#奇跡は静岡で起きた。

 

昨日、静岡で行われたラグビーW杯

日本対アイルランド

その1日をパブリックビューイングが行われた駿府城から現場レポートする。 

 

#monday#sports

#journal byjournalist #sotaroohdake

 

大嶽創太郎

会員制メルマガ限定より転載

 

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空が綺麗な一日だった。

 

ラグビーは7点差まで分からない。

ヨーロッパ 伝統と歴史ある優勝候補国、アイルランド。

対戦前、日本の勝利は夢物語だとされていた。

 

「他のスポーツと違ってね、ラグビーでは強いチームが弱いチームに負けることは無いんだ」

ラグビーの聖地、花園の土を踏んだ50代の男性はそう語り、私にお代わりの酒を促してくれた。

赤坂の料亭だったと記憶している。

当時まだ20だった私は、大手芸能事務所のスカウト担当と、制作関係の男性三人で卓を囲ませて頂いていた。

学生時代はラグビーに明け暮れスーツを着ているが筋肉質な体格、

社会に出ても仕事で成功を収めた男性からは大人の階段を十二分に登った余裕が感じられる。

男性の解説はこう続くー

 

「サッカーでも例えば野球でも、時々あるだろう?

弱いチームが強いチームに勝つようなシンデレラストーリーが、

だけどね、ラグビーではそれが起きないんだよ。

何故だかわかるかい?

ラグビーはコンタクト、体と体のぶつかり合いが本当に激しいスポーツなんだ。

スポーツの中でも、最もタフな競技だと言える。

集団競技で、格闘技並みに体がぶつかり合うラグビーでは

個の力と、集団的インテリジェンス ( グループとしての知性 )が求められる。

だから、わかるかな?ラグビーにおいては ”まぐれ” は起きないんだ」

 

 

テーブルに視線を戻す。

私の目の前には、丁寧に仕込まれた赤だしの味噌汁、鮮魚の刺身、ウィスキーのソーダ割り

そして、今後の自分の芸能運命を握る錚々たる方々がいる。

売れる人の所作(例えばこの日話題に上がったのは唐沢寿明さんの所作、飲み方、)

映画人たちのこだわり、

ラグビーに詳しく、現在は制作関係の会社を取りまとめる50代男性の話題は豊富で

テーブルの議題は時間の経過とともに変わっていく。

 

 

私は大人達との慣れない場に激しく緊張し、空腹を感じた。

この数ヶ月前にスカウト担当者に六本木の飲食店で声をかけられ

採用の決定の有無を伝えられないまま、関係者への顔見せに同行する。

前回の会食で

私は橋の使い方を注意され矯正し、まだこの晩は正しく持つにも慣れず

食事と会話に集中できない。自分がどんな反応をすれば彼らに気に入ってもらえるか?晴れて所属となるのか?そればかりが気にかかる。

もっとも年齢を多少重ねた今と違い、気の利いた合いの手を入れるスキルも当時はなかったが、ぐるぐると思考が回転し自分を小さく感じる。

 

 

済んだ皿を下げに来た中居さんにご飯を下さいとオーダーすると、

担当者に笑われた後、

その後、「いや、ハタチなら白米食いたいよな?」とさらに笑われ、当時の自身を思い出したのか視線は空を見ては

「いいや、気にするな、ご飯を食べなさい」と、場を整えた。

 

 

自分がこの最大手の芸能事務所に所属できるかどうか?

その思考に大人たちとの会食の際白米を食べると笑われるとデータは更新され

酒は進み大人達の雰囲気は和む一方、一抹の不安を消すことが出来なかった。

 

その後、この男性とは残念ながら会うことはなかったが、この夜の会話は色濃く残っている。

 

 

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ラグビーは7点差まで分からない。

サッカーの一点は、ラグビーでは7点 (ワントライ ワンペナルティーキック)

ゆえ、後半残り20分で7点差なら試合として成立している、どちらが勝つか分からないと言う。

長年ラグビーを取材しているライターも期待を抑え専門誌にレポートを寄稿している。

 

駿府城に到着したのは試合開始直前。君が代が歌われ、ゲームが始まる。

 

緊迫感のある前半を凌ぎ、ハーフタイムにはアイルランド人たちと日本人たちの応援合戦が

会場を盛り上げた。

 

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スコアは 9−12 負けているとは言え

上出来すぎる形で前半を終えて、後半戦が始まった。

 

この試合のポイントは後半の入り方だった。

アイルランドの攻撃にも、俊足松島幸太朗 がタックル。この日デフィフェンスで貢献。

ことごとく攻撃の芽を摘んでいた。

センターラインを挟んでの攻防。攻撃のイニシアチブの取り合い。緑の絨毯を all japanは止め続けた。

45分 デフェンスからの日本チームのロングキックで流れが変わった。

日本の攻撃ラインをアイルランドゴール30メートル付近まで追い込んだ。

リードしているはずのアイルランドコーチ陣がホワイトボードを手に入念にポジションを指示する。

次の一点がどちらに入るか、勝者と敗者を分ける。

 

46分19秒 47分56秒 スクラムとにらみ合いが続く。

 

 

50分のキック 日本のディデフェンスからのキックはサイドラインを破ることなく相手にそのままキャッチされてしまう。

嫌な予感が会場内に漂う。

攻撃を区切れず、再びアイルランドの攻撃が始まるがなんとか凌ぐ。

 

 

50分44秒の松島幸太朗のランのにてペースを作る。

その後得た ナンバー10 田村優 のペナルティーキックは惜しくもポールに嫌われたが

「ひょっとして勝てるかもしれない」と想像を働かせるには十二分だった。

会場の雰囲気は一転し、誰もが口には出さないが、ほのかな期待を胸に抱き始めた。

パブリックビューイングの大型モニターにエコパスタジアムの夕焼けが映し出された。

画像解度の違いだろうか、眼に映る夕焼けよりもオレンジの色がより鮮やかに映し出されていた。

綺麗な空 とスペイン訛りの英語が聞こえた。

 

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58分44秒 日本のトライが成功 遂に夢にまでみた逆転。

勝負ありか。歓喜の中、我を忘れかけ声を出しているとまず

スペイン語なまりの英語で、第一に彼らがおめでとうと声をかけてくれた。

 

63分34秒

松島幸太朗 がまたしても俊足でディフェンスに貢献。

 

スコアは以前 16-12 で日本がリード

勝負とされる7点差。次のポンイトが分水嶺になる。

 

 

64分19秒アイルランドの攻撃を凌ぎ

64分54秒

ノットリリースザボールの反則。日本にボールとゲームの主導権が移るのファインプレー。

攻守と幸運の神が気まぐれにしかし確かに日本側に入れ替わった。

 

 

70分30秒  16-12 攻防は続く。

 

 

71分50秒   集中し丁寧なパス交換からの攻撃によって

次のポイントは日本に入った。スコアを 19-12とし遂に勝負の7点差にスコアの差を広げる。

 

 

75分00秒。

 

誰もがモニター左に表示される19-12のスコアそして残り時間を気にしていた。

あと五分、試合を壊すような大きなミスさえなければ勝てる。観客の期待は確信へと移っていく。

 

 

76分 アイルランド実質最後の攻撃を凌ぎ

 

そののカウンターは惜しくも相手ボールになるが相手陣に大きく侵入。勝負を決定づけた。

 

78分 日本にビックチャンス。

もうワントライ決めて物語をよりドラマティックにするか、問題はただそれだけだった。

夢にまでみた勝利を、どう締めくくるか

人は欲張りだと思う。

会場にいる誰もが日本のもう1トライを期待していた。

試合開始前 日本は勝てないと言っていた者は口を妻いだ。

誰もがこの歴史をどう見守るか、固唾を飲んでいた。

 

 

21番 田中史朗 の落ち着いたプレーは  (それは時間稼ぎだったが最も必要な冷静なプレーだった)

ハンドルを手放さない、重要な判断だった。その後、日本のパス交換は相手に読まれトライはならず。

しかし、時計の針は80分を超えた。

 

 

80分06秒 トライの芽は摘まれたがアイルランドがパントキックでアウトに逃げる。

 

 

反撃とトライを目指すのではなくで

いかに傷を少なく負けるかを選ばせたプレーだった。

主審が手を上げて試合終了をホイッスル。

 

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試合終了後

両チームの紳士的な握手の瞬間を見ていた観客はいなかった。

それどころではなかった。

誰ももがこの信じられない勝利の決定に声を出し騒ぎ喜び、時を忘れ、

この盛り上がりが、証なんだと

抱擁やハイタッチを交わし声を枯らし、報道陣のインタビューカメラが近ずくと

人々はこの勝利を、やっと現実のものとして受け入れたようだった。

 

 

すっかりと陽は暮れていた。

駿府城の空には、星の瞬きが日本の勝利を祝福していた。

仕事で来ていたローカルアナウンサー達もビールを片手に頬を紅潮させている。

すぐ近くの輪には、吉本の売れっ子芸人達がいることを今更ながら気がつくが

こちらは遠慮なく撮影させてもらった。

(新聞社やTV局から送り込まれている記者達が私を不思議そうに見ているが

彼らよりも先に流れを読み動きいい写真が撮れたし

私の後ろに彼らが陣をとれば、毎回ながらフリーランの強みに笑みをこらえることが出来ない。)

 

 

スタジアムの上空

夜空に上がった花火を、アイルランド人も、日本人の子供達も見上げていた。  

会場を後にする人たちの口からは

すごいものを見てしまった。四年前の南アフリカ戦よりもとんでもない試合だ。

こんな試合、あと一生に何回見れるだろうか?と感嘆の言葉がもれ

皆、多幸感に溢れていた。

 

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この勝利を現イングランド代表のヘッドコーチであり

元日本代表ヘッドコーチの エディージョーンズが、 誰よりも喜んだことは想像に容易い。

勝者のメンタリティーを植え付け、このW杯の舞台で桜の花は見事に咲き誇った。

会場には確かにいた地元の学校に通うラグビー部の青年達も目を輝かせている。影響する、そして意思は受け継がれていく。

 

 

その夜、静岡市内の飲み屋ではスーツを着た日本人たちは試合の回想を肴にし、

辻々のバーではアイルランド人達が国旗をまとったまま酔いどれ酔いどれ

夜が更けてもなお、彼らの嬌声は路上に響いていた。

 

乾杯。

歴史を作った男達にー。そして日本とアイルランドの両国に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取材

all  photos  and text by Sotaro Ohdake

 

 

 

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