主流派経済学の誤ちを暴き出す、MMTの「明示的財政ファイナンス」 | ナショナリズム・ルネサンス

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今回はMMTの中核的主張の一つ、「OMF(Overt Monetary Financing)」(日本語訳すると「明示的財政ファイナンス」)について説明します。

 

OMFとは何かと言うと、「国債発行や税によって裏付けられてない財政支出」になります。

ヘリコプターマネーと似ていますが、財政支出を強調している点、支出先が家計ではなく一般財源としている点でヘリマネと若干異なります。

 

このOMFが理解できれば、国債と準備預金の違いが明確になり、国債の役割を定義し直すことができます。

また、主流派経済学の誤ちを暴き出すこともできるのです。

ちょうど財務省がMMTの危険性を訴える資料を用意してくれたので、OMFの考え方でこの資料を批判してみましょう。

 

OMFが導き出す、国債と準備預金の違い

OMFによる政府支出の前に、まずは国債による政府支出を振り返ってみましょう。

ここでは統合政府で考え、企業Aに公共事業を代金を振り込むときの例を見てみましょう。

 

①統合政府は国債を発行し、銀行Bの準備預金と交換する

②統合政府は取得した準備預金を担保に政府小切手を発行して、企業Aに公共事業の代金を支払う

③企業Aは銀行Bに政府小切手を持ち込む

④政府小切手を受け取った銀行Bは、企業Aの口座に銀行預金を発行すると同時に、統合政府に政府小切手の支払いを要求する

⑤政府小切手を回収した統合政府は、銀行Bの口座に政府小切手と同額の準備預金を増やす

 

この結果、企業Aの銀行預金が増え、銀行Bは国債を入手します(準備預金はプラマイゼロ)。

つまり、財政支出によって民間資産が増加するのです。

政府支出による民間の資産増加は、②の段階で起きています。③④では民間内で資産の交換が行われただけです。

 

 

次に、OMFによる政府支出を見てみましょう。国債での例と同じ例で考えてみます。

 

①政府は政府短期証券を発行し、中央銀行から準備預金を受け取る(統合政府は準備預金を創造する)

②統合政府は準備預金を担保に政府小切手を発行して、企業Aに公共事業の代金を支払う

③企業Aは銀行Bに政府小切手を持ち込む

④政府小切手を受け取った銀行Bは、企業Aの口座に銀行預金を発行すると同時に、統合政府に政府小切手の支払いを要求する

⑤政府小切手を回収した統合政府は、銀行Bの口座に政府小切手と同額の準備預金を増やす

 

この結果、企業Aの銀行預金が増え、銀行Bの準備預金も同額増えます。

政府支出によって民間資産が増加するのは国債のときと同じです。

国債による政府支出とOMFによる政府支出を比較すると、銀行Bの国債が準備預金に変化したことが見て取れます。

国債も準備預金も、統合政府から見れば等しく負債です。国債と準備預金は同種のものなのです。

国債と準備預金の違いは利子の有無に他なりません。

 

 

OMFで財政支出すると、準備預金と銀行預金が同額増えることになりますが、ここで準備預金制度を考えてみましょう。

(日本における準備預金制度については、私の過去のエントリーを御覧ください。)

準備預金制度では新たに発生した銀行預金の極一部の額(現在の日本では約1%)を準備預金として日銀に預けるというものです。

そしてインターバンク市場(銀行間の準備預金の売買)での金利が、中央銀行の目指す政策金利となります。

したがって、準備預金と銀行預金が同額増えてしまうと大幅な金利低下圧力になります。

すなわち、財政支出それ自体は金利を低下させるのです。

 

国債発行による政府支出は、政府支出で産み出される準備預金と国債とを交換することで、銀行の準備預金額の変化をプラマイゼロにし、政府支出による大幅な金利低下圧力を僅かな金利上昇に変化させます。

また、中央銀行は国債を売買(買いオペ/売りオペ)することで、準備預金量を調整し、短期金利目標の達成を目指します。

つまり、国債の役割は金利調節なのです。

また、国債と準備預金の違いが金利ならば、国債は準備預金付利で代替できることがわかります。

つまり、原理的には国債は必須ではないのです。

国債を発行せずとも正常な経済運営が可能なのです。国債が嫌いなら発行しなくても良いのです。(国債不要論)


繰り返しますが、国債と準備預金の違いは利子の有無に他なりません。
この利子の有無は、我々の身近な銀行預金で例えることができます。

利子のある統合政府負債である国債は利子のある銀行負債である定期預金(または普通預金)に相当し、利子のない統合政府負債である準備預金は利子のない銀行負債である当座預金に相当します。

 

主流派経済学の誤ち

さて、さきほど国債を定期預金に、準備預金を当座預金に例えました。これは財政破綻論にとっては急所です。

銀行の定期預金が増えすぎてデフォルトするなんてありうるのでしょうか?

また、定期預金たる国債による破綻があるなら、当座預金たる準備預金による破綻だってあるはずです。

しかし、準備預金による破綻など、財政破綻論者からは聞いたこともありません。

 

冒頭の財務省資料のMMT批判は財務省自身はなにも批評せず、経済学者のMMT批判をコピペしているだけです。(ダサい・・・)

その経済学者のMMT批判もだいたい2つの理由に集約されています。

・MMTはハイパーインフレをもたらす

・財政赤字(債務)は金利上昇を招く

 

前者は置いておいて、後者は明確に間違いだということがOMFの議論からわかります。

財政赤字は金利上昇を招くのではなく、その逆に金利低下を招きます。

金利上昇は国債を発行したときに起きます。

国債発行による金利上昇が嫌ならばOMFを行うか、いま日銀がやっているように、既発債(既に発行されている国債)を買い取ればいいだけの話です。既発債の買取はOMFと同じ結果、すなわち準備預金の増加による金利低下圧力となります。

 

まとめ

OMFの知見を3行でまとめます。
・国債と準備預金はほとんど同種のもの。違いは金利だけ。国債は定期預金に、準備預金は当座預金に例えることができる。
・国債は経済運営に必ずしも必要ではない。別になくても良い。(国債不要論)

・財政支出自体は金利を上昇させるのではなく、むしろ金利を低下させる。

 

以上です。

 

(了)