ぴ~っ!ぴ~っ!
船の上で、聡真が指笛を吹いた。
いつもなら九が現れるはずであるが、姿を見せない。

「おかしいな…九の奴…」
聡真が、意識を広げ、九の気配を探ってみた。
だが、その気配も無い。
「何か…あったのか…」
聡真の心に不安が渦巻く。
「九は、来ないのか?」
父が、聡真の不安を感じている。
「仕方ない奴だ…」
九のことか、聡真のことか…
「九なしで仕掛けるか…」
父の万次は、そう決心したようだ。
「そうだね…」
聡真はそう言ったが、心は晴れなかった。
『何かがおかしい…』
聡真は不安を感じていた。
らん、らん、らん♪子犬のらん~♩
那海が、うれしそうに鼻歌を歌っていた。
仕事を放りだして、弦の小屋に向かっている。
「あれっ?」
那海が、波打ち際にいる真魚を見つけた。
側に嵐もいるようだ。
「あんな所で…何しているんだろう?」
那海の足が速くなった。
動き始めた心、好奇心。
真魚達といると、違う自分になれるような気がしていた。
「あれっ?」
近くまで行くと、あるものが目にとまった。
「九?」
「あんた、どうかしたの?」
那海は思わず声を上げた。
「誰かに、傷つけられたようだ…」
真魚が、那海にその事を告げた。
「えっ!」
那海は驚いて、九の身体を見た。
背中に大きな傷痕があった。
「大丈夫なの?」
那海は九を心配していた。
「あんなものとか言っておったくせに、心変わりか…」
嵐が、那海の心を見抜いていた。
「心配して何が悪いのよ、人は変わるものよ!」
那海が嵐を睨み付けた。
「良き事じゃ…」
「人は、変われるように、創られておるからな…」
嵐が、そう言って笑っている。
那海の言葉を、嵐は受け入れていた。
「九の身体は心配ない…問題は誰に切られたかということだ…」
真魚が二人の会話の中に入ってきた。
「那海に一つ確かめたいことがある…」
「何?確かめたいことって…」
那海は少し不安になった。
その波動が広がっている。
「この辺りの者は、夜に漁をするのか?」
「夜はやらないと思う…だって危ないもの…」
「この辺りは、見えない岩が沢山あるのよ…」
船を岩にぶつけたら、それで終わりだ、
大切な船も漁具も海に沈む。
「昨日の夜、この沖で光を見た…」
「心当たりはあるか…」
真魚が那海に言った。
その問いかけに、那海の顔色が変わった。
「分からないけど…ひょっとして…」
那海はその考えを、懸命に否定しようとしている。
「あるのか…何か」
真魚が、その答えを求めていた。
「夜に動くとすれば…」
那海が戸惑っている。
「海賊か、盗賊…」
真魚が先に答えを言った。
「…」
那海がその答えに頷いた。
「海賊じゃと…海賊が九を…」
嵐が、何かを導き出そうとしている。
「もし、そうだとしても…その理由が分からない…」
真魚がその先を考えている。
「何故、九を切る必要があったのか…」
その理由が、分からなかった。
「お主、また良からぬ事を考えておるな!」
嵐が、真魚の波動を感じている。
真魚が、笑みを浮かべていた。
「懲りん奴だ…」
嵐が呆れていた。
「少し…調べてみる必要があるかもな…」
真魚がそう言って、沖を見ていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-