前回までに引き続き今回は、私が思う「そろばんによって向上が期待できる基礎能力」3つの最後の1つ、イメージする力について掘り下げてみたいと思います。
「イメージする力」とはなんでしょう。
今までご説明した集中力や暗算力と比べるとピンと来ない方も多いことでしょう。私は物事を成功させられるか否かは、物事の大小に関わらず、上手く行くまでの過程をいかに"具体的"にイメージ出来るかにかかっていると思っています。
ある物事を達成したいと考えた場合、それを上手に出来ている自分を想像することが重要なのではないでしょうか。それも漠然と思い浮かべるのではなく、リアリティーを感じられる程、鮮明にイメージすることが必要なのではないでしょうか。
例えば、サッカー選手がボールを蹴る場合、味方や敵の位置、蹴った後の人の動きを想像し、どこに、どのくらいのスピードで、どの様な軌道のボールボールを蹴るか判断します。さらにそれを実現するために、ボールまでの助走スピードや歩幅、軸足をどの位置に置くか、足のどの部分で蹴るか、力加減、スピンの掛け具合といったことまでを瞬時に決めるのです。それには、全体をイメージすることが必要です。一連の動作を具体的にイメージすることで、そのイメージ通りに体を動かすことが出来る様になります。ボールを投げるとき、速く走るとき、自転車に乗るときの様に、運動する場合にイメージすることが重要だと言うのは想像しやすいと思います。
では、イメージする力は運動のような瞬間的な物事にのみ有効なのでしょうか。
私の答えはNoです。
具体的にイメージすることは、中長期的な目標を達成する場合にも有効です。むしろ、イメージできなければ中長期的な目標は達成できないのではないでしょうか。
例えば、受験。目標は志望校に合格することです。しかし、漠然とあの学校に行きたいと思い、闇雲に勉強しているだけでは、折角の努力が徒労に終わってしまうかもしれません。志望校に合格するには、試験当日までにその学校の合格レベルに達している必要があります。合格レベルと現在の自分のレベルを知り、そのギャップを分析する必要があります。例えば、各100点満点の国語、数学、英語の三科目で合計270点が合格レベルだとします。それに対し、現在の実力が国語85点と数学85点、英語60点の計230点だとすると、あと40点伸ばす必要があります。しかし、国語と数学の両方を満点にしても30点しか伸びません。必然的に英語を伸ばす必要があることが分かります。では、英語を伸ばすためにはどうすればよいか、自分の現在の英語力を分析し、何が足りないのか、何を伸ばすべきなのかを考えます。さらに、その為にはどの様な勉強方法がいいのか、何をどれくらいやればいいのか、試験までに間に合うようにスケジュールする必要があるのです。
この様に、中長期的な目標を達成する為には、目標を達成するのに必要なことと現状のギャップを分析し、そのギャップを解決するために戦略をたてる必要があります。そして、その戦略を実現する為に必要なことと現状のギャップ分析をするという様に、問題を詳細化していくことで、今何をすべきかということが見えてくるのではないでしょうか。そして、これこそが上手く行くまでの過程をいかに"具体的"にイメージすることだと思います。
では、そろばんで「イメージする力」が身に付くのは何故でしょうか。それは珠算式暗算によるものです。前回ご説明した通り、珠算式暗算は頭の中にそろばんを思い浮かべ、計算を行います。日本珠算連盟の暗算1級であれば、3桁×2桁のかけ算30問とそれと同等のわり算、見取り算を合わせて12分で解く必要があります。その間、頭の中のそろばんの珠(たま)は目まぐるしく動くのです。そのため、珠算式暗算により、イメージする力を養うことができるのです。
ただ、珠算式暗算で身に付く「イメージする力」は、イメージする力の基礎でしかありません。イメージする力を発展させることで、中長期的な物事にも応用が利く力になっていくと思います。ただし、以前にも書きましたが、立派な基礎ができれば、その上に建てる建物もより立派なものができる可能性が高くなるのです。
以上、私の考える「そろばんの効用 3)イメージする力」でした。