虹の国をみつけたら past 23
オーバーステイと不法労働




ワールドカップの開幕翌日。
つまり6月11日にこの国にやってきてからまる3ヶ月が経とうとしている。
観光用のVISAは3ヶ月間は有効でそれ以上滞在する場合は金を払い新たにVISAを申請するか一度隣国に渡り再びフリーの観光VISAを習得する合法的な方法があった。
観光局に問い合わせると新たなvisa発給にはR1000=12000円程かかることが判明。
隣国に逃げ又戻る費用も同じくらいかかることがわかった。
自分の性格上、一度隣国に行ってしまえばそこから更に違う土地へ移動したくなるだろう。
ダーバンで多くの友人や寝泊りできるスペースを持ちここから動きたくない気持ちが強かった。

VISAが切れれば不法滞在者になる。
しかし大麻所持で逮捕されても1200円で保釈できてしまうこの国の制度を考えると不法滞在者になって困ることとは何だろうか。
ストリートにはこの国生まれなのにIDすらない子供達がいる。
あのショップのBOSSだってIDを持っているかどうかさえわからない。強制送還してもらえるほどこの国にはお金がないだろうし、それを理由に逮捕されることはあるのだろうか?

結局答えはわからない。

国境を指紋サインで超えて来たミイェレが隣に居る分
どうしてもそのあたりの感覚が鈍ってくるのだった。
法の内側にいる旅行者ではなくなる境界線。それを超えた所にはいったい何があるんだろう?

VISAの更新を諦め不法滞在者になった。
結局のところVISAが切れる事に対する不安がなくなっただけで、生活は全く変わらない。
南アフリカ出国時空港イミグレーションで罰金を請求されるのはまだその後の話であった。

所持金が底を付きかけている。
日本から持ってきた銀行のカードもどうやら盗まれてしまったようだ。
ゲストハウスの宿代も10日ほど滞納してしまっている。

ミイェレのスペースで寝泊りさせてもらう分にはお金はかからない。
ただ財務省として食品の提供に尽力してきた僕の財力が尽きてきたことで家の冷蔵庫の食品ストックは明らかに減っていたし家族の食事も寂しいものに変わっていた。


それよりも気になるのは日本の家族へ連絡が出来ないことだった。
オフィシャルブログを強制削除されてしまった。
ここ2週間ほど日本の家族友人達は僕の安否を心配しているだろう。
10年来使っていたケータイ電話も予想を超えた長期滞在に備えておらず不通になっている。

お金を稼がなくては。。。さてどうしたものか。。。


そんな事を考えながら特に打開策もなくビーチを歩いているとある男が声をかけてくるのだった。


いくらだ?

???

いくらで写真を撮ってくれるんだ?


僕が持っている一眼レフを指差す。

なるほどそういうことか。この国の人たちはケータイ電話こそ持っているがデジタルカメラは一部の富裕層しか持っていない。それ故、カメラを首から提げた男達がカメラマンとなりビーチや人が集る所で客をとっているのだった。

R1でいいよ

僕は男から写真を撮ることで報酬を得た。
それからは僕はワールドカップの取材時に得たプレスパスを首から提げ客をとる
いわゆるカメラマンとして南アフリカの現地通貨ランドを獲得していくのだった。
幸い僕が所有しているキャノンは他の地元カメラマンが所有している機材より遥かにスペックが高く
またワールドカップのプレスパスが信用を呼び比較的簡単に客を集めることが出来たのだった。

客の多くはそれほど裕福ではない一般人だ。
まず写真を1、2枚無料で撮り彼らに見せ値段を交渉する。その時点で撮影に対する報酬とプリント代は別途必要になること説明した。彼らの多くはその場ではあまりお金を持っていない為、撮影に対しての報酬だけを支払い、来週になったらお金が入るからプリントしてくれ!そう言って電話番号を交換する。しかし約束の日が来ても彼らはプリント代を用意した!と連絡はしてこないのだった。彼らのプリントのデータは未だに僕のハードディスクに眠っている。


黒人の多くは水や海水を怖がり泳ぐ習慣がない。
しかし海水は料理や生活様式の中で必要(何に使っているか聞いても、答えを教えてくれなかった。そこには何か秘密がありそうだ)らしく
多くの人が海水を汲んでいる。またそれらを売っている露店も存在する。

その日僕がサーフィンをしているとあるブラックが波打ち際で海水をポリタンクに汲んでいた。
彼も水を怖がってあまり作業は捗っていなかった。
僕はウエットスーツを着ていたこともあり彼に声をかけポリタンクを預かり海に戻り海水を汲んであげたのだった。

すると男は「ありがとう、これはお礼だよ受け取ってくれ」とR2コインを手渡すのだった。

僕はそのR2で煙草を一本かい煙を燻らせ至福の時間を過ごす。
かっこよすぎる海女さんといったところだ

彼らにとってお金とは日本人の感覚より、より中性的な存在なのであろう。
その後も波打ち際でライフセーバーをしてオレンジをもらったり

ラスタの露店に作品を置いてもらったり、ライブハウスでブルースハープを吹きビールを奢ってもらったり、そんな具合で僕はお金を使う側から得る側=不法労働者になっていった。

オーバーステイと不法労働者であることを冗談のつもりでブログに書いたが
彼らが想像したのはドラッグの売人だった。

そんなこんなで知らない処=tokyoファッション村では噂は尾を広げ広まって行く。
友人同士ならまだ良かったが、帰国後お世話になったカメラマンに
行方不明になってたらしいいね、
など言われ、色々ありまして......と,説明するのは諦めたのだった。



しかし、そんな事をしてまでも、ダーバンに居続けたいと思った。
その気持ちに間違いはない。






オーバーステイと不法労働
A true story by sotaro ohdake
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