ピーターさん(48歳男性)は香港在住の実業家で

飲食や貿易関係の会社をいくつか経営されている。

 

 

私が子供の頃

香港はNo1 だと思っていた。この国では頑張ればお金持ちになれる。その言葉を信じていた。

アメリカン・ドリームならぬ香港ドリームという言葉が形容されていた。

実際に10人に2人はミリオネア。(100万香港ドル=1.4億円ほど)

アジアの国にありながら英国式の英語と自由経済の環境にあり

グローバルな感覚を持って年齢を重ねた。

香港らしさが、この国の可能性が、誇りだった。

 

2003年 SARS (サーズ=ウイルス性の呼吸器感染症)が起こり香港の経済はストップした。

関西から香港行きの飛行機に乗ったが搭乗者は私を含めてたった2人だった。

株価や住宅価格が底打ちとなったところに中国マネーが大量に入り景気は回復した。

(自由な経済活動を求めて中国本土から移住してくる中国人も増えた、

現に香港の総人口の8人に1人は中国からの移住者だというデータもある。) 

 

中国マネーが大量に入り景気が回復したが

香港の富裕層にとっては悩みの種が増える結果となる。

自分たちが保有する香港国内の不動産の価格は

中国マネーが下支えする結果になったのだ。自国資本だけでは立ち行かなくなった結果

中国との経済の繋がりが、香港経済の命綱となる。

 

1997年イギリスから変換を受け50年間は認められているが、

自由な自治権が22年経った今日、2019年の段階で危ぶまれている。

 

 

逃亡犯条例は中国本土への犯罪者引き渡しを可能とするものだ。

表向きは海外で起きた香港人による殺人事件が立件できないことが原因だったが

内情は異なる。

中国当局による香港の中国化だ。

 

香港国内で影響力を持つ富裕層、経済活動ができる者を

中国の法律で取り締まり、反体制的な発言や活動をする者を逮捕することで

恐怖政治を行い弾圧する。

昨日まで何の問題なく仕事をしていても何が法律違反になるかわからない。

現に中国批判をする書店店主が中国当局に目をつけられ逮捕されたケースが発生。

だからこそ、実は香港の富裕層や実業家達もこの逃亡犯条例に反対している。

 

 

 

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海外出張も多くこなすピーターさん。

しかし4日も海外にいると香港に帰りたくなるという。

 

 

私たちが子供の頃、香港ドリームという言葉があったが最近は聞かなくなってしまった。

 

 

私とピーターさんがテーブルをとったカフェからは香港の高層ビル群が一望でき

眼下には港や外洋を行き来する大きなコンテナ船が見て取れる。

 

若者が声を上げていることにとても勇気をもらいますし、同時に誇りに思います。

彼らはまだ若いのに関わらず

自分のこととして香港の将来を考えている。そのことは大変嬉しく思います。

200万人デモ。これは半端な思いでは出来ない。

 

ピーターさん達の世代にとって中国返還は物心ついた時から決まっていた事実。

だからこそいつか来るその現実を心のどこかでは覚悟しながら

想像以上に早く社会が中国化している事を憂いでいる。

 

 

 

1時間程度の時間だった。ピーターさんはゆっくりとビールを飲みながら

丁寧に質問に答えてくれた。

 

 

香港ドリームを信じ、経済的に成功したが

ピーターさんがビル群を見渡す瞳の中にある物悲しさ憂いが

私には十分すぎるほど伝わった。 

 

 

ビル群と海に反射する太陽光がひたすらに輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取材 text and photo  by Sotaro Ohdake 

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