朝食はなし。

 

20分で無理矢理押し込んだOS-1のせいでお腹がタプタプ。

 

バイタルチェック。

何も問題がないくらい健康。よく寝たし、絶好の手術日和だ、今日は。

 

 

私が今日初の手術患者。

手術の予定時間は約5時間。長いな。待合所で待っていてくれる母の事を考えたら心細いのではと心配になる。でもここの病院の看護士さんはケアが手厚いから大丈夫だろう。

 

 

予定時刻の1時間前に手術着に着替える。

映画やドラマでよく見る簡単に脱がせられるガウンだ。

その下にトランクス型の紙パンツを履く。履き心地は抜群(本当に)。

 

 

加圧式のストッキングを着用(病院側が用意)。

 

名前が呼ばれ「行きましょう〜」と言う声で一瞬ドクっと心臓が波打つ。

 

 

ストレッチャーか車椅子で運んでもらえると思ったけど、よく考えたら今は元気な私、普通に歩きで看護士さんに誘導してもらい手術室まで向かう。

 

 

 

腹腔鏡施術

 

おへそとその周辺に穴を空けて筋腫を取り出すもの。

子宮は取らない、全切開もしない(予定)。

 

 

手術室扉の前で母親と面会が出来た。

 

「結構手術時間長いんだね、大変そうだ。」

「気をしっかり持って頑張ってね!」

そして念押しをするように、

「頑張って」っと強張った声で声をかけてくれる。

 

 

 

「私はずっと寝ているだけだろうから、何をどう頑張ればいいのか」

と割と本気で考えている事を真面目に言ったのに、看護士さんと母親に失笑されて見送られた。

何かあったらこれが私の遺言になってしまうのか。

 

 

もっとドラマティックな言葉を残すんだったなぁ、と後悔しながら入った手術室。

 

真ん中にベッドが一つ。

 

無機質で装飾も何もない部屋。大きな機械だけが人一人の手術とは思えない広すぎる部屋に点々とそこにあった。

 

 

私を圧倒したのは、そこはただの医療の現場で、私はただの一個体になる。そして被検体Aから個体Bを抜き取ると言う単調作業がそこで行われる事実が見えた事だ。

 

患者の事が考えられた診察室や病室とは全く性質が異なる空間だった。

無駄なものが一切ない、医者の為の空間。

 

 

 

部屋は十分暖かいのに、急に寒気が走る。

怖い。

 

そのためにだたっ広い部屋なのか、と納得するくらいの数のスタッフが忙しなく働いている。

 

恐怖を感じて萎縮している私をベッドへと促す。

 

ベッドに横たわるとものすごく暖かい風がくる。

ヒーターがつけられている。

「寒くはないですかー」と言う看護士さんの声にまだ人間でいられている事にホッとする。

 

 

すぐさま6人に囲まれ、装置や点滴、心電図などを付けられる。

 

 

麻酔科の女医さんがやってきて、「麻酔を入れます、名前を呼びますので聞こえたら返事をして下さい」と言われる。

 

 

その10秒後、左手側から痺れるような感覚が走る。

その後すぐにボーッとなる。

はぇぇ。こんなに麻酔って効きが早いのか。凄すぎる。

でもだめだ。負けちゃ。中途半端に効いて途中で目が覚めちゃうかもしれない。

ギリギリまで根性で戦うぞ。

母親が言ってくれた「頑張れ」はこの時の為のものだったか。

 

 

名前が呼ばれる。飛びそうになっている意識の中で、(全然効いていませんがそちらさん、大丈夫ですか)と言う意味を含んだ、「はい。」で返事をする。

 

 

 

そこからもう記憶がない。