺の最高裁審議で、自身の無力を思い知らされたうえでのこのコメントだろう。清聴していた寅子は大粒の涙をぼろぼろ零し、憤懣やるかたない表情で、花束を多岐川に叩きつけ、その場から立ち去った。穂高先生は、教授時代から、最も進んだリベラルな考え方のできるひとだった。こんな恥ずかしいコメントをするような根性なしではなかった。歩廊で桂場に叱咤されるも、寅子は謝罪する気などさらさらなかった。先生は寅子が弁護士をやめる時、確かに、大岩を穿つひとしずくの水と言った。それでも先生の心中には諦めのひとことなどない、闘うひとだと寅子は思っていたから、先生のことを信頼していられたし、尊敬もできたのだった。ほんとうにこの日、寅子は心底がっかりしたに違いない。

 穂高先生が尊属殺に違憲の判断を下したのは、以下のような意見を唱えていたからだった。

 この度の判決は、道徳の名のもとに、国民が皆、平等であることを否定していると言わざるを得ない。法で道徳を規定するなど許せば、憲法第14条は壊れてしまう。道徳は道徳。法は法である。今の尊属殺の規定は明らかな憲法違反である。

 せめて先生には、たとえ闘いに敗れても胸を張っていてほしかった。それでこそ寅子の仰ぐ恩師の姿なのだ。

 梶山栄二君には父母どっちにも世話にはならず、父の姉・勝枝さんのもとで暮らすことになった。勝枝さんは、家庭を顧みず、浮気にうつつを抜かす父親を一喝し、栄二君を慰めようと映画に連れて行ってくれたひとだった。大好きな伯母さん。3件の窃盗事件は、何れも主犯ではないし、動機にも慮るべきことがあり、また、勝枝さんの口添えもあって、保護観察の沙汰が下った。温情ある審判そのものである。寅子も骨を折った甲斐があった。(今週はあらすじを書いただけで終わってしまった)

 

  師を叱る怒りの涙雷遠し  悠志

 

 

 第15週「女房は山の神百石の位?」

 演出:伊集院 悠

 昭和26年。寅子は米国視察から帰ってきた。猪爪家では寅子の帰りを今か今かと待っているのに、一向に帰ってこない。だが、いざ帰って来れば、こどもたちの苦心作の横断幕?にはさほど関心を示さず、持ち帰った土産も英語の料理本や英語の児童本。猪爪家のこどもたちが自分のように優秀だと思い込んでいるのだ。こんなものもらって喜ぶと本気で思っているのか。花江の前ではのびのびと、寅子のまえではいい子を演じるようになったこどもたち。こんなことを続けていると、いつか必ず破綻する。その軋みをまだ全く感じていない寅子。(だが、当時のラジオのこども向け番組・後の草創期のこども向けTV番組での、司会進行役のひとの第一声は「よい子の皆さん」だったことを僕も知っている。〈よい子〉は当時の定番だったのだ)

 多岐川や最高裁長官・山本紘作氏(矢島健一)とラジオに出演した寅子。山本氏の言う、多岐川氏は家裁の父、佐田女史は家裁の母ともいうべき存在であるという指摘に対し、

 家裁の基本理念を作りあげた多岐川さんはともかく、私が家裁の母とは、畏れ多いです。

 と言った寅子。さらに、多岐川の、

 家裁は冷たく厳正なる刑罰ではなく、温かく柔軟に更生と生活の立て直しを支援する場所。これまでの裁判所とは違う特殊な存在なのです。

 それに応えて山本氏が、

 だからこそ、女性である佐田さんが輝ける。佐田さんのもつ愛情、女性本来の特性を遺憾なく発揮できる。家裁は女性裁判官に相応しい場所と言えるでしょう。

 はて? 何か引っかかる。そこに妙な〈空気〉を感じた寅子はこう言った。

 家裁の裁判官の適性は、個々の特性で決められるべきで、男女は関係ないのではないでしょうか。長官の発言は、いま、家裁で働く男性裁判官への配慮にも欠けますし、家裁は女の場所といった思考はいずれ必ず間違った偏見を生みます。私は、真の女性の社会進出とは、女性用の特別枠があてがわれることではなく、男女平等に同じ機会を与えられることだと思います。私は、裁判所から変えてゆきたいんです。

 その放送を聴いていた猪爪花江。ひとり、お昼ご飯を食べながら、ラジオの電源をオフにしてしまった。あたしの関係ない世界で、勝手にやって頂戴。あたしには興味も関心もないわよ、と言いたげだった。

 寅子に最高裁人事局から異動のお達しがあった。

 新潟地家裁三条支部勤務を命ずる?

 判事補から判事に昇進だが、栄転か、左遷か?

 やはり左遷だろう。

 猪爪家にもこの辞令の話をした寅子。

 寅子は言う。「直人や直治の学校のこともあるし、新潟には私たちだけで行こうと思うの」。

 私たち……。寅子と優未?

 それは、無理だと思う。と直明。

 寅ちゃんは何にも見えてない。と、花江。

 視聴者である僕もそう思う。昔の寅子なら敏感に察知したはずだ。寅子といる時の優未が〈スンッ〉になってしまっていることを。寅子は娘にスンッとさせてまで新潟に引きずってでも連れてゆきたいのか。それがどれだけ残酷なことかわからないのか。

 花江のここでのセリフがいい。

 寅ちゃんは何にもわかってない。優未はおいていって。私が責任もって面倒を見ますから、どうぞ寅ちゃんは新潟でお仕事に専念してください。

 何を怒っているの? 言いたいことがあるなら言ってよ。という寅子に、花江が爆発した。

 言ったってしょうがないでしょう! そう思わせてきたのは寅ちゃんよ。この家のあるじは寅ちゃんなんだから。

 何? その言い方。こっちは毎日必死で休まず働いているのに!

 そういう態度よ! そんな風に家族に目を向けられないくらいまで、頑張ってくれなんて、私、頼んでない! 優未はあなたに甘えたくても、必死に我慢して、いい子を頑張ってる。あなたに喜んでもらおうといい子のふりをしてる。わかる? 寅ちゃんが見てるのはね、ほんとうの優未じゃないの。

 この場面。森田望智の長ゼリフが見せ場をつくっている。このドラマでの彼女の一番いい演技がここにあった。

 一年くらい前、優未が算数で31点をとってきたことがあった。それを直人と直治がテスト結果の偽装をして、31点を84点に見せかけた。そのとき帰ってきた寅子が答案を見て何て言ったか。

 「間違った部分を復習すれば、次は100点だ」と言ったのだ。84点でも母は褒めてくれなかった。31点の子が100点をどうやって目指せばいい? 寅子は優等生だったから、落ちこぼれの気持ちなどまったく理解さえもできないのだ。

 木曜日の放送。この時は道男がいた。猪爪家の誰もが言いにくいことを道男ははっきりと言う。きょうの寅子の帰りが早いことを、

 そりゃそうだろ、きょう早く帰って来なかったら終わってる。

 猪爪家の家族会議。

 いろんな意見がこどもたちから出た。けれどいま、新潟に二人で行かず、離ればなれになったら、寅子と優未は、二度と親子関係を取りもどせなくなる。寅子も悔い改めて頑張るからと言い、優未にはついてきてほしいと言った。

 はい。

 優未は即答だった。まだこの子の〈スンッ〉は続いている。全然事態は好転していない。こどもが一度心を閉ざしてしまうと、その殻を破るのは、大人よりもむつかしい。

 

  子の傷に気づかぬ母の顔涼し  悠志

 

 

 第16週「女やもめに花が咲く?」

 演出:梛川善郎。

 昭和27年春。GHQによる占領から、独立を認められた翌年の春。辞令が下り、新潟に赴任した寅子。

 新潟地家裁三条支部。ここにもちこまれる事案のすべてを、支部長として彼女がひとりで担うことになる。

 にやにやと愛想笑いをしながら、歓迎会に誘ったり、〈袖の下〉めいた贈りものをしたり。持ちつ持たれつ。贈答品や生活の面倒を見てもらえるのはいいが、これらは支部長である寅子に〈貸し〉をつくる行為。賄賂に次ぐ賄賂で首が回らなくなってからでは遅い。このしがらみが、すべてに於いてつきまとう。これだけ便宜を図ってやったんだから、わたしらの言うなりになれ。そう言いたいのだ。そこから距離を置き、ものごとを処理せねば、談合や賄賂が暗躍する〈地獄〉へ堕ちるのみだ。

 判事は緊急の事態に、夜中でも対応しなければならない。赴任間もなくの夜、深夜に起きた酔っ払い同士の喧嘩に令状の捺印をする寅子。

 ばたばたと次々に仕事を片付け、あたふたと家に帰れば、一向に〈スンッ〉が消えない優未が、夕食づくりをすべて自分でやっている。もうご飯も炊けたし、味噌汁もできている。あとはお漬物を切り、おかずをつくるだけ。

 翌日。前日に持ち帰った書類を支部にもっていったら、そこには星航一さんがいた。いま新潟地裁に赴任しているらしい。

 そのとき、寅子が、「この町の方々はとても親切で」と言ったら、航一は怪訝そうな目で、

 「親切……」。

 と言った。航一は見抜いているのだ。

 

 花江から郵便が来ていた。

 それには、

 寅ちゃんの手紙には、

 「仕事も優未のことも手を抜かず、全力で完璧にこなします」とありましたね。

 寅ちゃん、あなた何にもわかっていないわ。

 手紙は最後まで読む!

 寅ちゃんにしかできないことがあるはず。それを見つけて頂戴。

 優未への手紙には、

 優未がいないとさみしいよ(直明)。

 ちゃんとごはん食べてる?(直人)。

 優未、いつでも帰っておいで(直治)。

 寅子に何かされたら、いつでも言えよ(道男)。

 と、優未が元気になれる言葉がいっぱいあった。

 

 民事調停の場に同席した寅子。

 三条で林業を営む森口さんと、原さんが、所有する山林の境界線をめぐってもめているのだ。

 三条支部の書記官・高瀬さん(望月歩)。本好きで、病弱なのを理由に、森口さんからきつくものを言われていた。上の兄弟はお国のために立派に働いたのに、お前は、とか、本ばかり読んで、ろくに行動しないのをやり玉に挙げて、ねちねちいびられている。大体、民主主義のご時世である。お国のためって何だ。自分の幸せを追求することは憲法で認められていることだ。国家の犠牲になることがそんなに〈偉い〉ことなのか? 彼の兄たちは、国家にいいように利用され、すりつぶされて死んでいった。それをお国のためにやったから立派だ? これのどこが偉いのか自分にはちっともわからない。身体が弱いことが、何故咎められなければならないのか。それはもって生まれた彼の体質で、彼が一生負いつづけなければならない宿命だ。むしろ、彼は励まされるべきであり、貶されるべき点はこれっぽっちもない。

 森口さんは地元一の名士らっけね。ここで気に入らっておけば、赴任中もいろいろ楽になりますて(杉田太郎弁護士:高橋克実)。

 何を言っているのだ?この男は。こんなしがらみは百害あって一利なしである。判事はどんな時、どんな場合でも、平等にものを見なければ、正しい司法は行えない。どんな名士か馬の骨か、知らないが、こんな者どもに便宜を図っていたら、司法そのものの存在が危ういものとなる。

 

 帰宅したら、優未がノートに何か書いていた。席を外した隙にそれをのぞき見したら、4を9に偽装する方法が書いてあった。きょうもまた、テストでいい点が取れなかったのだ。

 優未は未だ〈いい子〉を演じようとしている。もうお母さんは叱らないと言っているのに、仕事が大変なのをわかっているゆえに、心配かけたくなくてやってしまうのだ。

 毎日頑張って勉強しても、お家ではできても、テストの時になると、ぎゅるぎゅるってなる……。また、お腹痛くなる。

 その言葉に、思わず苦笑の寅子。

 お父さんに似ちゃったかあ(笑)。

 お父さんもね、緊張するとすぐ、お腹痛くなっちゃうの。

 それを聞いて目を輝かせる優未。

 ほんとに? ほかには? ほかにはどんな駄目なところがあったの?

 そう言われて言葉に詰まる寅子。その時思ったのは〈あの顔〉。あの高等試験の時の顔のこと話してあげればいいのにと思ったが。できなかった寅子。こここそが母と娘との決定的な〈溝〉なのだ。

 

 職場はトラブルに次ぐトラブル続き。仕事行きたくない~っ!と、珍しく居間で手足をばたばたさせていると、忘れ物を取りに来た優未がそれを見ていた。

 兄の死から未だに立ち直りかねている高瀬さん。何かというといびりに来る、森口某のような輩がいる所為だ。

 思い出にできるほど、お兄さんの死を受け入れられていなかったんでしょうね。死を知るのと、受け入れるのは違う。事実に蓋をしなければ生きてゆけないひともいます(星 航一)。

 だから、語りたくないし、語られたくない(寅子)。

 うーん、分らなくはないが。皆、戦争で、誰かしら大事なひとを亡くしているわけですからね。いい大人ですし、そこは乗り越えてゆかねえと(杉田次郎弁護士:田口浩正)。

 なるほど。そう言われると分かっているから、彼は乗り越えたふりをするしかなかったんでしょうね(航一)。

 次郎の去ったあと、寅子は航一にこう言った。

 自分の話をされているようでした。

 悲しみの抱き方は人それぞれ。そのひとが大切なひとであればあるほど、その悲しみは深い。そしてそれは、見た目では分からないことが多い。

 

 森口さんと原さんの民事調停。新たな証拠が見つかったと、太郎が示したそれは、「森口さんとこの蔵の奥の奥底に眠っていました。明治初期に近隣五村との間でつくられた地境協定文書です。その文書に記されていた山林の境界は、驚いたことに、森口さんの主張とも、原さんの主張とも食い違っています。おそらく売買などで、登記簿上は一つの土地をわけて登記し直すことが繰り返された結果、公図が誤った記載になってしまったものと推測されます。つまり、森口さんも原さんも、先人たちの誤りに翻弄された被害者なんです(太郎談)」。この文書の信憑性もあやふやなのに、これで円満解決とは片腹痛い。事前に話し合いを済ませて来たってことだ。あのひとたちのやりそうなこと。

 

 高瀬さんが森口さんに摑みかかった件について。寅子は言い放った。

 高瀬さんは書記官としてあるまじき行動をした。それはしっかりと処分されなければ裁判所の信頼に関わります。森口さんにはこうお伝えください。この暴行の一件はこちらできちんと処置しますと。彼にはしっかり反省させますので。

 (高瀬さんに)この仕事をしている以上、どんなにひどいことを言われても、手を出しては駄目。ひどい相手と同じ次元に落ちて仕返しをしては駄目。だから、しかるべき処分を受けるべきだと思った。穏便に済ませたりして、ああいうひとたちに借りなんてつくってほしくないから。あなたを確実に傷つけて、心にできた瘡蓋を事あるごとに悪気なく剝がしてゆくような人たち。彼らにずっとへいこらしてほしくない。自分の意思でものごとを受け流すのと受け流さざるを得ないのとは違うから。私がいなくなった後も、この件にあなたが縛られないように、したいようにできるように、怒りたい時に怒ることができるように。そう思って、処分しました。

 この伊藤沙莉の長ゼリフ。今週最大の見せ場だった。ストレートに琴線に触れる言葉で、胸を打たれた。

 その夜ふけ。例によって高瀬さんの令状への判を捺す依頼。気をつかったのかその夜高瀬さんは、「これ、お嬢さんに」とミルクキャラメルをくれた。いっしょに起きてしまった優未にキャラメルを、明日のおやつにでも食べなさいという寅子だが、優未は、

 いま食べちゃだめ?

 だって、おいしいもの一人で食べてもつまんない。

 と、初めて〈カギっ子〉の寂しさを吐露した。

 その時である。思いだした。寅子がつらい気分でいるとき、いつも優三さんはおいしいものをもってきてくれて、ふたりでたびたび食べたことを。

 キャラメルを二人して食べる母娘。お腹ぎゅるぎゅるの治し方を伝授する寅子。この面白い貌を思いだして、緊張ぎゅるぎゅるを乗りこえよう。

 

 たびたび支部を覗きに来る航一。心配性なせいだからというが、ある時こんなことを言った。

 新潟本庁のそばに、うまい珈琲とハヤシライスを出す喫茶店があるんです。新潟の名所はわかりませんが、そこならばご紹介できます。

 翌月、新潟本庁に出向いた折、その店に案内された。

 Tea Room “Lighthouse”?

 えっ、訳せば〈燈台〉?

 そこにいたのは、戦争の時以来、行方不明になっていた、涼子さまだった。

 

 瘡蓋を剝がさるるたび稲光  悠志