私は雄二さんが脳出血で倒れて、半身不随になった事は以前は不幸なことだと思っていた。それまでの生活がガラガラと崩れ落ち、気楽に外出できなくなり、不自由になったと思っていたからだ。


けれど、不自由にはなったが、倒れる前より何かにつけて「ありがとう」と言ってもらえ、感謝されるようになった。食事のエプロンを外す時、お互いに「愛しています」と言い、ハグもしてくれる。私はそれまでよりも雄二さんの愛を強く感じ、それはここ何十年も私が欲しかった生活だったことに気がついた。


私はエプロンを外すとき「愛しています」に「幸せ」と言う言葉を添えてみた。ゆうじさんは無言だった。雄二さんにしてみれば車椅子生活になって、幸せだなんて思えなかったのだろう。

車を運転してどこへでも行っていた人だ。無理もない。


私は時々「愛しています。幸せ」と言うようになったが、雄二さんは「愛しています」と言ってくれるが、「幸せ」とは言ってくれなかった。


それがりんさんとのセッションで変わった。


りんさんは「あなたが車椅子生活になって、半身不随になっても、奥さんも子供たちも見捨てなかったでしょ?

あなたは「こんな体になって、みんなにどう思われるだろう」と思っているかもしれないけど、街ですれ違う独り身の男性は「あんな体になっても、あの人には支えてくれる優しい奥さんがいる。もし俺が車椅子になっても、誰も支えてくれない。俺は1人で、どうすればいいんだ」と思っているわよ」と泣きながら言ってくれた。


その言葉は雄二さんの心のど真ん中に届いたのだろう。その日の夕食の後エプロンを外す時、雄二さんから「愛しています。幸せだなあ」と言ってくれた。


その顔は心からほっとしているようだった。


そして私は「愛しています。幸せ」と答え、今までの何倍も幸せを感じたのだった。