虹の国をみつけたら past 24


彼らが言うバビロンの正体 Fucking Police




サーフィンの出来る海、スケートパーク、アフリカ中の美術品が集まる美術館、ライブスペースを兼ね備えたアートセンター、大学に政治会議が行われるICC
歩いていける距離にすべての欲求を満たすスペースがある。
欲張るなと言うほうが無理であって、いつまでもここに居たいと強く思うようになっていた。

疲弊した体に鞭を打つ、緊張と恐怖心を克服しようと血が騒ぎそんな日は誰とけんかしても負けないような気がしていた。
実際街の不良連中と顔見知りになる。バーでも道端でも彼らは東洋人に興味があるらしく質問攻めに合うのだった。
そのころ一眼レフは持ち歩かなくなっていたし、ベルト代わりにキッズから巻き上げたステンレス製のシャワーノズルを腰に巻いていた。

それを手に取り八の字を描けば凶器になったしナイフより有効な手段だと真剣に考えていた。
実際には徐々に街を歩くことで気軽に挨拶をしては話しかけてくる彼らと1人1人仲良くなり
自由に歩ける道が増えたこと、それに下手なことをしなければ彼らは襲ったり殴ったりはしない。
友達になることが一番有効的で効果的だった。

それでも不安な深夜の時間帯、移動しなければいけない場合は
道路の真ん中を首からシャワーノズルをかけ歩きビーチでは照明のあるコンクリートの道ではなく
波打ち際を選んで歩いた。

夕方広場で行われるサッカーに合わせて街に出た。
サッカーストッキングと短パンを新調したせいでまたカンフーシューズに似た靴も体に合ってきた。

足取りも軽かった。深夜にビーチに行き密かに個人練習をしたりしていた。
今日こそ1ゴール決めてやると、ボールを蹴りながら街を行く。
天気もよく気持ちのいい午後だった。

一台の警察車両が対向車線を通り過ぎた。
何も気にせず丘の上を目指すとUターンしてきた車両が目の前に止まった。


「なにやってるんだ?お前こんなところでボールを蹴っていたら駄目だろ」

「あ、ごめんなさい、すいませんでした

僕は素直に謝りボールを手に取る
こっちへこいと白人系アフリカ人のポリスは手招くのだった。
ボールを取り上げられ、簡単な質問を幾つかされた後手荷物をチェックする
ポケットにはおやつが買えるほどの小銭しか入っていない。
何でこんなところでボールを蹴っていたんだ?法律違反だぞ、お前を逮捕することも出来る。

雲行きが怪しくなってきた。

僕は素直に謝り続けたがポリスはどんどん高圧的な態度で脅しをかけてくる。
日本のポリスの比じゃない。既に身動きが取れなくなっている。助手席が開きドアとポリスが僕を挟んでいる。胸に腕を押し当て力を入れ圧迫されていた。

「What!!!」

気がつくと自分が予想したより大きな声をあげていた。
ポリスは更に強く力をいれて叫ぶなと凄んでくる。
僕は反抗してはいない何度も謝っていた。
それを示す為に屈みポリスの腕を首元に当てさせた。

ポリスはさらに脅しをかける。
すまなかった。何度目も同じ事を言うとやっと離してくれる。

わかった、もう行け!ポリスはドアを閉め車に乗り込んだ。
車はそのまま発車しようとしている。

「あの、ごめんだけどボール返してもらえないかな、」
キッズ達と蹴ったボール。ドラッグを止めさせたボール。
瞬間的、一時的にかも知れないが、それは僕にとっては特別なサッカーボールになっていた。

「もう道では蹴らないから」と言う前に彼は言う

「返して欲しいか?なら車に乗れ」

バンの後部座席のドアが横開きに開く。この後の展開はさすがに予想はついた。
ハイエース形の車両にはいかにも時間を持て余したポリスが7人
乗ったら最後、大変なことになるのは重々承知していた。
後から考えても不思議な決断だった。
僕はバンに乗り込んだ。
乗った直後ドアは閉められる。
ロックはしたか?助手席のアフリカーンが仲間に確認する。

鳥篭の中のインコ。
僕は目の前の黒人女性ポリスに丁寧にお願いした。

「道路でボールを蹴っていたのは明らかに僕のミスです。もう2度としない。約束します。どうかお願いだからボールを返してください」
彼女は自分の背後にあったボールを手に取った。両手でそれを抱え僕の顔を見る

「please」
そう言い終わる前に彼女はボールを車内後方に放り投げたのだった。

子供か?
ため息をつき終わる前に
「fack you bitch !!」
口から言葉は出てしまった。

「what did you say ha ??」
そこからは早かった。まったなし。運転席の男が殴りかかってきたのは確かだった。
うつ伏せになるも背中、腰、足、後頭部まで罵声を浴びせながら好き放題だった。


不思議だった。ミイェレの時と同様、自己防衛本能が急ピッチで働く。脳内アドレナリンかそれは暫く痛みを我慢できるほどだった。

「あぁ知ってる体が覚えてる
そんな状態も長くつづかなかった
反応がない事に腹を立てた彼らはさらに必要に殴り蹴り続けるのだった。
後頭部を必要に殴られると痛みより先に怒りが湧き上がったが時間の問題だった。
アフリカーンの男は拳銃を頭に突きつけるのだった

「お前なんて言ったんだあ?なんで俺たちを尊敬しないんだ?あ?クレバーになれよクレバーになれよ??」

集中力は極限まで研ぎ澄まされている、秒速の中で心の中で反抗していた
彼が撃たないことは分かりきっていた。演技がかかった口調は興醒めする
しらけ笑いを呼び起こす。


クレバーになれクレバーになれ  クレバーになれ  か.............



im soooooohh rrrryyyyyy !!


僕は思いっきり子供の泣き真似の様な声をだし何度も許しを請う。
男が引き金を引く。
さらに後味の悪い2~3発を見舞いやっと満足してくれた。
攻撃は止んだ。
車がゆっくりと何処かに移動する。
窓からは午後の日差しが綺麗に車内に差し込んでくる

美しい
危うく涙が出そうになる。

「僕は少し前まで現役のプロサッカー選手だったんだ。怪我で諦めたけどワールドカップが夢で、それをどうしても見届けたくて南アフリカまで来たんだ。お願いだからボールを返してくれ 」

僕はメチャクチャな嘘をついた。車内の空気が変わった。
ボールを後方に投げた黒人女性のポリスが僕のボールをそっと返してくれた。

エリックが拘束されていた警察署にたどり着いた。
アフリカーンの男は事務処理のため写真を撮るインド人のいかにも1人では何も出来そうも無い痩せた男は、ケータイ電話を取り出し写真を撮る。

後で好きな時に思い出せばいい。狂っ様に舌を出し視線を送ると気味悪がって目を逸らすのだった。

運転手の黒人は車両ナンバーを控えるかねとボールペンをちらつかせる。
ロックされたドアが開き開放される。

最低な事を言いやがって。さっさと帰るんだ。
アフリカーンの男は1つだけ間違っている。
確かにfack you bitch と言葉にし口に出した。

ただ、僕は思いついた下から2番目に最低な言葉を口にしただけだった。



駐車場内に5セントのコインが落ちていた。誰も見向きもしないだろうボロボロのコイン。
僕はそれを拾いポケットにいれボールを蹴りながら警察署を後にした。
怪我はした。ボールは帰って来た。所持金は増えた
無理矢理納得した。






彼らが言うバビロンの正体 Fucking Police
A true story by sotaro ohdake
https://twitter.com/sotaro81
http://www.facebook.com/sotaro.ohdake