「ふぅ~」

羽田からニューヨーク、JAL06便の、

14時間近くのフライトを終えて、

ヨシオは、JFK空港に降り立った。

 

入国審査のホールには、

各国の言葉で書かれた、

ウェルカムウォール。

中国語も韓国語もあるけど、

日本語はない、寂しい現実。

 

薄暗い到着口を出て、

エアトレインに乗ろうと、

出発ロビーへと向かう。

 

※JFK空港

 

天井の高い開放的な出発ロビー、

その中心部には星条旗が掲げられていて、

「またアメリカに来たな~~~」

そんな思いがこみあげてくる。

 

今回、3ヵ月ぶりのニューヨーク出張。

 

化学メーカー社員のヨシオ。

現地生産している自社製品の、

販売戦略の最終打ち合わせ。

 

画期的な新素材の商品化に成功。

新規事業を立ち上げたものの、

その後は、同業他社との競争激化で、

今は、レッドオーシャンの真っ只中。

 

なので、少し憂鬱。

 

円安で出張旅費も心細いし、

現地で楽しむ余裕なんてない。

 

ささやかな癒しは、

ニューヨーク到着前、

羽田空港の3タミの、

JALファーストクラスラウンジ

でいただいた、廻らないお寿司と、

機内での手厚いおもてなし。

 

以前なら、JFK空港に着いたら、

イエローキャブに乗って、

マンハッタンまで行ってたけど、

経費節約で地下鉄利用。

世知辛い世の中になったな~。

 

そんなことを思いながら、

エアトレインでジャマイカ駅まで行き、

そこで地下鉄のブルーラインに乗り換え。

 

※ニューヨーク地下鉄

 

今は、エアトレインや地下鉄も、

OMNYという、クレカで乗れる、

システムになって、超便利に。

 

だけど、システムは最先端なのに、

駅や車両は、レトロチック、

と言えば聞こえはいいけど、

薄汚れていて古めかしい、

そこは妙にアンバランス。

 

テレビで見るニューヨークは、

華やかなタイムズスクエアや、

ブランドショップの五番街を、

みんな想像しがちだけど、

地上の下の、この世界は、

少し殺伐とした感じがする。

 

・・・車両に乗り込むと、

とりあえずシートに腰を下ろした。

 

「はぁ~」

長旅って言っても、

機内で座っていただけだけど、

なんだかカラダが疲れている。

時差のせいもあるのかな。

 

目的地のPABT駅までは1時間弱。

※ポートソーソリティバスターミナル駅

 

「寝ちゃダメだ!寝ちゃダメだ!」

※碇シンジ風に(笑)

 

地下鉄は治安が悪くて、

たま~に銃乱射があったりもするので、

日本の電車みたいにうたた寝は厳禁。

カラダを休めてもココロは休めず、

みたいな。。。

 

と思いながらも、

ウトウトしかけたら、

 

「ヨシオ!」

と女性の声がした。

 

※ウェンディ(イメージ)

 

吸い込まれそうな、大きな瞳。

スパニッシュ系を思わせる、

エキゾチックな雰囲気漂う女性。

 

え~と、誰だっけな・・・。

 

あ、そうだ!

ニューヨーク滞在中に、

現地事務所のトムと、

よくランチを買いに行く、

デリのウェンディだ。

 

彼女、クイーンズに住んでるのか。

 

「ウェンディ久しぶりだね」

 

「覚えていてくれて嬉しい💖」

 

「そりゃ、モチのロンだよ」

 

「今日は、お昼寄ってくれる❓」

 

「今日は、無理かな」

「明日なら寄れると思う」

 

「わかった」

「明日、必ずよ」

 

「は~い」

 

ウェンディ、

トムのお気に入りだけど、

それ以上に、お店の看板娘。

大体、店に行く男の半分以上は、

ウェンディ目当て。

 

ちとセクシーな雰囲気もある彼女、

素敵な笑顔とホスピタリティあるし、

フーターズなら、いやどこでも、

ナンバーワンになれるだろうけど、

なぜか、地味なデリに勤めている。

 

もっとも、自分は、

東洋人だし、アウェイなんで、

全く縁がないと思っていた。

 

あの時までは。

 

地下鉄を降りて、

ホテルにチェックインし、

少し休んでから、

現地事務所に顔を出す。

 

今日は、顔出しだけ、

明日、打ち合わせして、

明後日には、デラウェアの工場に。

なんとか上層部が納得する、

プランをまとめなきゃいけない。

 

※トム(イメージ)

 

「待ってたよ」

現地事務所のトムが出迎えてくれた。

なんか、いつになく機嫌がイイ。

 

「トム、何かイイことあった❓」

上層部が喜ぶ作戦でも考えついたのか。

まさか、ビッグディールを掴んだのか。

 

気になる。

 

「わかるか❓」

 

「そりゃまあ」

 

「あれお前も知ってる」

「デリのウェンディいるだろ」

 

「ああ、そんな子いたね」

 

「今日は俺にやけに愛想よくてさ」

「しかもだよ」

 

「しかも❓」

 

「明日、休みなのに出勤するって」

「わざわざ、教えてくれたんだよ」

「これは、脈ありだろ~」

 

「ああ、そうかも知れないね」

「トムにも春がきたか」

 

「そ、そ」

「スプリングハズカムだ」

 

 

仕事の件、じゃなかった。

(苦笑)

 

でも、

トムの気持ちが軽くなれば、

仕事もはかどるかもしれないな。

 

ビッグディールが、

実現することを願おう。

 

※ヨシオ(イメージ)

 

それが、始まりだった。

 

 

(つづく)

 

※おことわり※

ヨシオの物語、

「蒼穹の向こう」

本来は、

「ニューヨークの歩き方」

※次回終了予定

の後に連載開始のハズでしたが、

ヨシオの強い要望により、

先行スタートさせます。

(笑)

なお、本作品は、

ヨシオの体験を下にした、

フィクションです。