私の母は脳梗塞を患ってから、よちよち歩きしか出来ない。
まるで、歩き始めの幼児のようである。
前から気になっていたのだが、
実家は外に洗濯機がある。
田舎には良くあることだ。
外に行く出口は40㎝の段差になっている。
下に踏み台を置いているが、結構高い。
母には大変そうである。
以前から親戚の方や近所の方に
「どうにかしてあげや…」
と言われていた。
今、この時がチャンスだと思い、父に了解を得て階段を作った。
5時間ほどかかって、ようやく上の段が出来た。
「ちょっと、これどう?」
母親に見せた。
当然、喜ぶと思っていたのだが、表情は曇っていた。
「これやと降りられへん…」
母がそう言った。
「いつもどうやって降りてるの?」
私は母に聞いた。
すると母は降りる動作をしてみせた。
「なるほどな…」
私は唖然となった。
本当に歩き始めの幼児の様に、一度床に座る。
それからお尻を滑らして、足を段差の前に出す。
そして、角に座る。
そう言えばそうなのである。
私は何度も目にしていたのだが、思い込んでいた。
『段差があるから座っていた…』
のだと思っていた。
実はそうではなかったのだ。
そうしないと降りられなかったのだ。
作る前に母に相談するべきであった。
私の想像力の欠如である。
それは、私だけではない。
周りにいる人全てが、気付いていなかったのだ。
介護される側に立つことは、本当に難しい。
だが、今回もいい体験が出来た。
これも、やらなければわからなかった事である。
何より、作っている時間は楽しかった。
しかし、出来た台の行き場所だけは、まだ未定である。