「君の勤める会社に何度も何度も何度も履歴書を送っているのに、初めのインタビューでいつも落ちてしまう。」
この会社のキャビンクルー志望のパキスタン人男性から相談を受ける。
「僕に何が足りないのか、現役の君の口から教えてほしい」
と藁にでもすがるつもりか私にしがみついてくる。
採用試験の合否というのはその会社の人事にしか分からない基準で出来ているし、何がダメで不合格になったのかとかいう理由はもちろん伝えてもらえない。
1回目の試験は一次落ちだったのに、2回目の挑戦で採用される事もあるから本当に分からない。
何社もの航空会社から同時に採用通知を貰ってどの会社にしようか迷っている。とかいう就活エリートを睨みつけながら毎週お祈り通知を貰ってきた私。
落ちてきた会社、回数を数えたら会社の日本人クルーの中では優勝できると思う。
そんな私にします?そんな質問。
でも一生懸命考えた。
本当に考えて、どうしたらこの人が合格できるのかを、どんな的確なアドバイスをしたらいいのか考えた。
絞り出した答えが、
「うーん。分からない」
分からないよ。変なことも言えないし、最近のリクルート事情も全く知らないから。
一瞬がっかりした表情を浮かべるが、めげずに
「何でもいいからアドバイスをくれ。君はクルーとして働いているんだろう?どうやって面接を通ってきたの」
食い下がるなぁ。分からないものは分からないよ。人事じゃ無いもん。
少しだけイライラしてくる。
「履歴書とか面接の対応の内容をあなたの近しい人に見てもらってアドバイスをもらった方がいい。」
もうこの話題を終わらせてしまいたい。
「僕の友人たちは次々に合格して僕だけ取り残されている。ねぇ。何が秘訣なの?何で僕は受からないのか、何でもいいから言ってよ。」
必死さだけは伝わってくる。
伸ばした手が少しだけ痺れてきた。
「じゃぁ、その友人に聞きな。私は人事じゃ無いから分からない。ごめん。」
あからさまにがっかりとした表情を浮かべ、
「分かったよ。じゃあね」
と私が掴んだフードデリバリーの紙袋をやっと手離してくれる。
助手席の窓を閉めキュキュっとタイヤを鳴らしながら大きく会社名の入ったコンパクトカーを発進させて去っていく。
私に少しのモヤモヤした気持ちと冷めてしまったデリを残して。
クリスピーポテトのクリスピー感が全く無くなってしまったポテトを食べながら思う。
デリバリーに来たのに、車の助手席まで取りに来させて手渡した紙袋を渡さずに掴んだまま客に人生相談をするような人はどこにも採用されないぞ、と。
支払い時にすでに配達員にチップを支払ってしまったけれど、よくよく考えたらこちらがチップをもらうべきではないのか。相談に乗ったんだから。
という器の小ささをぬるくなってしまったダイエットコーラでグイッと流し込む。
ディップ用のシラチャーマヨソース、めちゃくちゃうまい!!!!