ゆるし

ゆるし　　（よみもの）

あこがれの分野を目指す日々と、思いがけないチャンス

Hさんは、目標にしていた世界があって、独学で勉強し、関連のイベントにも参加し、資格的なものも手にしたそうです。将来はこういうことがしたいという、しっかりとした夢もあったそうです。

そんなHさんなのですが、ここ最近は表情が暗く、落ち込み気味になっていたということでした。

Tさんは、そんなHさんのことを心配して一声かけたそうです。

「何かあったの？」

そうすると、即座にHさんは答えたそうです。

「失望したの。」

「どういうこと？」

Tさんは、Hさんが目指していた分野のことについて、いくらか知っていたそうです。聞いてみると、Hさんの目指している分野の、憧れの講師K先生のセミナーがHさんの近郊で偶然にも開催されることになったそうです。急いでチケットをゲットして、会場に急いだそうです。

想像とは違った空間から受けたカウンターパンチ！

一生懸命勉強し、それに遠くて行けなかった憧れの先生のセミナーのチケットをゲットなんて、すごくいいことにしか思えない気がしたのですが・・・・・・、

Tさんの聞くところによると、K先生に失望したのではなく、周辺に失望したのだそうです。

Hさんの目指す分野は、どちらかといえば、一人でコツコツと腕を上げていくという分野だそうですが、当日のセミナーでは、すでに顔見知りの大きなグループができていて、ワイワイとその中でしかわからないような雑談で盛り上がり、結局、Hさんは浮いた状態になってしまったそうです。その雰囲気に圧倒されてしまい、焦ってしまい、なんとかして、話しの中に入りたいと思ってトライしてみたものの、よそ者扱いのようにされて、あんなに憧れだった先生のお話に集中することもできず、ぐったりとなって帰ることになったそうです。

ふんばれど、ふんばれど・・・・・・・

それでも「くたばっていたらダメだ！」と自分を奮い立たせていたHさんは、憧れの先生の仕事のやり方を詳しく知りたくて、SNSで情報集めを始めたそうです。ですが、そこでさらにショックを受けたそうです。

偶然にも、憧れの先生に関する、個人的なサイトのようなものを見つけてしまったとのこと。

「もう終わった・・・・・・無理。」

そのサイトの書き込みを見て、留めのパンチをくらってしまうのです。

サイトのメンバーの書き込みの様子を見てみると、メンバーの中で、匂わせマウント合戦が行われていたとのこと。

メンバーの中にも格付けのようなものができてしまっていて、その分野関係の有名なコンテストで評価された人を取り巻く人がいたり、私は誰かに褒められましたと言っている人もいて、そこにも取り巻く輪がまたできていて。そうでない人の中には、「憧れのＫ先生つながりのＯ先生とメール交換成功しました～♪」や、「この分野の友達いっぱい～。」などのオンパレードも。別にこの方々がどうのこうではなく、ただただ、Hさんの中に、はかりしれない不安と孤独感が迫ってきたそうです。

それは、Hさんの思っていた、憧れでもあった、コツコツと作業を進めていく方々と達成感を共有していけそうというイメージとは、全然違う様子だったとのこと。全身の力が抜けてしまったということなのだそうです。

押しつけとは無縁な、その人のやさしさ

Ｔさんは、そんなＨさんを目の前にして、いたたまれない気持ちになって、そっと声をかけたそうです。というのも、Tさんは、絶対入りたいと思っていた高校に入学し、そこで、全然思っていたこととは、正反対の高校生活を送ることになった経験を持っていたからです。気の抜けた暗い生活を送り、とても辛かったので、自分のような思いをしてほしくないと強く思ったそうです。

「無理にそこにいる必要はないよ。ここまで来たからもったいないって思って体を壊す方がもったいないよ。心に傷を自らつけてしまうのは、もっとよくないよ。」

「続けたいのなら、別の先生を見つけてもいいし。」

「よく似た分野だってあるだろうし。」

Ｈさんは、顔をあげてひとこと、

「・・・・・・ありがとう。」と言ってくれたそうです。

努力し続けたものを手放すのは、とっても辛いこと。だけど、あの時、一瞬で「ここでは絶対やっていけない」とピンとしてしまった事実には逆らえない。Hさんは、そう悟ったということです。

結局、Hさんは、あのかたまりからは離れることになりました。だけど、あまりにもロスがひどいので、「何年かして、もう一度挑戦したくなったら、挑戦してもOK！」そういうゆるしを自分にプレゼントしたそうです。

そのお話をＴさんから聞いた私自身も、今はそんなかたまりかもしれないけど、時間がたてば、また違う雰囲気の人が集まってくるかもしれない。流行にのるというような感覚でその分野の学びの輪にいる人は、流行が去れば、また次の流行に乗りかえると思うし。自己を持ちつつ、互いの世界を尊重していける人が先頭にたつことがあれば、それはＨさんの理想郷！再挑戦は全然ＯＫだと思いました。