空の宇珠 海の渦 外伝 魂の器 その十一 | 空の宇珠 海の渦 

空の宇珠 海の渦 

-そらのうず うみのうず-
空海の小説と宇宙のお話






ぴ~っ!ぴ~っ!
 

船の上で、聡真が指笛を吹いた。
 

いつもなら九が現れるはずであるが、姿を見せない。
 


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「おかしいな…九の奴…」
 

聡真が、意識を広げ、九の気配を探ってみた。
 


だが、その気配も無い。



「何か…あったのか…」


聡真の心に不安が渦巻く。
 


「九は、来ないのか?」
 

父が、聡真の不安を感じている。
 


「仕方ない奴だ…」
 

九のことか、聡真のことか…
 


「九なしで仕掛けるか…」 
 

父の万次は、そう決心したようだ。
 


「そうだね…」

 
聡真はそう言ったが、心は晴れなかった。
 


『何かがおかしい…』
 

聡真は不安を感じていた。
 





 
らん、らん、らん♪子犬のらん~♩
 

那海が、うれしそうに鼻歌を歌っていた。
 


仕事を放りだして、弦の小屋に向かっている。
 


「あれっ?」

 
那海が、波打ち際にいる真魚を見つけた。
 

側に嵐もいるようだ。
 


「あんな所で…何しているんだろう?」


那海の足が速くなった。


 
動き始めた心、好奇心。
 


真魚達といると、違う自分になれるような気がしていた。
 


「あれっ?」 
 

近くまで行くと、あるものが目にとまった。
 


「九?」
 

「あんた、どうかしたの?」
 

那海は思わず声を上げた。
 


「誰かに、傷つけられたようだ…」
 

真魚が、那海にその事を告げた。
 


「えっ!」
 

那海は驚いて、九の身体を見た。
 

背中に大きな傷痕があった。
 


「大丈夫なの?」
 

那海は九を心配していた。
 

「あんなものとか言っておったくせに、心変わりか…」
 

嵐が、那海の心を見抜いていた。
 


「心配して何が悪いのよ、人は変わるものよ!」
 

那海が嵐を睨み付けた。
 

「良き事じゃ…」


「人は、変われるように、創られておるからな…」
 

嵐が、そう言って笑っている。



那海の言葉を、嵐は受け入れていた。
 


「九の身体は心配ない…問題は誰に切られたかということだ…」
 

真魚が二人の会話の中に入ってきた。
 


「那海に一つ確かめたいことがある…」
 


「何?確かめたいことって…」
 

那海は少し不安になった。
 

その波動が広がっている。
 


「この辺りの者は、夜に漁をするのか?」
 


「夜はやらないと思う…だって危ないもの…」
 

「この辺りは、見えない岩が沢山あるのよ…」

 
船を岩にぶつけたら、それで終わりだ、
 

大切な船も漁具も海に沈む。
 


「昨日の夜、この沖で光を見た…」
 

「心当たりはあるか…」
 

真魚が那海に言った。
 

その問いかけに、那海の顔色が変わった。
 

「分からないけど…ひょっとして…」


那海はその考えを、懸命に否定しようとしている。
 

「あるのか…何か」
 

真魚が、その答えを求めていた。
 


「夜に動くとすれば…」


那海が戸惑っている。



「海賊か、盗賊…」


真魚が先に答えを言った。
 

「…」

那海がその答えに頷いた。




「海賊じゃと…海賊が九を…」
 

嵐が、何かを導き出そうとしている。
 


「もし、そうだとしても…その理由が分からない…」

 
真魚がその先を考えている。



「何故、九を切る必要があったのか…」
 

その理由が、分からなかった。
 


「お主、また良からぬ事を考えておるな!」
 

嵐が、真魚の波動を感じている。
 


真魚が、笑みを浮かべていた。
 


「懲りん奴だ…」
 

嵐が呆れていた。
 


「少し…調べてみる必要があるかもな…」 


真魚がそう言って、沖を見ていた。 




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続く…

-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
    実在の人物・団体とは一切関係ありません-