帰国後楽しみにしていた物事の1つ
村上春樹の新書 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読み終えた

3.11以降 初となる書き下ろし
作品テーマに注目した
村上春樹作品のテーマ 
夢(予知夢)共同体と個人 肉体を超えた(離れた)精神 他 共通キーワード が今作でも読み取る事ができ
また、青年期の生と死に対しての対峙を描いた作品だと言える

高校時代に得た最良の仲間との青春の日々 
そしてその共同体からの追放
彼自身の崩壊と、10年以上時間を経た後、
36歳になった つくる が再生を目指す彼の旅路を描いた物語だ

前作1Q84に比べると、読み応えが少ないという印象は拭えない
また主人公の弱気で臆病な人格に共感が持てなかった

ただし、僕自身、高校時代に生涯最良とも言える仲間を得た経験から
物語中の共同体に感し頷ける部分や想像できるポイントもあった為、
この作品に思う所をもう少し書かせてもらう事としよう



僕自身が30歳と言う年齢になり新たに出会った友人がいる
彼等、彼女達と話し現在を語る中
やはり過去の話が持ち上がり
どのように幼少期や青年期を過ごしたか?が、確実に今の彼等に影響していると考えられる
僕らが子供の頃(およそ小、中学生の頃)30過ぎの大人達が、
その時代の影響をもろに受け
大人になっているとは想像もしなかったが
自分自身に当てはめてみても、
または周りを見渡してみても、その影や影響は色濃く各人格に影響すると思っている

僕は
人間は簡単には壊れない と持論するが 時々 本当に稀に大変な状況が襲う
数年前ー
仲間の女の子の一人は二児(小学生に上がる前の男の子2人)を残し5ヶ月以上失踪してしまった
彼女はギリギリの所で、戻って来る事が出来た、ギリギリラッキーな例と言える
僕らのメッセージ(探偵顔負けな手段を使った)を彼女は無視し続けたが
失踪先の地で出会ったトラック運転手に
『今ならまだ間に合う お家に帰りなさい』と諭され、彼女は彼女を待つ家族の元に帰る事が出来たのだった
今では2人の子供を育てる立派なシングルマザーとして生きている
単純な問題がいくつか重なっただけで、人は判断不能に陥り、孤独だと思い込み、極端な行動に走るor逃げる事がある事は分かっているつもりだ
僕らが出来る事は、そーなる前に、そのメッセージを汲み取り消化させ、
あるべき場所に導く事で
なにも、そんなに難しい事ではないはずだ
それらが社会で自分の身の回りミニマムな意味での自分と世界と言えよう


作品中 歴史に蓋(ふた)をする事は出来ない とある女性が主人公を諭す
目に見えない様に蓋をして覆っても、血は流れ続けているか或は化膿してしまうか
解決には、やはり傷を直視し手当てし陽の光に浴びせる必要がある
という見解には同感だ


無感覚な人間になってからでは間に合わないが、違和感を感じているうちは
まだ間に合うのかもしれない
のっくめない 消化出来ない事実或は過去は それらが正直な反応なのだろう

主人公 つくる は出会った女性の手助けもあり徐々に過去のピースを集め確かめ
過去を過去にして行き、現在を自ら構築して行く
そして自分だけ色彩を持たないと蔑んでいた考えを改めるよう
また彼自身は誰かを受け入れる事の出来る素敵な容器だとも助言される


自分が何者であるか
或は過去について
少なくない人間が通る一時期を僕は幸い通過してしまったが
ハードカバーに
白い紙に書かれた母国語(日本語)の縦列は
つかの間の一人きりになれる
静かな時間を与えてくれたのだった