おはようございます、そらのです。


以前ブログに話した途中まで書いた小説のデータが見つかりました。


間違えて消したかと思ったら、もう一台あるスマホの中にありました。良かった……。


もう続きの展開が思い付かないんですが(プロットの作り込みが弱かった)話は気に入っているので、途中投稿します。


途中で終わっても大丈夫だよって方は、読んでくれると嬉しいです。




【君は勇者になれない】


 俺は勇者になりたい。子供の頃からの夢だ。


 五歳の頃に旅人から絵本を貰った。それは勇者が魔王を倒す話だった。勇者はとても格好良かった。俺も勇者になりたい。そう思った。


 その夢がついに叶うかもしれない。


「ミケ! 伝説の剣がこの村に来たって本当か!?」

 喫茶店に俺の声が響く。近くにいた人達にジロリと睨まれる。俺は小声でその人達に謝った。つい大きな声が出てしまった。

  机を挟んで俺の前に座るミケもうるさそうに耳を塞ぐ。ミケは獣人で、見た目は服を着た三毛猫だ。背は十四歳になる俺と同じくらいで、年齢も俺と同じだ。

「本当にゃ。この国に伝わる伝説の剣が来たにゃ」

「わーマジなんだー! 伝説の剣が俺に会いに来てくれたのか~!」

「会いに来たならテオの村に直接行くはずにゃ」

 そうなんだよなぁ。ここは俺の村の隣なんだよなぁ。伝説の剣がミケの住むこの村に来たと知って、わざわざ出向いたのだ。

「そんな細かいことは良いだろ。伝説の剣、どこに置いてあるんだ!?」

「村の教会にあるにゃ」

「よっしゃあ! さっそく行くぞ!」

「本気にゃの?」

 ミケは心配そうに眉を下げる。

「当たり前だろ! ミケ、知っているだろ! 俺が勇者になりたいって! その夢がついに叶うんだぞ! 伝説の剣を抜いた者は勇者だ!」

 やれやれとミケは首を振る。

「なんでそうにゃるかにゃ。何度も言っているけど、テオは勇者にはなれないにゃ」

「ミケ、挑戦する前に諦めたら駄目だぞ」

「そうじゃなくて……」

「あなた勇者になりたいの?」

「え?」

 突然女性の声が飛んできてびっくりする。顔を上げると、水色の髪の少女が立っていた。瞳の色も水色だ。澄んだ水みたいな瞳に目を奪われる。

 綺麗な子だ……。

「もしもし?」

「ハッ!? な、なんだよ! いきなり! 誰だよお前!」

 少女はぺこりと頭を下げる。

「突然ごめんなさい。気になる話をしていたから……。私の名前はララ・フローレス。伝説の剣を見にこの村へ来たばかりなの」

「へ、へえ。お前も伝説の剣を見に来たのか。俺はテオ・クロフォード。よろしくな」

「ミケにゃ。テオは馬鹿だから話を真剣に聞く必要ないにゃ」

「ああ!? 誰が馬鹿だと!? 確かに勉強は嫌いだけどよ」

 ララはこてんと首を傾げる。

「テオは歴史の勉強している? この国の名前は?」

「え、インクワ国だろ? それぐらいは知っているよ」

「インクワ国と争っている国の名前は?」

「えーと……なんだっけ?」

「ジャス国にゃ!」

「あーはいはい、それな」

 知っているし! ちょっと忘れていただけだし!

「この国が周りの国からなんて呼ばれているのかは知っている?」

「え、知らない……」

 それは本当に知らない。なんて呼ばれているんだ?

「ね? 馬鹿だろにゃ」

「うん、ほんと馬鹿ね」

「はああ!?」

 初対面の人に馬鹿って言われたんですけど!? 可愛い顔して失礼なやつ!

 ララは楽しそうにクスクス笑う。

「でもテオは素質あるわ」

「え? 勇者の!?」

「ううん」

 こそっと耳元で囁かれる。

「魔王の」

 一瞬言われたことが理解出来なかった。

 まおう? 魔王って言った!? なんで!?

「なに言ってんだお前! 勇者と真逆じゃねーか! 誰がなるか魔王になんか!」

 また周りからジロリと睨まれた。小声ですみませんと謝る。

 ララはまだ楽しそうにクスクス笑っていた。

「今から伝説の剣を見に行くの? 一緒に行っても良いかしら?」

「なんでだよ、来るな」

「良いにゃ。一緒に行くにゃ」

「ふふ、ありがとう」

「ちょっと待て! 勝手に決めるな!」

 ミケはスタスタと会計を済ませると、ララと一緒に外へ出た。

「そして置いていくなー!」

 慌てて二人の後を追った。


  教会の前は行列になっていた。最後尾の人は「伝説の剣に挑戦する人はこちら」と書かれたプラカードを持っていた。教会から出てくる人達はがっくりと肩を落としている。伝説の剣を引き抜くことが出来なかったんだろう。

「それにしても王様は何を考えているにゃ。突然、伝説の剣に選ばし者を探すなんて」

「そりゃこの世界にピンチが来たんだろう。世界を救う勇者が必要になったんだよ!」

 ララがまたクスクスと笑う。誰も面白いこと言ってないよね?

「村を順番に回っているって。この村で見つからなかったら、次の村に行くそうよ」

「じゃあ、テオ、自分の村で待っていれば良かったにゃ」

「いやいや、あまり待たせたら悪いよ。伝説の剣も早く俺に会いたがっているはずだ」

「どこからそんな自信が来るにゃ?」

「ふふ、テオ面白いわ」

 だからそんなに面白いことは言ってないだろ。

「まぁ、どっちにしろテオは剣を抜けないにゃ。お金を賭けても良いにゃ」

「なんだとー」

「私はテオが引き抜くと思うわ」

「え!? ララはそう思ってくれるの!?」

 さっきは魔王の素質あるなんて言っていたのに。

「ええ、当然よ」

  なんだよ。良いやつじゃないか。

 よしゃあ、ララが応援しているし、俄然頑張るぞ。


 いつの間にか目の前は教会の扉だった。俺達三人は教会に入っていく。

 教会の真ん中に土台に突き刺さる剣があった。剣からピリピリと魔力を感じる。俺には魔力なんてないけど、何故かそう感じた。

「挑戦者、前へ」

 教会の奥にいる兵士が合図を送る。

 俺はミケとララより前に出た。

 剣の柄を掴む。ビリッと魔力が走る感じがした。

――待っていたぞ。

 え? 頭の中に声が響く。誰?

――さあ、剣を引き抜くのだ。

 俺はゆっくりと土台から剣を抜いた。

「そんにゃ……!」

「ああ、やっぱり、そうだと思ったわ」

 ミケは驚き、ララは喜んでいる。

「お、おめでとうございます! 貴方が選ばれし英雄です!」

 兵士が慌ててお祝いの言葉を述べる。

 俺はじわじわと喜びが混み上がってくる。

「やった……! やったぞ!」

 これで俺は勇者だ!

「ではさっそく城へ向かいましょう。王様がお待ちです」

 兵士に案内されて俺は付いていく。

「あの、仲間を連れて行っていいですか?」

「別に構いません」

 俺はミケとララを手招きする。二人は俺の横に並んだ。

「やったぜ! これで勇者だぜ!」

「ふふ、おめでとうテオ」

「にゃ、にゃあ。辞退した方がいいと思うにゃ」

「なんだよミケ。俺が勇者になるのがそんなに嫌なのか?」

「テオは勇者にはなれないにゃ」

「はぁ!? まだそんなこと言うのかよ!」

「だって……! だ、だって……」

「ミケ?」

 ミケは足を止めると、その場にぺたんと座り込んだ。

「どうしたんだよミケ!?」

 駆け寄って抱き寄せると寝息が聞こえた。

「寝ている!?」

「私の魔法で眠らせたわ」

「はあ!?」

 ララの言葉に驚く。ララはにこにこと微笑んでいる。

「だってミケはテオのやる気を下げる発言をしかねないもの。暫く眠らせた方がいいわ」

「別にそこまでしなくても……! そんな簡単に俺のやる気は下がらないって」

「そうかなぁ……?」

「だからミケを起こして」

「この魔法、半日は解けないの」

「ええ!?」

 半日も眠り続けるなんて、強力な魔法じゃないか。ミケの体は大丈夫なのか?

「んにゃ……うう……」

「ミケ! 大丈夫か!?」

 ミケは何か喋ろうとしている。

 俺はミケの口元へ耳を傾ける。

「大量の金塊だにゃ~。にゃはは」

 幸せそうな夢を見ていた。

「……大丈夫そうだな」

 仕方ない。ミケの家に運ぼう。

 本当はミケと一緒に王都に行きたかったな。

 ミケはお金が大好きな商人だから、賑やかな王都に連れて行ったらすごくはしゃいだだろうな。普段はクールだけど、お金には目がないんだ。

「さあ、早く行きましょうテオ」

 ララは楽しそうにそう言う。

 人を魔法で眠らせたのに悪気なしだ。

 この女、大丈夫なのか?

 不安に思いつつもララが付いていくのを拒否しなかった。

 ララが可愛いからって理由じゃない。いや、それも否定しないけど、誰でも良いから見せたかった。

 俺が勇者になるところを。


 王都までの移動は馬車だ。

 王都は初めて行く。どんな所なんだろう。

「王都楽しみだな。ララは行ったことある?」

 俺の向かいに座るララが答える。

「一度家族と行ったことあるわ。でも小さかったから殆ど覚えてないわ」

「へぇ、そうなんだ。ララの住んでいる所は王都に近いの? どこ?」

「ないわ」

 ララの声のトーンが落ちる。

「私の村は私が12歳の頃に消滅したわ。ジャス国が奪ったの。私の両親もその時に亡くなったわ」

 俺は言葉を失った。

 なんて声を掛ければ良いのか分からない。

「……ララって何歳?」

「16よ」

 俺より二歳も年上。いや、それよりも気になることは……。

「四年間も一人だったんだ……」

 ララはにこっと笑った。

「だから私、破滅が見たいの」

「へ?」

「世界の破滅。人々が恐怖に震え、逃げ惑う姿。何もかも壊れてしまう。そんな光景が見たいわ」

 うっとりした表情で怖いことを言っている。

「まるで悪役じゃん……」

「ふふ、悪役良いじゃない。私、正義の味方よりも悪役の方が好きよ」

「ええ!? なんで!? 俺は断然正義の味方派! だって俺の夢は勇者だから! 勇者になって世界を救うんだ!」

「ふふふ、テオってほんと面白い」

「面白いことは言ってない!」

 ララは俺が手に持つ伝説の剣に視線を向ける。

「そのうち分かるわ」

 馬車の外から雷の音が響く。

 窓へ視線をやると、これから向かう場所の上空に黒い雲があった。

 そのうち分かるって、何が?

 ララの口が動いていたけど、雷の音で全く聞こえなかった。


 王都に着いた。

「おおー! ここが王都か~!」

 馬車の窓から景色を眺める。予想通り活気があった。

 でも生憎の天気で少しじめっとした空気が流れている。

 馬車が向かう先を身を乗り出して見た。

「あれがこの国の王様がいる城……」

 城は黒かった。

 イメージと違う。

 まるで……。

「魔王の城みたい」

 俺のつぶやきにララはふふっと笑う。

「あ、いや、失礼だよな! 魔王の城だなんて! 人を見た目で判断しちゃいけないって言うけど、城も見た目で判断しちゃいけないよな! わ、わ~! 立派な城だなぁ~!」

「テオの感想は当たりよ」

「は?」

 雷が鳴り、ララの顔を照らす。

 そして信じられない言葉が聞こえた。

「ここは魔王の城よ」

「…………え?」

 言われたことが信じられなくて固まった。

 魔王の城……? どういうこと……?

「それじゃこの国は魔王の国ってことになるぞ?」

 くすくすとララは笑う。

「その通りよ。私達の住む国は他国から魔王の国って呼ばれているわ」

「嘘だろ……」

「テオってばほんとに歴史の勉強をしてなかったのね。それとも自国の悪い情報を生徒に伝えない学校に通っていたのかしら」

 そんなの知らない。歴史の授業はいつも寝ていた。

 歴史に興味ないせいか先生の話を聞いていると眠くなるんだ。

 俺は伝説の剣の柄を強く握る。

「この伝説の剣は……? 勇者の剣じゃないのか?」

「誰も勇者の剣なんて言ってないでしょう? この国にとっての英雄の剣、つまり魔王の剣よ」

 剣から手を離した。大きな音を立てて剣は馬車の床へ転がる。

「まぁテオ。大事な剣よ。大切に扱わなきゃいけないでしょう」

「魔王の剣が大事な剣!? とんでもない! 魔王の剣ってことは沢山の人の命を奪った剣だろ!?」

「ええ、そうね」

「そんな剣いらない!」

 俺が欲しかったのは勇者の剣だ。

 魔王の剣なんて正反対じゃないか。

「ねえ、テオ。貴方はなんで勇者になりたいの?」

 ララの綺麗な水色の瞳がまっすぐと俺に向けられる。

「……世界を救いたいから」

「テオの言う世界ってなに?」

「世界は世界だろ」

 はぁと向かいから溜め息が流れる。

「貴方って本当に馬鹿ね」

「なんだと……!」

「でも」

  ふふっと今度は笑い声。

「だから素質あると思うの」

「何の?」

「魔王の」

「だから魔王になんてならな……!」

 馬車が大きく揺れて急停車する。

 そして馬車の扉が開く。

 どうやら城に着いたようだ。

「俺は行かない。魔王の剣は返す」

 馬車を運転していた兵士にそう告げた。

「それは困ります。王様がお待ちです」

「王様って魔王だろ! 会いたくない!」

 馬車から降りずに俺は抵抗した。

 誰が魔王に会うもんか。

 俺が動かないでいるとララが言った。

「じゃあ剣を返しに行きましょう」

 その言葉に兵士が賛同する。

「そうですね。ご自分でお返しください」

「代わりに返してくれよ」

「もしかして、テオ、怖いの? 勇者になりたいのに魔王が怖いの?」

「はぁ!? そんなわけないだろ!」

「だったら自分で返しに行きましょう」

 笑顔でララに言われた。

「く……っ。分かった」

 剣を返しに行くぐらい自分でやるか。

 別に怖くなんかない。本当だ。

 むしろ今すぐやっつけに行きたいぐらいだ。

 もしもここで魔王を倒したらどうなるんだろう。そしたら勇者なんじゃないだろうか。

 それだ。そうしよう。

 俺はこれから魔王を倒しに行く!

 そう決意をして伝説の剣を握った。


【つづかない】




☆☆☆


ここまでです。


読んでくださりありがとうございました!


この後、60代ぐらいの魔王が登場します。


病気なのでお前が魔王になれと主人公は言われます。


抵抗する主人公ですが、自分の村がジャス国に滅ぼされて気持ちが変わります。


自分の世界を守りたいと。


ちなみにジャス国には勇者がいます。


勇者が敵です。


そんなお話でした。


勇者も好きですが、魔王も好きです。


魔王から見た世界ってどんな感じなんだろうなぁとか、勇者って魔王にもなれそうじゃない?とか妄想します。


そんな妄想から出来た小説でした。


読んでくださった方、本当にありがとうございました!