五間堀の発掘現場=今年3月、京都市伏見区
江戸時代、京都防衛の拠点として桂、宇治、木津の3川合流地に築かれた淀城の南端を流れていた五間堀(ごけんぼり)の続報です。(初報は7月3日)
堀の遺構は昨年から今春にかけて京都市文化財保護課が行った発掘調査で姿を現わしたところですが、その後、詳しく見ていくうちに、堀に沿って流れる木津川の氾濫で水や土砂が堀の中に流れ込み、その度に両者間を仕切る堀の南堤の上に土が盛られる一方、武家屋敷の並ぶ堀の対岸(北堤)は何ら対策を講じることなく、幕末まで被害を受けずに存続していたことがわかりました。水の管理が行き届いていた証拠ともいえそうですが、遺構から次第に身分に厳しい武家社会の悲哀を感じさせる姿も見えてきました。
修復の過程がうかがえる五間堀南堀の断面
木津川の護岸=今年3月
■度重なる水害
淀城は江戸時代前期に築かれました。五間堀は、武家屋敷が並ぶ「外高嶋」と呼ばれる城内の区域と、木津川の北岸に置かれた下級武士の住む長屋が並ぶ区域の間を流れていた堀で、現在も一部が水路として使われています。
調査地周辺は、巨椋池(おぐらいけ)に通じる城の東から取り入れた水を外堀や中堀などを経て西の桂川へと流す排水口近くにあたり、絵図には水門や番所、舟入りなどが描かれています。
昨春からの調査では、当初の堀の幅は約21㍍、深さは約1㍍だったことが確認されました。護岸は江戸時代の通常の城でよくみられる加工石を使った石垣ではなく、緩やかな勾配面にチャートや頁岩(けつがん)など表面の粗い石を乱雑に張り付けたもので、外観より治水を重視していたことがわかりました。
ところが、城を築くのに伴い城のすぐ南に付け替えた木津川がたびたび氾濫を起こしては、水と土砂が五間堀との間を仕切っていた南の堤防を越え、堀の中に入り込んだ跡が今回の調査で見つかりました。
記録によると、1700年ごろから幕末までの間、主なもので5回ほどの洪水が認められています。南堤の上には足軽ら比較的身分の低い家臣らの長屋が並んでいましたが、何度となく水の被害に遭ったことでしょう。
修復の模式図。➀が完成期、④が幕末期、②と➂では水対策で南堤のみを高くする様子を説明(京都市文化財保護課作成)
■堤防のかさ上げ
とはいえ、淀藩の方も手をこまねいていたわけではありません。さらに南堤に土を盛って高くし、側面に木杭を打つなどして護岸を補強した痕跡が遺構の断面から確認できました。修復回数も5回以上はあるとみられます。
五間堀の底も木津川から流入した土砂がたまり、時が経つにつれて堀の幅も当初より狭まり、川底も上がっていました。ところが、北堤には水害を受けた跡はなく、土盛りをした跡もみられません。堀が完成した江戸時代前期は両岸とも同じ高さだったのですが、最終的には南堤の高さは北堤より2㍍上回っていました。
北堤の上には「外高嶋」と呼ばれる、比較的身分の高い武士の屋敷地や城の庭園がありましたが、足軽の住居地となっていた南堤が北堤側の防波堤になっていたようです。
淀藩家老屋敷跡=令和3年12月
ろうそく石
■水対策専門の大名を起用
時代が進むにつれて堀の南の堤防が高くなったとはいえ、堀の底に土砂がたまっていったことで、堀に流すことができる水の量も以前よりは少なくなっていったはずです。そうなると、台風でも来れば、木津川の氾濫に関わりなく、当初から高さの変わらない北の外高嶋側も水害に遭っても仕方がないと思うのですが、その跡が見られない。どうしてなのでしょうか。
これには、水門と番所が果たした役割が大きかったと思います。五間堀の排水口に水門が設けられていたということは、城内には五間堀の取水口のほか複数個所に水門や番所があり、水量を管理していたこが想像できます。
さらに、18世紀に入り城の周辺で水害が顕在化すると、幕府が下総佐倉藩主の稲葉正知を淀藩に移動させたことも要因のひとつだといえます。佐倉では印旛沼周辺に広がる低湿地を抱えていたことから、水への対処、湿地の開発経験が豊富だったと思われます。
そういえば、以前の調査で出土した、軟弱な砂上に建てられていた淀藩の家老屋敷跡のことを思い出しました。砂を外に漏らさないよう石垣で囲んで頑丈に固めた上に屋敷は立っていました。砂も外に漏らさなければ土以上に頑丈で、地震にも強い地盤になります。これは「砂地業」と呼ばれ、現在でも行わている工法です。
さらに建物下の砂地の中からは、建物の柱を支える「ろうそく石」と呼ばれる四角い石柱が複数個所で見つかりました。深いところにある頑丈な地層と地上の建物とをつなぐ細長い支柱のようなもので、砂地の多い関東でよくみられるといいます。
こういう工法を身をもって知っていることは水際の城を管理していくうえで強みになります。やはり適材適所ということでしょう。













































