歯に衣を一切着せぬ物言いで

一瞬で相手を圧倒させる。  
 
会社の専任のドクター、ヒナ。
 
専門医ではなく、総合的なドクター。
従業員の病気や怪我をまとめて見ている。
 
病気休暇の申請は会社専任のドクターの許可が必須だ。
 
医者の診断書に偽りがないか。
本当に病気休暇が必要なのか。
 
 
 
前に勤務していた優しくてクルーの味方の
ドクターシバーはもうリタイアされたみたいだ。
 
 
イギリス訛りのヒナは、
会社の方針に忠実だ。
 
 
椅子に座るや否や、挨拶もそこそこ
 
「今日は何?」
 
「説明がよくわからない。もっとちゃんと話して」
 
「検査で日本帰るの?ヒナ、許可出来ない。」
 
「何でわざわざ日本に帰って手術するの?ヒナ心外」
 
「だからこのクリニックはダメなのよ。もう行かなくていいわ」
 
 
 
ちょっと脚色したけど、
 
要はヒナに
 
今日、高度異形成の日本での手術を断られた。
 
 
 
前回も子宮を取るかもしれない大掛かりな手術だったのに、
「ドーハで出来るんだから、ドーハでやりなさい」
と恐ろしいことをサラッと言い放ったドクターヒナ。
家族のサポートが必要だと必死に訴えなんとか許可がおりだが。
 
検査のための帰国は「日本でやるから余計な休暇になるわ」と
認めてはくれたものの、病気休暇の申請は認めてくれなかった。
 
 
 
「今回も簡単な手術で済むはずだから帰国の許可はあげられない。もしもっと複雑な治療になって大掛かりな手術になるならヒナ認めるわ」
 
 
という事で、ヒナおすすめのシドラホスピタルへ。
ドーハクリニックのタレック先生の元へは
「2度と行かないで」
と言われてしまったため。
 
 
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超巨大病院。
 
診察外の夜に出向く。
広い病院、照明が落とされ、人気もない。
リノリウムの床なのに私のスニーカーの音がキュ、キュと響く。
 
 
 
夜の薄暗い病院に恐怖を感じるところかも知れないが、
病院が綺麗すぎて、整いすぎて、なんとなく未来感がある施設で。
 
映画の世界に迷い込んだよう。
 
 
それまで人の気配がなかったのに、
4階の婦人科へ着くと、灯りが煌々とついていて
患者の姿もちらほら見えた。
 
ナースの制服も清潔感のある紺色ベースに明るい青緑で襟元が縁取られたワンピースを着ている。
患者一人につき、ナースが一人つく。
エスコートしながら病室へ向かっていく様子はまるで高級ホテルのコンシェルジュ。
 
「ここで入院も悪くないかも」と少し思った。
点滴の針をきちんと正しく刺してくれさえすれば。
 
ただ。
 
結果から言うと、今日は「ドクター全員忙しい」と言われてしまった。
 
知っているよ。だから電話で予約しようとしたのに
「今日は20時から23時までドクターが診察しているから予約なしで来ていい」ってそちらが言ったんじゃない。
 
でも私の希望の日取りと時間で次の予約が取れ、
丁寧な対応をしてくれた。
 
病院のセキュリティーも接客マニュアルがあるのか、
「マダム、タクシーをお呼びしますか」
と気を遣ってくれる。
 
ホスピタリティーは抜群の病院。
 
 
 
 
とりあえず私の手術の日取りはまだ決まらない。