虹の国をみつけたら past 33
where is one love  ?? 最終章




エリックが大麻をつかまされたり、トムがケータイ電話を取り上げられたり
そんな話を聞いても半信半疑だったが
自らが警察から受けた仕打は2人の信憑性を高めるには充分だった。
im sorry を 取り返す為に僕は策を練る。



ストリートチルドレンにお金をもらってしまったり、マサイの活動家のミイェレと出会ったり
ブシが映画でも作ってくれという冗談の1つ1つが
自分が持ってるもの全てを使ったら、うまくいったら、
この国をひっくり返せるかもしれないと、そんな思いが募っていく。
幸いにもその想像は話し相手が居ないことも手伝って僕の頭の中でどんどん大きくなるのだった。
街には訳有りの輩がいる。ビーチ近くインド人を束ねるレストランのボスもその1人だ

彼は4年前までビーチで暮らすホームレスだった。
彼のボス、おそらくギャングの親玉が、彼にレストランを仕切るポストを与えた。

君のボスにインタビュー出来ないかな?

彼らは人前に出ることを嫌う。それは難しいだろう。





9月中旬、服役中だったマークは保釈された
野生動物のような品と鋭さが彼の魅力だった。
口数はすくなく何を考えているか分からない。
マンデラは20年以上牢獄に繋がれていた。この国の権力側の腐敗を考えれば未だに濡れ衣を被せられ獄中にいる人もいるのではないか?
出所祝いにマークにカレーをご馳走する。

マンデラって今どこに住んでるか知ってる?


ジョバーグだと思うぞ


ダーバンから走ったら何日くらいかかるかな?


1週間、10日あればつくだろう。


刑務所の中ってどんなだった?


幸い知り合いも多かった、血の気の多い奴もいるが、サッカーをしたり、日曜日にはみんなで大麻を吸ったりも出来る。 そんな処だ


ふ~~ん


無実の人もいる?


もちろんだ。



お前何か企んでるな?
マークの目が輝いた。



そーだね、ラスタにもキッズにもこの国にもいいこと、たくらんでる。
食事は終わり僕らは煙草を吸う


カメラを持って刑務所の中入れないかな?



服役中に刑務所のスタッフとも仲良くなった。中には口を聞ける人間がいる。
ビール2~3本買えば可能だろう。



ふ~んまた相談するよ。。。



ダーバン北部にある刑務所ウェストンビルは国内最大級の刑務所だ
刑務所の中を取材したい。それは逮捕されているマーク訪ねた時に思い付いたのだった。
好奇心に後押しされただけではない。
僕は日本の生活の中で法では裁けないが、確実に有罪と言える罪を犯し、
真剣に刑務所に入れば何か罪が償えると勘違いしていた。

以前刑務所を訪ねた時ー
マークとの面会が叶い、彼と話をした後だった。
待合室や囚人と話が出来るブースなどを隠れて写真に撮っている所を刑務所スタッフに見つかり
僕は一時身柄を拘束されたのだった
鍵の掛かった扉の内側。
お前は今夜ここから出れないと脅されるが言い方が気になった。
今夜だけか…

刑務所長に事情を聞かれる、
自分はジャーナリストで興味本位でシャッターを切ったと伝えた。
言葉に出した後それは失敗だったなと後悔した。正直に言い過ぎた。
もっと何か違うそれっぽい理由を考れば良かった。

しかし所長である黒人女性が口に出したのは意外な言葉だった。

「その写真は仕事には使わず思い出にしてください。それが約束できるなら今回は目を瞑ります」






刑務所に潜り込む
マークと冗談半分に話した後、一時盛り上がった計画だった。
が、南アフリカの警察にフクロにされ銃を突きつけられ
その怖さを十二分に思い知らされただけに、潜入すると言う決断は出来ないままでいた。



帰国まで期限は1週間と迫って来ていた。
ゲストハウスに遊びに来ていたマークに話があると持ち出す。

「明日、ウェストンビルに行きたい。案内してもらえるか?」

「yes!king soh ! そーこなっくっちゃ。案内しよう。 俺はアドベンチャーが大好きだ 」

「明日の午前中—なるべく早い時間にここに来い。刑務所内に一泊して明後日の昼までには出る。その日の夕方にはヨハネス行きの飛行機に乗らなくてはいけない。 」



翌朝早めに起き海に向かう。
万が一の事が起きればそれまでだ。波が心地いい。
海そのものが生き物のように感じる。生きてこの海に帰ってきたいと強く思った。

ゲストハウスに戻ると、結花はちょうどシャワーを浴びていた。
明日の昼までに戻らなかったら警察に連絡して。マークと一緒にウェストンビル刑務所に向かう。
三たび出て来たバンクカード、それとともにパスワードを書置きしパスポートと一緒に彼女のベッド枕の下に隠した。
彼女の枕の下からコンパクトデジカメが出てくる。
武器は多い方がいい。
一瞬躊躇ったがそれを失敬し、ごめんと追記した。


服装を選ぶ。コンバースより動きやすいカンフーシューズに似たスリッポンを選んだ。
サッカーストッキングを履き短パン、黒人革命家の顔がプリントされたTシャツ、ポケットにファスナーがついたリバーシブルのベスト、ベルトには護身用のシャワーノズル。100ランド札を5枚。準備は整った。



マークは約束の時間から大幅に遅れた午後2時ころやって来た。
遅いぞ!と怒ろうとしたが彼の服装を見て怒りは消えてしまった。
たくさんポケットがあるベストを着て来いと指示したのにも関わらず
彼はビーチサンダルにチノパン、見たことない派手なグラデーションTシャツにナップサックとサングラス。
ラスタなりに一応は気合が入っているように見受けられた。

レストランに行き、栄養価の高いカレーを選び黙々と口にした。賄賂用の煙草のボックス、ビール。食事は明日の昼まで食べれないことを考えてチョコレートバーを数種類買った。

ミニバスを乗り継ぐ。これは食べておけとマークがナッツを手渡してきた。

刑務所に入る前になるべく気を使いたくない。一番奥の窓際の席を選び隣にマイクを座らせ他の乗客との接触を防ぐ。2台のデジカメのセッティングをチェックし1台をマークに手渡した。予備のSDカードをサッカーストッキングに隠す。バスは丘を登り見覚えのある風景に変わってきた。ショッピングモールのさらに奥山道を行くと茶色いフラットな建物が見える。
丘を見下ろす山の頂上。
welcomeと書かれた刑務所の入口、僕らは無言のままバスを降りた。
緊張と集中は極度に達していた。

入口を警護していた男が僕らに気が付く。どうやらマークとは顔見知りのようだ。
拳銃を腰に装備し恰幅のいい男と目が合うと自分の考えが見透かされているようで目を逸らす。
マークが行ってくると口を聞けるスタッフを探しに受付がある事務所内に消えていった。
僕は刑務所の周りを歩く。急に小用がしたく、なりちょうどいい壁の影に隠れた場所に放尿した。

ポケットの中の金を確認する。何があるかわからない。100ランド紙幣を一枚だけ小便をした壁の岩陰に隠した。
煙草を吸う。どうか無事に生きてこの塀の外側に出てきたい。煙を吐きながらこの数ヶ月間を思い出していた。

ワールドカップを取材した日々。ラスタたちとの日々。ミイェレとの出会い。
半年間はあっという間だった。東京で生きていた過去の自分がまるで別人に思う。
僕は東京に戻りどう生きて行くのだろう?





マークが出てきた。いよいよだ。



「どうゆう手順だ?」



それが困ったことになった。



どうした?やつらにばれたのか?




いや、そうじゃない。。。。



なんだ?どうしたんだよ?はっきり言えよ?



実はな、入口を警護する俺の友人なんだが、何人かいるんだが、全員に電話したんだけど繋がらないんだ。
他のスタッフに確認したら、俺の友人の刑務所スタッフはシフトが皆早番で今日は皆もう上がっちゃったんだって。
面会の受付も正午までだし、、、ごめんsoh.どうにもならない。。。







シフト、ナイトタイム、nobady knows.......





バイトじゃねんだよ!!シフトってなんだよ!!



言葉を失い、緊張感と集中力が一気に途切れ、その場にしゃがみこんだ。
笑いがこみ上げてきた。
グズグズになってんじゃんかこの感じ!
水曜ど~でしょ~みてーになってんじゃんよー!!お~~~~~~い!!



「朝早く来いって言っただろ!?」

どうしたらいーんだと考えては、笑いを抑えることが出来なかった。
岩場に隠した100ランド札を回収した。
マークと2人で煙草を吸う。



なんか代案考えろよ!



う~~ん



今夜警察署の前でビールを飲んで暴れる、そんで2人して逮捕される。は?



NO、却下、大体それがうまく行っても逮捕されて拘置所だろ。今夜中にウェウトンビルに入れないし

荷物検査されてデジカメなんか持ち込めない。ぜんぜんダメ。次!


う~~ん
今は使われてない刑務所があるからそこに入ってみる?



ちょっと興味あるけど遠足、ってか観光じゃん。NO~



夕暮れに小鳥が鳴き始めている。



も~い~よ暗くなってきたし、明日また来よう!帰るぞ。





僕らはミニバスに乗り込みゲストハウスに向かった。

結花にはこっぴどく叱られた。
心配した、と言う点ではなく勝手にデジカメを持っていったと言う点でだ。



次の日、また同じ手を使い結花のデジカメを失敬した。
マークと刑務所に向かうと運よく囚人が刑務所の入口で作業をしている。
囚人が牢を出て入口の近くで作業することは極めて珍しい。
作業をする事を許された囚人は服役態度の良いかつ懲役年数の長い者だとマークは説明する。
彼らに煙草を手渡した。インタビューしようと話しかけたところ警護スタッフに見つかりそれを制された。



ミニバスに戻る。
乗り込み後部座席から望遠レンズを使って作業する囚人の写真を撮ることに成功した。
マークが欲をかき一眼レフを持って外に出たところ、警護スタッフに嗅ぎ付けられた。

お前ら、今、写真とっていただろ見せてみろ!

僕はだめもとで結花のピンクのデジカメを差し出した。


どーやってみるんだ見せてみろ!バッテリーが切れ写真を見せることが出来なかった。

男は不満そうな態度だったが自分の手に取り確認すると渋々ながら納得した。



そっちはなんだ?
男はマークのナップサックを指差した。開けてみろ。

終わった
万事休すだ。

ナップサックの中の一眼レフはすぐに見つかった。
囚人を取ったSDカードがそのまま入っている。



いいカメラだな。canonか。いくらするんだ?



R5000位かな?これは違う仕事用で。。

マークがまた下手な嘘をつく。



ふん。。。男はカメラを手に取る。



いいカメラだ。。



そう言って男は写真を確認する事なくカメラをマークに戻した。奇跡だ。



ダーバンには神様がいる。
ミニバスを乗りタウンに戻る。バスを降りた瞬間、僕らは笑い合った。

お前バカか?止めろっていっただろ??いや~ラッキーだった~



ラッキーではない。ラスタの神ジャーが味方したんだ。まさにジャーガイドだ



わかった。なんでもい~よ。じゃ~ね。じゃーに感謝だ。ぞーじるし知ってるか?
日本のジャーガイドだ おいしいご飯が炊ける



???





ゲストハウスに戻る。同じ手を食らった結花は悔しそうにしたものの,この日は何故か僕たちを怒りも叱りもしなかった





その日、陽がとっぷりと暮れた頃、ダーバンの夜空に花火が上がった。
ミイェレ達に見せてやりたいと思っていた日本の花火。それにも遜色がない。夏の始まりだ。
ゲストハウスのスタッフもラスタも香水売りのおじさんも、皆空を見上げていた。



パンパンパン

豆がはじけるような乾いた音が聞こえた。気のせいかと思ったがまた聞こえる。

パンパンパン

その夜ポリスのサイレンは鳴り止まなかった。










where is one love ?? 最終章
※ 次回 虹の国をみつけたら Past 編 最終回 完結





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