人には誰にも言えないことが沢山ある。
一見、善人そうな人だって裏では…なんて話はよく聞くだろ?

言わないこと、言っちゃいけないこと
そんなことが人の数だけこの世界に溢れかえっているだろう。

勿論、俺だっていっぱいある。
実は小さい頃は泣き虫でしたーとか、父親のおかげで今でも暗い場所やお化けが嫌いですーとか。



実は、魔法が使えます…とか。



前者ならともかく。後者なら「頭、大丈夫?」とか結構きつい言葉を浴びせられるだろう。
でも、事実で…本当に魔法が使えるんだ。

「モベンスタ」

そう一言。テレビのリモコンを見つめて呟く。
リモコンは、もぞもぞと動き出して、ふわふわと浮き出し…

ガンッ!!

「-------~~~っ!!」

一直線に俺へと跳びかかり、額にぶつかった。



魔法を学べる学校、ソレンティア。
俺は20歳の時に招待状を手にし書かれた呪文に導かれて入学した。
そこは驚きの連続で。人間の世界では体験できないことがたくさん出来た。
自分が異性に変身してしまったり、バレンタインデーにチョコの怪物に追いかけられて、怪物自身を無理やり食べさせられ、それが不味いったら…いや、やめよう。思い出したら気分が悪くなってきた。

嫌な思い出とさっきの痛みをを振り払うように頭を振り、ある一室のドアを開ける。
そこには、一人の少年…まぁ、もう立派な大人なのだが、がすやすやと眠っている。
彼とは、学園からの友人で恋人だ。

「ただいま」

ベットに座って、髪を梳き小さく声をかけてみるが余程深いのだろう。目は覚めない。
きっと、大学の課題やらで疲れてるんだろう。その証拠に、机の上には色々な本やノートが積み上げられている。
中には、魔法関係のも。
また何か作るんだろうか…?今度は、安易に捨てないようにしないと。


「イツキ…」

少年に視線を戻し、名を呼んでみる。
勿論、返答はない。可愛い寝息を立てている。
その姿が愛おしくて…頬が緩んでしまった。
どんな夢を見ているんだろうか?
願わくば、俺が出ていると良い。
俺と二人で…笑い合って…それで…

「…せんぱ…ぃ」

聞こえた声に、はっと息を呑む。

「せんぱ…い?」

声が震えている。上手く呼吸が出来ない…
先輩って…たしか、高校の時の…?

「ヤダ…俺…を、愛してくれないの…?」

聞きたくなかった。
俺以外の…誰かもわからない名前を。アンタの声で…

俺だけを愛して?
俺だけを見つめて?
俺だけを…
おれだけを…


―オレダケヲ……!!―


聞きたくない衝動にかられて、キスで口を塞ごうとする。
しかし、次の言葉に遮られて未遂に終わった。

「アヤ…さん…」

ふにゃりとした顔で紡ぎだされた自分の名前。
なんの混じり気のない笑顔にすっかり絆されて、毒を抜かれてしまった…

「そんな顔されちゃ、出来ないじゃないか…」

出来ることなら、ずっと閉じ込めて。
誰にも会わさずに俺だけを、見て欲しい・
ずっと、ずーっと。俺だけを見つめて欲しい。
でも、そんなこと言ったら困らせてしまうのは嫌だし、嫌われるのはもっと嫌だ。
これが最も言ってはいけない、俺の隠し事。
言ってしまったら、終わってしまう。
今まで築いてきたものも、幸せも…何もかも。

「おやすみ、また明日な」

起こさないよう、頬に口付ける。
ん…んー…と声を漏らしたが、身じろぐだけで起きては来ない。

「愛してる…これからも、ずっと…」


そう呟いた声は、彼の夢の中に届いただろうか…?


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青い鳥にて4月10日は嫉妬の日なんて見かけたので、先輩に嫉妬する肖人を書いてみました。
重い。重すぎるし、情緒不安定すぎやしませんか、肖人さん!
しかし、実際には相方くんが心の拠り所になっているかと…ちゃんと自分を「相馬肖人」として見てくれている人ですからね。三忠もそうではあるのですが母親が…ね。

相方くん背後様からエイプリルフールSSを書いていただいたので、私も書きたい…。
そっちはほのぼの路線で行こうかと思っています。多分先に上げてるだろうけどね…。