明慧はすぐに、その波動に気付いた。
「佐伯様…?」
「あなた…なの?」
桔梗は涙を堪えて待っていた。
「あれは…」
その光の主を明慧は知っている。
それを母である桔梗は、あなたと言った。

「母上…」
明慧は桔梗を見た。
「あれは、あなたの父上です…」
桔梗はそう答えた。
「ああ…」
明慧は泣いた。
自然と涙が溢れた。
その心を…
感じていたのに…
その温かい眼差しを…
感じていたのに…
目は見えなくとも…
感じていた…
だが、気づけなかった…
「父上が…」
その、自らの愚かさに…
明慧は泣いていた。
「慧鎮様…」
それは、紛れもなく慧鎮であった。
触れ合う三つの光。
触れた瞬間、溶け合った。
そして、また別れた。
そこに時間は存在しない。
永遠のようにも、一瞬のようにも見える。
「なぜ、今まで…」
明慧は泣いていた。
「それは、私の願いなのです…」
桔梗が慧鎮を見ていた。
「母上の願い…」
「強く生きて欲しい…そう願ったのです…」
「だから…一人でも生きられるように…」
「すまなかった…」
「もう…いいのです…」
明慧は言った。
「全てが分かったのですから…」
「それに、今の私は十分幸せです」
明慧の心は、晴れていた。
三つの光が寄り添っている。
その後ろに、大いなる光が見守っている。
「母上の願いは叶いましたか?」
「私は、強くなりましたか?」
明慧は桔梗に尋ねた。
「ええ、十分に…あなたは強くなりました」
愛しい我が子を見つめる母の心…
その愛しさと引き替えに、我が子を突き放す母の心…
その尊い心に違いはない。
「あなた、これからも明慧を…」
桔梗の光が小さくなる。
「わかった…」
慧鎮はそれだけ答えた。
「これからは、いつでも会える…」
「あの方は…私達の光…」
桔梗の心が明慧に触れた。
「母上!」
明慧が叫んだ。
大いなる光に包まれ、桔梗は消えた。
慧鎮が目を開けた。
涙が着物を濡らしていた。
「真魚殿…ありがとうございました…」
慧鎮は、それだけ言うのが精一杯であった。
そして、両手で顔を塞いだ。
真魚は立ち上がり宿坊を出た。
慧鎮の涙の終わりは、誰も知らなかった。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-