街を歩く
ようやく渋谷の雑踏を、暴力的に感じる情報の中を歩きながら
ラッシュの電車を乗りながらも
自分を保てる様に、守れるように、なりつつある
帰国直後に感じた強烈な船酔い『日本酔い』は落ち着きつつある


小さな事をきっかけに腹をたて、人目をはばかる事なく口論をした
女の鞄からお気に入りの本だけを取り戻し
一人、小さな cafe に逃げ込んだ
2杯目のビールを喉に流し込む頃、やっと少し気持ちは落ち着いたのだった


『 Soh !! 』

窓の外から不意に名前を呼ばれた気がした
今もアフリカにいる、ブシの声だった
僕は渋谷 宇田川町にいて、空耳である事は間違いないが
妙に現実感のある体感で、ほぼ地球の裏側にいる彼の事を想った

ブシは50歳程のモーガンフリーマン似の南アフリカ黒人
ダーバンに暮らすブルーワーカーだ
僕が警察官7人に袋叩きにされた直後
人相のすっかり変わった僕を見つけ事情を聞き
barで黒ビールを奢ってくれた男だ
昔はボクシングの選手で、今も当時の癖が抜けず
奥歯を キリキリ ギシギシ 言わせている
リーガ( サッカー スペインリーグ )の試合を見ながら
『ほら、あの選手は痩せていてもうまいな!
ブルースリーも痩せていたのに あんなに強い』
当時、まだまだガリガリに痩せ細っていた僕の心に寄り添い、そう慰めてくれたのだった。


2010年 11月
帰国直後、僕を待っていたのは
行方不明者 ジャンキー 世捨て人 など
数々の素晴らしいレッテルだったが、
数々のさらに素晴らしい経験と思い出が
僕を肯定し守り保ってくれていて
そんな時に出会ったのが村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』だった
とにかく最初の一行目、一ページ目が最高で
その戦闘的な姿勢に少なからず勇気をもらったのだった

2013年 1月
ブシに再会し、彼は僕の大きくなった体を見て喜び
僕は少し痩せた彼を見て悲しく心配になった
酒を飲んだり、たかられたり、青空の下、潮風の中
クダラナイ話をしては、さよならを言えないまま僕は帰国し
今、村上春樹の新書『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』を手に
cefeにいてビールを飲んでいる


『soh !! 』

ブシの声が聞こえた後
『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が
物語の主人公、つくるに関して、彼の名前の由来について
一定の思念や筆者の意識的な法則に従って書かれた文章達が
さらに僕の平衡感覚、現実感を奪って行く

つくるの父は彼に与える名を彼の生前から『つくる』に決めたいた
しかし、その名の漢字について
作る或は創るのどちらかで悩んでいた
『創』の字は彼の人生を荷を重くする為、『作』の字が与えられた
と言う、記述だ

『 創 』
言うまでもないが
それはまさに僕の名で
僕を表す文字である(漢字であると思っている)


これまでの僕なりの人生を、
そしてこれから先の自分の人生を想像したとき
少なからず、他の多くの人より、重たい荷を背負っているor
背負ったと言う自負がある



色を持たない彼の物語に
急に色彩が与えられ、強烈に急速に本の世界により引き込まれると同時に
ブシに名前を呼ばれた不思議を想うと


まぁ ~ 楽しみだこと と、



本の続きや、自分の生きる先を
想うのだった