胃の入り口までパンパンに詰まっているのに、もういらないのに、最後の一皿を掬いに朝食ブッフェの食べ物コーナーへと立ち回る。


北アフリカ、アルジェリアはアルジェ。

挨拶はボンジュール。


オリーブの炊き込みご飯とチーズコロッケ、マッシュルームと玉ねぎの炒め物。

ソースはピリ辛のサウザンアイランド。

最高の組み合わせ。



気持ち悪くなっても、後で動けなくなっても食べないと後悔すると思った。

いつか後で「これを食べにアルジェリア行かなきゃ」つて思わないように。





もうここへは来たくないですから。






疲れている時

お腹が空いている時

今置かれている環境が最悪な時


人間の黒くて汚い、そして強大なエネルギーは発せられる。

残酷で鋭くて動物的。






朝の8時。外気温は優に40度を超える。

かなり古い機材の330はぶん回したACでもドーハの暑さに勝てる力はない。


機内の温度は33度を示してしまった。

そんな中搭乗が始まる。


昨日9時間遅延したため今日の便に振り替えた人も搭乗されている。乗ってきた瞬間から彼らの口から悪態が放たれる。


黙って吸い込む。ふりして避ける。



心持ちが良くない時というのは、もっと気分が悪くなる事をどこか無意識に求めてしまうし、そして引き寄せやすい。



俺の荷物をいれるスペースがねーよ。一番前の座席だと思っていたのにこんなに狭い所に座れねー。

不快だな。不快だ。不快。

おいっ、なんか気づいたらあちーじゃねーか。なんだよこの航空会社はよ。

「おい、そこのCA!」


と大きくなったダークマターをいよいよ口から吐き出す。


処理に困ったクルーが機内を歩き回ってさらに寄せ集めてかなり巨大に膨れたダークマターをそのまんまこちらへ投げつける。




その処理でさらに遅延する。

それでまた怒られる。



離陸のため機内循環をしていた時。

シートベルトを着けてというお願いをしただけで、相手の口が突然ガバッと開き、真っ黒で不気味な色をしたダークマターが無防備な私に浴びせられる。


まだ飛んでもいないのに私の全身はドロドロの紫の液体まみれになってガチガチになってしまった。



機内全体がドス黒い空気に包まれていた。

古い機体には支えきれない重さだったのか、330からキャプテンを通して伝えられる。



機体不備のため機材変更をします。





33度のサウナの中。

もうすでに3時間遅延していた。



汗だくで謝罪行脚していた私も熱中症になりかけていた。


その一報を聞いた時、やっと解放されたと思った。

嬉しかった。

私たちはそのフライトをもうやらなくて済んだ。

闇の中で暗い、怖い戦いをもうせずにいいんだ。




と思っていたのに。



5時間の遅延して、さらにそこから6時間のフライトを強行。

(結果から言うとトータルで2時間45分の規約違反。でも2時間は加味される2時間だから加味されないとかよくわからない)



あまり愚痴は言いたくないけどさ。


ボーナスも貰ったばかりだし。


でもさ。


あんまりじゃね?18時間拘束。休憩なし。



せっかくさよならと言ったのに。

「See you again」とは言ったけどこんなにすぐにじゃなかったんだけどな。


同じお顔に2時間ぶりに対面する。

当たり前のように彼らの闇は深くなっている。




やる気も精気も初めの330に全部置いて来た私は。

闇堕ちしないで今日のフライトを乗り越えられた事が奇跡だった。


本当に危なかった。


熱中症で疲れて

空腹でしんどかった。



ユニフォームを着ているし、ボーナスも貰ったばかりだし。

まだ少しの理性が働いた。



でも悪態を付く人全員引き摺り降ろしてやろうかとはおもった。

当たり前の「シートを上げてください」という指示にダークマターをぶっ放して来るような人たち。


そしたらお客が1人もいなくなってしまうからやめておいた照れ



窮地に人間の本性はでるからね。

仕方ないよね。





でもこれが。


遅延もなくて環境も悪くない時だろうが。


この路線の通常運転だったりもするからホントしんどい。










※中には乗り継ぎの飛行機逃して、大幅なスケ変を強いられて大変な状況になってしまったのに、「長い間大変だったね、お疲れ様。いいサービスありがとうね」とこちらに気を配ってくださる方も結構いらっしゃった好き。