射の再現性と言っても、端的に二通りある。
ひとつは、どんな射でも慣れることで矢所をほぼ一定にし、矢の着点を的に重ねることで得られる。
中てようとする射も、いつか矢所の誤差が的の大きさに収まれば、中る射ということになります。
もうひとつは、矢を番えた弓が宙で自由な形状復元を行い、その結果、人為の無い射出が繰り返されると云うもの。
弦離れした瞬間、弓の不動点で受けていた弓力は即座に無くなり、ゆとりの有る手の内の空間で張り顔の状態へ戻っていく。
矢を合力で加速する上下の弦に負荷が掛かる為、弓の上下端はやや上伸びを抑えられつつ、握りのすぐ上下辺りは的方向へ飛び出し、つまり復元力の強い弓幹部が裏反り状態で矢を加速する。
矢の加速区間の長短(矢勢)を決するのは、比較的引く力の弱い上弦が矢を加速し終わるまでです。
離れると、上鉾が手前に倒れて来て、下鉾が大きく的方向へ飛び出す射では、引き尺の凡そ1/4程度しか矢の加速区間は有りません。
正射を行えば、引き尺の1/2程度の加速区間になります。
この後、矢が弦を引きつつ、弓は少し縦伸びをしますが、矢離れが起こってから本格的な縦伸びをます。
矢離れの時に、既に上弦からの負荷が長くない場合には、上鉾関板の下辺りが反っている為、弓が縦伸びをすると弦が関板を叩いて、一般に言われる弦音と云うものを発します。
しかし、正射の場合は、矢離れの時にまだ十分に上下の鉾が縦伸びし切っていない為、関板が手前に反り出ていないので弦が関板を叩くことは無いのです。
ただ、弓力が17キロ以上くらいの弓では、離れて返る弦が風を切り、弦笛が聴かれます。
不言流では、これを正当な弦音とし、関板を打つ弦音を板叩きと言って区別しています。
更に、弓力に比して軽すぎる矢を用いると加速区間が短く、弦離れの直後に矢離れする場合、空筈と同様で「ブーン」と云う大きな音を発します。
弦離れ直後で空筈になった弦が即座に上下に大きく引き伸ばされるからです。
かつては弓力の強い弓を良しとする時代があり、これを弦音と言っていましたが、弓と矢との適合性に問題の有る不正な射です。
さて、こうして矢離れをし、その後大きく弓が縦伸びをし、また張り顔へと戻る往復運動が弓の回転運動(弓返り)を起こしています。
これはクランク機構の現象です。
離れると、多少手の内の内面と弓は接触しますが、クランクの作用で回転するトルクが十分に大きいことと、既に矢離れした後である為、射の再現性には影響がほとんどないと言えます。
そして、手の内に於ける弓の自由度が高いからこそ、弓は残身までに2cm程度落ちます。
不言流は自らこれらすべての現象を再現し、その仕組みを見極めました。
発見は、他にも沢山ありますが、弓道人の常識や弓道教本等とは相容れないものが多いですね。